【i-Con2022⑧】インタビュー 東京大学大学院工学系研究科特任教授 小澤一雅氏 | 建設通信新聞Digital

5月7日 火曜日

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【i-Con2022⑧】インタビュー 東京大学大学院工学系研究科特任教授 小澤一雅氏

【3段階のDXで業務変革を実現/共通のデータプラットフォーム構築/いいものを誰もが使える環境を整備】
 国土交通省は、建設現場の生産性向上を目指すi-Constructionの取り組みを発展し、インフラ整備に関わる業務全般を対象にした「インフラ分野のDX」を進めている。これまでのICT施工に加え、新型コロナウイルス感染症対策の非接触・リモート化の推進、2023年度のBIM/CIM原則化など、建設業が技術革新のターニングポイントを迎える中、東京大学大学院i-Constructionシステム学寄付講座を主宰する小澤一雅東大大学院特任教授に、新技術活用のポイントや人材育成の在り方を聞いた。


――インフラ分野のDXを進める上でポイントになることは

 「デジタル技術などの新技術を多くの人が使いこなせるようになるには、道具や技術、人や組織、制度や仕組みなどさまざまな分野の取り組みが必要です。ただ単に道具が変われば世の中や社会がすぐに変わるわけではありません。組織の在り方や制度などを含めて、社会をいい方向に変えるために何が必要かを考えることが重要です」

◆あり方懇談会で何をすべきか議論

 「そもそも公共工事は発注者の役割が大きいため、行政が動かなければ現場も変われません。そのため、国交省は『発注者責任を果たすための今後の建設生産・管理システムのあり方に関する懇談会』を設置し、制度として何をすべきか議論しています。その中で、どうデジタルデータをマネジメントすれば自分たちの仕事や、そこから生み出すインフラサービスを良くできるかを検討しています」

 「これまでのIT化推進における数多くの経験から学び、上手に業務プロセスを変革できるよう考えることがポイントになるでしょう」

――建設業界がDXを円滑に進める上で必要なことは

 「インフラ分野のDXを推進するには、 霞ヶ関の本省だけでなく、地方整備局や工事事務所の個々の現場担当者など、 いろいろなレベルで取り組みを行うことが必要になります」

◆それぞれの立場で考えること重要

 「同じように、産業界もゼネコンや建設コンサルタント、測量会社、地質調査会社、建設機械メーカーなど関係者がそれぞれの立場で考えることが重要です。さらに、建設業界が使いやすいアプリやシステムを開発するには、IT系のメーカーやベンダー、アプリを開発するスタートアップにも頑張ってもらわなければなりません。関係者がそれぞれの立場で考えるのと同時に、同じ方向に進めるかどうかがポイントになります」

 「一方、DXには3つの段階があります。まずデータを瞬時に共有したり伝送するため、アナログ情報をデジタル化する『デジタイゼーション』が最初のステップになります。2つ目が、ビジネスモデルや仕事のやり方そのものを変える『デジタライゼーション』です。例えば、レンタルビデオのサービスは、昔はDVDなどを店舗でレンタルしましたが、現在はオンデマンドで配信可能なため、店舗に行く必要がなくなりました。同じサービスが異なる形態で提供され、より便利になっていると言えます」

 「最後の3つ目が、会社や組織、仕事のプロセス、働く人の意識、価値観、文化などの変革です。ここまで来てようやくDX(デジタルトランスフォーメーション)が実現されます。ICT技術の進展により、社会全体がこの方向に進んでいて、建設業も取り残されないことが大切です」

――こうした中、i-Constructionシステム学寄付講座ではどのような取り組みを進めていますか

 「18年10月に設立されたi-Constructionシステム学寄付講座は、 21年10月から第II期を開始し、建設産業全体のDX推進に必要な次の課題に取り組んでいます」

◆フィジカル空間とサイバー空間つなぐ

 「1つ目が『協調領域の共同開発』で、データ・システム連携基盤というプラットフォームの構築に取り組んでいます。2つ目が『ソフトインフラの整備』であり、データ・デジタル技術を活用するためのマネジメントポリシーの策定を通じたデータ活用のルール化や仕組みづくりを検討しています。3つ目が次々と生まれる新技術やアプリが建設事業で使いやすいよう、既存の『技術基準体系を再構築』するとともに、アプリで生成したデータを関係者が信頼して使えるよう『アプリの認証制度』の構築を考えています」

 「このうち、協調領域の開発では、フィジカル空間となる現場と、クラウド上のサイバー空間(デジタルツイン)をつなぐデータ・システム連携基盤(プラットフォーム)の構築を進めています」

 「現場で得られる情報をデジタルデータ化し、それらを組み合わせて3次元モデルを作成し、サイバー空間上で設計、施工や維持管理手法の検討を行います。その結果を現場にフィードバックするのですが、このフィジカル空間とサイバー空間の間でさまざまなデータを連携するのがプラットフォームの役割となります」

 「また個々のデバイスやアプリは競争領域として個社で開発したり、デバイスのメーカーやアプリのベンダーが開発したりしますが、それらをオーソライズするための基準や認証するための仕組みを協調領域として整備する必要があります。基準やルールに合わせて開発してもらうことで、いいものを誰でも使える環境を整備することができます」

――これからの人材育成に必要なことは

 「サイバー空間で解析、予測、評価などができるようになっても、本当に大事にしなければいけないのはフィジカル空間の現場です。BIM/CIMやICTをどれぐらい使ったかが目的ではなく、現実の仕事が、造られるインフラが、提供されるサービスがどれだけ良くなるかが大切です」

◆既存の産業側にもIT人材が必要

 「それには、システムを注文する側にも専門的にコミュニケーションを取れるIT人材がいないといけません。海外ではIT産業と比較して既存の産業側にも多くのIT人材がいるようですが、日本では圧倒的にIT産業側に偏っています。IT人材の採用や人材の流動化の促進も必要ですし、IT人材をCM的に活用することも考えられるでしょう。建設産業内のリスキリングを通してITが分かる土木人材の育成も考える必要があるでしょう」

――今後の生産性向上の目標達成に向けたポイントは

 「i-Constructionは、建設業界の人手不足を出発点に、生産性向上を目標にしているため、現場の省人化と生産性向上を達成しないと根本的な問題が解決しません。最先端の取り組みを進める大手ゼネコンも、自身の職員の生産性向上が中心になるため、これからは現場で働く技能労働者の生産性向上や省人化を考えることがポイントになります」

 「寄付講座では、生産性10倍を目標に掲げ、データ・システム連携基盤というプラットフォームを活用して、新しい構造形式や施工方法の開発とその実現に向けて具体的な研究を進めていきたいと思います」



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