【i-Con2023④】協調領域の検討本格化 インフラ分野DXの今後の展望とは | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【i-Con2023④】協調領域の検討本格化 インフラ分野DXの今後の展望とは

 東京大学i-Constructionシステム学寄付講座(主宰・小澤一雅東京大学工学系研究科特任教授)は、インフラデータの活用を建設業界全体に加速させるとともに、スタートアップなどの革新的技術開発を促す市場形成も見据えた共通の情報通信基盤システム(インフラデータプラットフォーム)の実装に向けて検討を本格化する。「デジタル社会の進展により、フィジカル空間(現実世界)、サイバー空間(デジタルツイン)、その間をつなぐ情報通信基盤の3種のインフラ整備が建設業に求められる」と話す小澤特任教授に、寄付講座の最新動向とインフラ分野のDXの今後を展望してもらった。

東京大学工学系研究科総合研究機構
i-Constructionシステム学寄付講座特任教授
小澤 一雅氏

――現在の寄付講座の推進体制や活動のポイントを教えてください

 「2018年10月に設立したi-Constructionシステム学寄付講座はII期の2年目に入りました。『生産性10倍以上』『誰もが働きやすい現場の実現』を目指した建設生産・管理システムの変革という目標は変わりませんが、インフラの調査・計画、設計、施工、管理運営の各段階で必要なデータを抽出し、利活用を促進するため、I期で開発を進めてきた情報通信基盤システムの社会実装を推進するのがII期の活動のポイントです」
 「それには協調領域と競争領域を明確にして、協調領域としての情報通信基盤システムを開発するための技術的課題、保守運用を含めて使いやすいシステムに必要な運営体制の在り方、持続可能な仕組みの構築に向けた資金調達や事業主体の選定といった多様な観点から検討を進め、全体としての大きな枠組みを決める必要があります。i-Constructionの推進を加速するには、限られた資源を有効活用して技術開発を促進させる共通の情報通信基盤システムの整備に着手したいと思います」
 「具体的に検討を進めるため、22年2月に『協調領域検討会』を寄付講座内に立ち上げました。検討する範囲が広いため、設計(事務局=建設コンサルタンツ協会)、施工(同=日本建設業連合会)、維持管理(同=国土交通省)の3つのワーキングを設置し、それぞれが検討を進めた上で、寄付講座が事務局を務める全体会議で共有しながら活動を進めています。3月10日にシンポジウムをオンライン開催し、1年の成果を発表するとともに来年度の推進体制やスケジュールを示す予定です」

――情報通信基盤システム開発の動向は

 「建設業界のみんなが合意したプラットフォームを協調領域として整備することで開発投資の重複を防ぎ、競争領域の開発を促進させることができるだけでなく、取得したデータや開発したアプリを相互に利用しやすくなります。例えば、土木研究所が開発を進めるオープンプラットフォーム『OPERA』のように、新技術の導入や開発成果物の再利用性が向上するシステムの実現を目指しています。これまでは、特定のゼネコンと建機メーカーが共同開発した技術を他のゼネコンが使うことはできませんでした。このようなプラットフォームを実現することにより、どのメーカーの建機でも誰でも使えるようになるだけでなく、新たな研究開発やデバイスやアプリの開発を促進することも可能となります」
 「BIMの場合は3次元モデルのデータ構造やデータファイル形式などの共通ルールとしてIFCが定義されています。異なるBIMソフトウェア間に対しても、IFCデータ連携の仕組みが用意されています。こうした連携の効果を確認するため、ユースケースをセットして試行を行うことも協調領域検討会の大事な役割です」
 「日建連が事務局の施工ワーキングには、さらに3つのサブワーキングを設置し、この中で協調領域の有効性を確認するための試行も予定しています。地方ゼネコンやベンダーなどIT系企業も含めて約30社の企業が参加するサブワーキングもあり、データやアプリを連携する仕組みを開発し、実現場で検証を進めています。今年度中に具体的な成果を出し、3月のシンポジウムで発表する予定です」

情報通信基盤の協調領域と競争領域(施工段階の例)


――インフラ分野におけるスタートアップの取り組み状況は

 「協調領域としての情報通信基盤をつくることで建設業全体のデータ活用が促進されます。このシステムをオープンプラットフォームとして整備することで、インフラ分野のアプリ開発を目指すスタートアップなどの企業が参入しやすくなるでしょう。政府はスタートアップの育成を目指してエコシステムなどの支援策を打ち出していますが、建設系スタートアップは少ないと言われています。建設市場は約60兆円の十分に大きな市場ですが、必要なサービスやニーズを把握できず、どう参入していいか分からない状況にあるようです。特に公共インフラを扱う土木分野は建築と比べて参入が難しいと思われているようです」
 「例えば、データを活用するアプリを開発するとき、現場のデータを取得するところから始めるのは大きなハードルです。オープンプラットフォームとしての情報通信基盤システムにつないでデータを簡単に活用できるようになると、アプリを開発しやすくなるでしょう。このような市場を用意することで、将来的にスタートアップをこの分野から生み出しやすい環境の整備も重要です」

