【i-Con2024⑪】東京大学大学院工学系研究科特任教授 小澤一雅氏に聞く | 建設通信新聞Digital

5月4日 土曜日

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【i-Con2024⑪】東京大学大学院工学系研究科特任教授 小澤一雅氏に聞く

【i-Constructionシステム学寄付講座のインフラデータプラットフォーム/建設業界の共通データ環境を実現/建設とICTの専門知を融合/スタートアップエコシステムの実現を目指す】

 ICT施工やBIM/CIMなどインフラ分野のDXが拡大し、3次元モデル、点群、地盤、地図など多種多様なデータが建設生産システムの各段階で生成されている。東京大学大学院工学系研究科i-Constructionシステム学寄付講座(主宰・小澤一雅東大大学院工学系研究科特任教授)は、それらの大量のデータを高速かつ自動でつなぎ、建設業界の誰もが利用できる協調領域のシステムとして『インフラデータプラットフォーム』の社会実装に向けた検討を進めている。小澤特任教授にインフラデータの活用による建設生産システムの今後を展望してもらった。

小澤一雅氏

――インフラデータプラットフォームはどのようなシステムになりますか

 建設業界のあらゆる領域で生成するデジタルデータが流通し、さまざまな人が活用できる建設生産システムの実現を目指しています。寄付講座の協調領域検討会で共通プラットフォームの社会実装のための検討を進めています。

 既に地図や地盤などの国土に関するデータ、インフラ施設の維持管理データや業務・工事などのインフラ事業データなどを活用しやすいデータベースとして構築する動きが始まっています。さまざまなデータを連携して活用するため、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期の取り組みの一つで分野間データ連携基盤の開発などが行われたり、日本建設情報総合センター(JACIC)やビルディングスマート・ジャパン(bSJ)などでもデータの標準化やデータ変換の標準化の議論が進められています。共通データ環境として、これらの整備を行うことでデータを効率的に流通させることができます。

 これまでユースケースを通して寄付講座で実施してきたデータ連携の技術的検討に基づき、共通データプラットフォームの開発運営体制、制度・仕組みの検討を進めるため、協調領域検討会のプロセス間連携ワーキンググループ(WG)の中に、「基盤の運営検討サブWG」を昨年4月に立ち上げました。

 現在、情報通信分野の専門家にも参加いただき、データ連携の技術的検討を実施してきた施工WGのメンバーが中心となり、いくつかのシナリオを立てて体制や仕組みの議論をしています。建設の専門知とプラットフォームや情報通信の専門知を融合させ、ビジネスモデルを含めた運営手法も論点の一つとし、どのような体制で運営していくのかを検討しています。24年度には社会実装に向けて活動を前進させたいと考えており、その原案を3月8日に開催する第3回協調領域シンポジウムで発表したいと思います。

――寄付講座の今後の活動の中での位置づけは

 デジタル社会の三種のインフラとして、「フィジカル(現実)空間」「情報通信基盤」「サイバー空間(デジタルツイン)」の三つの階層が重要です。そのうち、ベースとなる建設現場などの「フィジカル(現実)空間」では、データ収集や機械・システムの制御などを行います。この領域では、競争領域として各企業やメーカーが技術開発を進めます。ここで生み出された情報やデータを誰もが使えるように転換するのが、その上に位置する協調領域の「情報通信基盤」です。これが共通データプラットフォームの役割です。協調領域検討会で検討された成果に基づき、寄付講座から独立した事業として関係者の合意の下で運営し、建設産業で働く人たちに役立つシステムとして独り立ちさせたいと思います。

 寄付講座では、その他にも研究開発、教育の場として新しい技術や機能をどんどん生み出したいと思います。競争領域の分野でも現場の課題やニーズに対応するため、民間企業と共同研究し、成果を業界に還元します。今年度は12のプロジェクトを進めています。

 例えば「アスファルト混合物の品質管理試験の合理化と信頼性確保のためのブロックチェーン技術」では、共同研究を行う大林道路が自社で使うためのシステム開発に取り組んでいますが、研究成果は公表し、コアとなる技術を誰もが使えるようにします。具体的には、品質管理データの改ざんは企業の信頼を揺るがすため、ブロックチェーンが品質管理におけるデータの信頼を担保する仕組みになることが期待されます。デジタル技術の活用により新しい品質管理システムを構築し、無駄を省き、歩留まりを上げ、経済性を高めることも企業にとって大きなメリットになるでしょう。

 今年度に始めた「下水道施設の改築・更新需要増進に伴う計画・設計業務の高度化・省力化に資するデータプラットフォームの開発」では、パシフィックコンサルタンツと共同研究を進める中で、行政職員の引き継ぎ作業の効率化というテーマにたどり着きました。行政の職員は2、3年で部署が変わるため、限られた時間で行う引き継ぎ作業が大変になります。AIなどを活用して働く環境を変革する新たな仕組みに挑戦しています。これができれば、下水道事業に限らず、産休や育休を自由に取得したり、欧米のように長い休暇を取得したりする可能性も広がります。

