【i-Con2021②】"生産性10倍"実現へ産学官で技術開発/ニーズと技術"つなぎ"、課題解決 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【i-Con2021②】”生産性10倍”実現へ産学官で技術開発/ニーズと技術”つなぎ”、課題解決

 建設現場の生産性を飛躍的に向上させるため、BIM/CIM、ICT、IoT(モノのインターネット)、空間情報処理技術、ロボット技術などを建設生産システムの各工程で活用するi-Constructionが進められている。東京大学大学院工学系研究科のi-Constructionシステム学寄付講座では、“生産性10倍”を目標に、産学官の研究者が参画し、技術開発、新技術活用の制度設計、人材育成などの研究を進めている。講座を主宰する小澤一雅教授にi-Constructionシステム学寄付講座の役割を聞き、建設業の生産性向上の今後を展望する。

東京大学工学系研究科社会基盤学専攻
i-Constructionシステム学
寄付講座(兼務)教授
小澤 一雅氏


■さまざま研究開発が進む、全工程にBIM/CIM
――i-Constructionシステム学寄付講座の役割を教えてください

 「東京大学にi-Constructionシステム学寄付講座が2018年10月に設立されてから2年余りが経ちました。この講座は、東大の社会基盤学専攻と精密工学専攻が共同運営し、大学だけでなく、国土交通省やゼネコン、建設コンサルタントなど民間からも研究者が参加し、産学官で研究開発を進めています。卒論生や修論生などの学生も参加しています」

 「研究テーマには、建設業界全体の協調領域や標準となるシステムの開発を主に選定し、学問体系の構築により人材育成につなげるとともに、制度設計や政策提言なども行うことを計画しています。一方で、個別企業との共同研究にも取り組んでおり、この2年で8つの共同研究プロジェクトが立ち上がっています。寄付講座に参画している各研究者は個々に多様な研究テーマを展開しています(図-1)」

 「研究開発の全体像としては、調査・計画、設計、施工、維持管理の全工程の中でBIM/CIMを展開するとともに、関連するシステムやデジタルデータを組み合わせ、各工程の生産性向上に役立つ新たなシステムを創出します(図-2)。そのために各工程のさまざまなデータを共有する基盤となる『インフラデータプラットフォーム』を構築し、それを活用した新たなインフラ整備手法を開発します。さらに、その実現に必要な制度インフラの再構築について研究するとともに、人材育成も進めます。この将来像を実現するためには、やるべきことが山積している状況です」



■プラットフォームを基盤にデータつなぐ
――新技術と現場を『つなぐ』上でポイントになることは何でしょうか

 「インフラデータプラットフォームには、現場で取得されたデータや過去から蓄積されたデータなど、さまざまなデータがつなぎこまれます。また、インフラ事業の設計、施工、維持管理のそれぞれのフェーズでは、インフラデータプラットフォームから必要なデータを抽出し、加工あるいは分析処理された結果がアプリケーションソフト(アプリ)を通してユーザーに提供されます。インフラデータプラットフォームを中心としたデータマネジメントのあり方が重要になってきています」

 「ここで、アプリが簡単につくれるようになった事例を紹介しましょう。安全をテーマに進めてきた大林道路との共同研究で行われた議論をヒントに『朝礼アプリ』が開発されています。コロナ禍における建設現場の安全管理についての議論から生まれたアイデアを形にしたものです。昨年春にアイデアが出て、秋に試行版が完成し、既に現場で試行されており、ことし中には一般に使えるよう開発が進められています」

 「さまざまなデータを容易につなぎこむことができ、必要なデータを簡単に抽出することが可能なインフラデータプラットフォームを構築することができれば、現場に必要なアプリを比較的簡単につくれる時代になったいま、蓄積されたデータを活用して現場の課題を解決するアプリを開発し、生産性向上につなげることが容易になります」

 「生産性の向上を図るには、現場のニーズ(課題)と解決する技術を『つなぐ』ことが重要です。講座が開く実務者向けセミナーやワークショップでは、どこにどのような技術があるかを把握するとともに、現場の課題と『つなぐ』取り組みを進めています」