――デジタル社会が加速する中でのインフラ整備の在り方は

 「そもそもインフラはフィジカルな空間につくるものですが、デジタル社会の進展にはさらに2つのインフラが求められており、3種類のインフラが必要です。1つ目は現実(フィジカル)空間に整備する従来のインフラです。2つ目が仮想(サイバー)空間に3次元で表現するデジタルツインです。フィジカル空間のインフラに連動して時々刻々と変化するデジタルツインは、シミュレーションによる将来予測やリスクの洗い出しに活用され、手待ち、手戻り、手直しの解消などで施工の効率化や高度化に貢献します」
 「フィジカル空間からデータを収集し、サイバー空間にデジタルツインを構築するには、2つの間をつなぐ情報通信基盤の整備が必要であり、これが3つ目のインフラとなります。フィジカル空間で取得したデータに基づきデジタルツインでシミュレーションし、建機を自動制御するには、サイバー空間の指令を再びフィジカル空間にフィードバックする必要があります。それをスムーズに遅滞なく実現する情報通信基盤がないとこのシステムは実現しません」
 「作業ごと、現場ごとに情報通信基盤を構築するのは経済的ではありません。2つの新たなインフラを建設する上で、個社がシステムを構築するのではなく、建設業界で合意形成して共通のシステムを協調領域として構築し、リソースを有効活用するのが良いでしょう」

デジタル社会の三種のインフラ


――寄付講座における人材育成の取り組みは

 「土木分野と精密工学分野の修士の学生が参加する演習ではICT建機を使った施工を体感してもらいます。教室の3分の1程度に再現した現場に、自動で動くようにプログラミングしたショベルやダンプ、さらにベルコンなどの建機を配置し、土取り場から盛土場に土を模擬したアイロンビーズを運び、どれだけ早くきれいに安く運べるかに挑戦してもらいます。建機を自動制御するプログラミングや施工計画のつくり方を学びながら、新しい独自の施工方法を考えてもらいます。将来的には実際に建機を動かせるシミュレーターを導入し、演習内容がそのまま現場で使えるようにしたいと思います」
 「寄付講座の活動の成果としては、研究成果だけでなく、ここでの研究活動を通して人が育っていることです。国や民間からきた人材が研究員としてさまざまな研究を実施する中で、新しいシステムを自ら開発したり、その成果を実現場で試行したり活動の領域を広げています。博士号を取得するケースも出てきています。協調領域検討会のワーキンググループ内の活動において、建設企業だけでなくIT系企業のひとたちとともに新しいシステムの実用化に向けた検討をリーダーとして進める例もでてきました。
 「特徴的なのは、研究員はそれぞれ国内外の現場を手掛けてきた生粋の土木技術者で、情報通信技術に関して学ぶのはこの寄付講座に来てからということです。研究員として在籍した2、3年で現場の課題解決のための情報システムのプロトタイプを開発し、現場で実際に試行できるまでになっています。寄付講座での活動がリスキリングになり、高いポテンシャルを発揮しているといえるでしょう」
 「DXの推進に必要な情報通信基盤の整備や利用者が使いやすいアプリ開発を行うには、現場の課題や利用者の業務を理解している土木技術者が、第三のインフラとして整備するこれらの情報システムやアプリなどのソフトウェア開発の担当者に、必要な要件を上手く伝えることが重要です」
 「わが国では、米国に比べてIT人材がIT産業側に多く所属しており、一般企業内のIT人材が相対的に少ないと言われています。IT企業に発注をしたり、共同で事業を行ったりするためには、彼らの仕事を理解し、コミュニケーションを図ることが可能な人材を建設企業側に育成することも大事なのです」
 「元々情報通信の専門家ではない土木技術者が寄付講座の活動の中で情報通信技術を身につけ、使えるソフトウェアを開発しています。i-Constructionの推進を加速するためには、オープンプラットフォームのように市場を開放するだけでなく、特に情報通信分野のスキルを身につけた新たな人材がコアになり、異分野との連携も図りながら、これからの建設業の発展に貢献することが期待されます。リスキリングの仕組みや体制を産学官で連携して取り組む体制を整えていくことが重要になるでしょう」

【東大i-Con寄付講座/1年の活動成果発表/3月10日 第1回協調領域シンポ】
 東京大学i-Construction寄付講座は、3月10日14時~17時30分に第1回協調領域シンポジウムをオンライン開催する。2月上旬に寄付講座ホームページで参加登録可能となる。
 協調領域検討会は、2022年3月に寄付講座内に設置され、インフラ事業関係者が誰でも利用可能な情報通信基盤システムの開発に向けて議論を進めてきた。1回目となる今回のシンポジウムは、長期的に安心して運用管理できるシステムの構築に向け、設計(事務局・建設コンサルタンツ協会)、施工(日本建設業連合会)、維持管理(国土交通省)の3つのワーキンググループで進めてきた1年の検討成果を発表する。



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