――人材育成の取り組みについては

 寄付講座では、19年度からi-Constructionシステム学特論、21年度から実践スキルの獲得に向けた特別演習を社会基盤学専攻と精密工学専攻の学生を対象に実施しています。そのための教科書も発刊しました。また、ICT教育を全国の大学や高等専門学校にも広めるため、土木学会にICT特別委員会(委員長=蒔苗耕司宮城大学教授)が昨年5月に設置され、ICT施工やBIM/CIMなどのICT教育を行う知識体系とスキルの獲得方法を整理し、学校教育と実務者のリスキリングの2本立てで検討を進めています。

 東大以外でもいろいろな先生がICT教育に個別に取り組まれているため、大学や高専にアンケートしてそれらの事例を収集し、学会を通して共有することが検討されています。産業界の底上げも重要であり、支部を通じて現場で役立つ技術を学ぶ機会を作ることも期待されています。

 地方整備局には全国13カ所にi-Constructionモデル事務所が設置されています。「モデル事業」ではなく「モデル事務所」にすることで、単体で終わる一過性の事業でなく、一つの事業が終わっても常にモデル事業に取り組み続ける環境が期待できます。そうすることでノウハウが蓄積し、働き方そのものを変えることが可能になります。モデル事務所の現場では受発注者が継続して新技術に取り組んでいるため、ここから新しい仕事のやり方が広がってほしいと思います。

――技術開発の鍵を握るスタートアップ企業をどのように支援しますか

 昨年10月に開いた寄付講座の成果報告会で、大手ゼネコンと国交省、スタートアップ企業によるパネルディスカッションを開きました。こうした取り組みを継続するため、建設系スタートアップの創業や育成を目指す「スタートアップワークショップ」を立ち上げ、23日に最初のウェブセミナーを開きました。

 あまりなじみのない人のために、スタートアップとは何かというところから説明を始め、最終的には建設系スタートアップを育成する仕組みや体制づくりを考えるパネルディスカッションを行いました。特に土木分野の建設系スタートアップが育ち、業界のニーズに合ったサービスを次々に生み出される環境、スタートアップエコシステムを実現したいと思います。

――寄付講座の今後の目標を教えてください

 当初から掲げてきた「生産性10倍」の目標を実現できるようにしていきたいと思います。それには技術開発を促進する体制強化と、制度インフラを再構築し、新技術などを使いやすくすることが大きなテーマになります。

 例えば、フロントローディングを生かしやすい事業執行・契約システムにする必要があります。現在は設計と施工間でECI方式を導入していますが、海外では維持管理段階も含めるなどニーズに応じてさまざまな取り組みがなされています。設計と施工だけではなく、フロントローディングのために初期段階から作り込めるようにするため、どのようなやり方であれば実現できるのか検討したいと思います。

 そのほかにも、新しいデバイスやロボットが次々に開発されることが想定されるため、その都度要領や基準をつくる必要のないシステムがあると便利でしょう。従来と同じことができるのであれば新しいツールの認証制度の構築も有効だと思います。新しい技術基準の体系化を含め、制度や社会基盤システムの再構築を考える必要があります。

 特に2024年問題が目前に迫り、限られた勤務時間を有効活用することが求められています。その中で新しい技術で省力化を図り、本来の仕事に打ち込める環境を作り出すことが重要です。建設業はつらい仕事だけではなく、本当はクリエイティブな仕事であることを若い人たちに伝え、できあがったものが社会に役立つ魅力を知ってもらうことで、建設業への関心を高めてもらいたいと思います。



◆3月8日に第3回協調領域シンポ
 東京大学i-Construction寄付講座は、3月8日午後2時から、第3回協調領域シンポジウムをオンラインで開く。

 インフラデータプラットフォームの構築などインフラ産業全体の共通システムの実現を目指す協調領域検討会における2023年度の取り組み成果を発表するもので、今年度に設置した「基盤運営検討サブワーキンググループ(WG)」「BIM/CIMを活用したデータ連携サブWG」の活動成果も報告する。

 基調講演は、森下博之国土交通省官房参事官(イノベーション)が「国土交通省におけるi-Construction/DX推進のための取組み(仮)」をテーマに講演する。小澤一雅東京大学大学院工学系研究科特任教授による「協調領域検討会の活動概要」の紹介に続いて、設計WG(小沼恵太郎リーダー)、施工WG(小島英郷リーダー)、維持管理WG(和田卓リーダー)、プロセス間連携WG(土橋浩BIM/CIMを活用したデータ連携サブWGリーダー、宮崎文平基盤運営検討サブWGリーダー)の四つのワーキンググループで進めてきた1年の検討成果を発表する。

 参加申込みは、寄付講座ホームページ(http://www.i-con.t.u-tokyo.ac.jp/)で2月上旬から受付予定。



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