【BIM/CIM改革者たち】モデリングの一手間で工事粗利10%増 川原建設 田本 哲也氏 | 建設通信新聞Digital

5月3日 金曜日

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【BIM/CIM改革者たち】モデリングの一手間で工事粗利10%増 川原建設 田本 哲也氏

 「現場を支えるため、僕ら若手が先頭に立ってCIMモデリングを進めている」と語るのは、川原建設(大分県中津市)でBIM/CIMの定着に尽力する工務課の田本哲也氏だ。若手が協力してCIMモデルデータ作成の社内マニュアルも整備した。現在は受注した工事のすべてにBIM/CIMを原則導入している。「2次元の発注図を3次元化するのは一手間かかるが、それが施工段階の生産性向上というメリットにつながっている」と手応えを口にする。

川原建設 田本 哲也氏


 高校時代に機械科を専攻し、自動車の製造会社に勤めていた田本氏が同社に転職したのは2012年のことだ。経営理念に掲げる「創る」「使っていただく」「後世に遺る」という3つの『よろこび』に感銘を受けた。現場作業を担う工事課に配属となり、汗を流した日々。「大変だったが、それ以上に達成感があった」と振り返る。

 転機となったのは15年。「高校時代に学んだ製造系CADの知識を生かし、工事現場でもCAD操作を担当していた」ことが上司の目に止まった。同社が受注した大分県初のICT活用工事で3次元データ作成の役割を命じられ、現場を管理する工務課に異動となった。自ら作成したデータで建機が動いた時の感動はいまでも鮮明に心に残る。「3次元に興味を持った」瞬間でもあった。

 17年には九州地方整備局山国川河川事務所発注の築堤工事でBIM/CIMにチャレンジすることになり、その下支え役を命じられた。社としてBIM/CIM関連ツールをパッケージ化したオートデスクのAECコレクションを整備し、販売代理店の担当者から2次元データを3次元化する基本的なコマンドの説明を受けた期間はわずか3日。それからは「根性」で仕上げた。誰のサポートもなく悪戦苦闘しながらCIMモデルデータを完成させた時の「達成感」はいまも忘れることはない。

 会社からは、皆でBIM/CIMに取り組むために、CIMモデルデータ作成のマニュアルを整備するようにとの指示もあった。社内では以前から2次元図面だけでは正確に情報を伝えられないもどかしさがあり、CIMモデルによる可視化が有効と考え、発注者との協議にも活用できると期待を寄せていた。「最初は一人でマニュアルを作っていたが、わたしが講師を務めながら仲間を増やし、皆で協力しながら取り組み、ほぼひととおり整備できた」と明かす。

 講習では、あえてCIMモデリングの基本的な方法を伝授するだけにとどめている。実際に現場を担当して試行錯誤しながら社員一人ひとりが学ぶことを重要視している。「自ら問題解決する流れを前提とし、どうしても解決できない場合にアドバイスしている」。新入社員への研修にもBIM/CIM教育を取り入れ、今年度に入社した4人は既にICT活用現場で3次元データの作成を担っている。

初チャレンジした築堤工事モデル(右上)と現在取り組む築堤護岸工事モデル(右下)


 現在、社内では若手10人ほどが先頭に立ち、全現場のBIM/CIM導入を下支えしている。BIM/CIM現場は累計で10件を超えた。田本氏が現在担当する九州整備局山国川河川事務所発注の築堤護岸工事は自身として7件目の成果。整備する堤防は当初の設計でレベル区間を設ける予定だったが、3次元モデルを使って一定勾配で対応できることを発注者側に提案し、変更が認められた。「このように生産性向上を立証する手段としてBIM/CIMを活用している」と力を込める。

社内講習


 現在のスキームは2次元の発注図を3次元化している。「われわれ元請けの手間はその分増えるが、3次元データを使って協力会社が最適な施工を実現できるメリットは大きい」と考えている。BIM/CIMの導入効果は工事粗利益にして「約10%ほどの増加効果を生んでいる」と試算している。効率的な現場運営が可能になり、全現場で推し進める週休2日の実現にも貢献している。

 国土交通省のBIM/CIM原則化が目前に迫る中で「不安に感じている社員は誰一人いない。既に社内では現場への3次元データ活用が前提となっているだけに、やっと来たかという思いの方が強い」と強調する。いずれ原則化が定着し、受注時に設計段階からBIM/CIMモデルデータを引き継ぐ流れが整えば「これまで一手間かけて進めてきた3次元化の作業が不要となり、生産性向上への提案づくりに注力することができる」からだ。「最近は微力ながら地域にBIM/CIMを浸透させる役割を担っていきたい」とも考えている。



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