■データ活用自動化、高速処理化を実証
――講座の研究開発のポイントを教えてください

 「現在、開発を進めているインフラデータプラットフォームは、BIM/CIM、現場で取得する点群データ、地盤や地図情報の活用、過去の2次元図面の3次元化、過去の点検記録のデジタル化、電子納品など、もろもろのデータを一元的に扱うプラットフォームになります」

 「いまの建設現場で使用している3次元データなどの新技術は『可視化』を目的にしたものが多いのが実情です。その先にあるデータ解析や現場の意志決定などいろいろな判断材料に、集めたデータを使うには、必要な情報を自動抽出する技術や、データを高速処理するシステムが必要です。それを実証するため、河道改修、橋梁耐震設計、建機の自動制御、道路維持管理などさまざまなユースケースの作成に取り組んでいます」



■建設業のDX推進、行政の対応不可欠
――今回のコロナ禍で建設技術はどのように変わりますか

 「例えば工事の検査は、従来は監督官が臨場して巻き尺など手作業で行いますが、コロナ禍により遠隔臨場検査が普及してきました。ウェアラブルカメラなどで現場と遠隔地をリアルタイムでつなぐことで、遠隔地での検査が可能になり、現場と事務所の往復時間などが節約されます」

 「さらに、レーザースキャナーで3次元現況モデルを作成し、設計データを自動的に統合して、遠隔地から精度の高い検査を行えるシステムを構築できるようになると検査そのものの合理化が可能になります」

 「企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む一方で、心配なのが行政です。静岡県のようにアクティブにDXに取り組む自治体がある一方で、まだウェブ会議の実施も困難な自治体があり、インフラ事業におけるDXをどのように推進するかが課題です。行政の決済時の押印に代表されるように、アナログの紙情報が多く残る中で、データを『つなぐ』のは大変です。大量のデータを高速で動かす上でデジタル化は不可欠になります」

 「紙で残る過去の情報をどのように使いやすい形にするかも大きな課題です。コロナ禍が治まってもデジタル化の流れが戻ることはないため、アナログ情報のデジタル化を積極的に進める必要があるでしょう」



■社会実装が目標、仕組みづくり検討
――新技術が実装・定着するのに必要なことは

 「寄付講座では、システム開発のユースケースを示すだけでなく、これらのシステムを社会実装していくことが次の目標になります。開発したシステムの社会実装に当たっては、費用負担の在り方やシステムの維持更新の体制などを長期的な視点で決める必要があります。DX時代にふさわしい、新たな仕組みを考えたいと思います」

 「寄付講座における技術開発の目的は、技術を使うことではなく、技術により生産性を向上することです。生産性10倍を実現するには、新技術にふさわしい仕組みをみんなで考えなければなりません。場合によっては根本から施工方法を考え直す必要もあるでしょう。新しいデバイスやロボットを現場で有効活用するための方法も同時に考えていきたいと思います」

i-Constructionシステム学寄付講座における研究開発の全体像(図2)




■プロフェッショナル人材の育成不可欠
――人材育成はどのように進めますか

 「i-Constructionを推進するためには、そのプロフェッショナル人材の育成が不可欠です。実務者にプラスアルファの技術を身に着けてもらうのも講座の大事な目標です。国土交通省が4整備局に設置するi-Construction人材育成センターや関連団体と一緒に育成方法を考えたいと思います」

 「現場で使うICTのデバイスもいろいろな製品が出ているため、公共工事で使える道具をJIS認定のように認証する仕組みも有効です。認証されたデバイスや製品を現場で使えるようにすることで、安くて良い製品がどんどん提供される仕組みづくりにつながります。また、デバイスや製品だけでなく、良い制度や仕組みがあれば国交省やi-Construction推進コンソーシアムに提案し、行政と一緒に新しい制度や仕組みを議論できる体制を組織することも考えられます」

 「東大には教員や学生の起業を支援する制度があり、大学が場所やノウハウを提供することで起業を支援しています。そうした制度も活用し、この講座から、そうした人材や企業が生まれることも期待したいと思います」



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