少子高齢化や年齢構成の偏在が建設業を含む多くの産業の課題となる中で、各社は若手人材の即戦力化に取り組んでいる。だが、「技術者の育成はOJT(職場内訓練)に頼る部分が大きい上、多様な現場がある中で全員が全て必要なことを学べるわけでもなく、OFF-JT(職場外訓練)も課題」とする中で、座学を中心とした研修を繰り返しつつOJTに多くを委ねるだけでは社会・人材の多様化に対応できない。こうして「一人前になった後も大切ではないか」と認識するようになり、「一人ひとりが生涯を通じて常に自らをアップグレードする必要がある」という“気付き”を促す育成スタイルを目指すことにした。
人は経験を積むほど、希望する進路も千差万別になる。特に現場は、閉ざされた特定の人としか接しない空間になりがちで、ほかの同僚がどのような道を歩んでいるかも見えづらい。だからこそ、「会社から研修メニューを与えるのではなく、多様なキャリアの情報を提供しながら、個人と会社が課題認識を共有し、必要な学びの場をつくる」という取り組みを始めることにした。
“幕の内弁当型”から“ビュッフェ型”へと転換
これまでは「キャリアは会社から与えられるものと思っていた人も少なくない。自分のキャリアについて社内で話し合う雰囲気も少なかった」(白山有紗子人事部企画グループ課長代理)という。このため、「まずはどういうキャリアがあるか知ってもらえるよう、さまざまな部署の社員が自身のキャリア観や経験を話す座談会を開いた。それが望むキャリアに向けて動き出すきっかけになる」と狙いを語る。多様なキャリア情報の提供とあわせて「自身のキャリアにとって必要な研修と希望する研修を、描くキャリアに応じて選べるようにする」。これにより、タレントマネジメントシステムが“学びのプラットフォーム”となり、人材育成システムがいわば“幕の内弁当型”から“ビュッフェ型”へと転換していく。
コロナ禍により研修のあり方も変化している。「集まるべき時と集まらなくても良い時の最適ミックスを模索し始めている」(北野グループ長)と、メリハリを付けた研修体制を目指す。リアルでの研修拠点として整備したのが、東京都豊島区の「KX-LAB」だ。自らのキャリアに必要と考える研修に参加して学んだことを実践で生かしたり、KX-LABでの新規事業創発イベントで発表したりする。ディスカッションやコミュニケーションが重要な研修以外は「オンデマンドで対応したい」と考える。
この人材育成システムの最も重要なかぎを握るのが、気付きと学び、実践というサイクルの回転だ。2020年度からは『キャリア目標登録制度』を開始した。「直近の仕事の満足度だけでなく、5-10年後に自分がどうありたいかを描き、上司と共有する」。この取り組みにより、「目標を設定することで、何を自己研さんすべきか気づいてもらいたい」という。今後は「登録した目標と、目標に向けて必要なステップごとの研修プログラムをひも付ける方向で検討している」と明かす。
「会社が提供する研修を受け身で学ぶのではなく、自分事として学び、上司が伴走する」というスタイルを円滑に回すためには、マネジャーに「多様な部下の存在を認識して接すること」が求められる。そのリーダーの育成拠点となるのもKX-LABだ。不透明・不確実な時代に突入し、突然の“ゲームチェンジ”に対応する必要がある。それには「マネジャー層であるほど意識の転換が必要」で、マネジャー層が変革してこそ新たな人材育成が機能する。経験を積んだ人材の学び直しのあり方とそのサポート方法、若い人材に上司として多様な道を示せるような上司向けの多様なキャリアの情報提供などが求められる。今後の課題も多いが「マネジャー層にこそ自らをトランスフォームしてもらい、会社ぐるみで組織を一緒に変革していきたい」と期待を寄せる。