【BIM2021】新菱冷熱工業 つながるBIMで価値共有 | 建設通信新聞Digital

5月3日 金曜日

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【BIM2021】新菱冷熱工業 つながるBIMで価値共有

 新菱冷熱工業が、つくば市に建設する中央研究所プロジェクトを「つながるBIM」の先導プロジェクトに位置付け、BIM導入の新たなステージに踏み込もうとしている。BIM推進室の谷内秀敬副室長は「BIMを通じてプロジェクト関係者が密接につながり、価値共有を進める枠組みをこのプロジェクトで提示したい」と強調する。同社の掲げる「つながるBIM」の方向性を、谷内氏に聞いた。

谷内氏


 設備工事業の中でも先行するように1990年代から3次元設計を取り入れてきた同社は2013年からオートデスクのBIMソフト『Revit』を本格導入し、着実にBIMへの対応力を引き上げてきた。20年10月にはBIM推進室を発足し、並行して各拠点にBIM担当も配置するとともに、オートデスクのクラウドサービス『BIM360』を軸とした情報共有の枠組みも整えた。現在のRevitライセンス数は100を超え、BIM360のアカウント数は数百にもなる。

 取引先の設計事務所やゼネコンにおけるBIM導入が拡大する中、同社のBIM導入率は右肩上がりに推移するものの、現在はまだ受注プロジェクトの一部にとどまる。「3次元の可視化はBIMでない。BIMの中にある情報をプロジェクト関係者が共有することが、本当のBIMであるだけに導入状況としてはまだ少ないのが現状。建設業界でのBIM導入が進展するのは明らか。今後着実に拡大していくはずだ」と見通す。

 同社の掲げる「つながるBIM」は、プロジェクト関係者が生産プロセスの中でBIMの情報を共有し合うことを前提にしている。野城智也東大生産技術研究所教授が代表幹事を務めた「BIMによる建築生産イノベーションに関する特別研究会(RC-90)」が17年に示した提言『つなぐBIM』の考え方に基づいている。

BIMの中にある情報を関係者が共有


 同社も研究会に参加し、谷内氏らがBIM導入の重要テーマとして、社内に呼びかけてきた。つなぐ相手は設計から施工、維持管理の関係者まで多岐にわたり、その効果を最大限に引き出すためには、誰もが情報を共有できる枠組みが必要になる。「まさにBIMは建築主、さらには社会の価値を高める手段である」と説明してきた。

 日常業務では、施工図作成から工場加工という流れの中で、BIMの情報を関係者が効果的に共有できるよう、配管やダクトの工場製作に必要な寸法情報などを盛り込んだBIMパーツのオブジェクトデータ「Item」を活用している。配管やダクトのモデリング情報が工場製作につながる流れが、生産性向上の基盤になっている。

 中間ファイルデータ形式「IFC」とRevitのデータを「判断材料の根拠」とし、作業の自動化を実現することによって、労力の削減や現場における労働不足を補う。「工場にとっては切出材の効率化も実現できている」と付け加える。

工場では切出材の効率化が実現


 つくば市に建設する中央研究所はS造3階建て延べ約5000㎡。同社は建築主であるとともに、空調工事も担う。「つながるBIM」を検証する先導プロジェクトとして位置付け、設計者、建築工事、電気工事、衛生工事などプロジェクト関係者とBIMを軸に密接につながる方針で、建設段階から運用段階も見据えた維持管理BIMに挑む。20年度に国土交通省が公募したBIM活用の建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業にも採択された。

 研究本館の計画に当たっては、CDE(共有データ環境)を実現するため、プロジェクト関係者全員がBIM360を軸に情報共有している。設計内容をリアルタイムに関係者間で共有しており、建築コスト算出の工数は従来に比べ26%もの削減効果も得た。実施設計段階では設計から施工にBIMを円滑につなげるための施工技術コンサルティングの枠組みについても分析し、フロントローディングの効果についても検証する計画だ。

 つながるBIMでは、次工程へリアルタイムに情報が流れる。谷内氏は「一緒に働く仲間がBIMを通じてつながり合えば、仕事へのやりがいも共有でき、チームとして社会貢献できているという意識も芽生える。そうなれば、作り手としても、使い手としても、つながるBIMの価値を見いだしていける」と力を込める。



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