【BIM2022】JRE-BIMの推進/JR東日本 | 建設通信新聞Digital

4月27日 土曜日

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【BIM2022】JRE-BIMの推進/JR東日本

◆ビジュアル活用から業務改革へ/BIMに最適なワークフロー構築を検討
 JR東日本は、JRE-BIMの取り組みを加速している。調査・計画、設計段階のBIMモデル作成原則化の取り組みを推し進め、プロジェクト全体の生産性向上を目標にした新たな業務フローを作成する方針だ。BIMクラウドの活用部署の拡大、設計段階から維持管理段階まで一気通貫したBIM活用の推進、点群データの積極的な活用など、BIMによる生産性向上をけん引する同社の最前線の取り組みを紹介する。
 JR東日本は2022年度、BIMに最適化したワークフローの構築に向け、将来ビジョンを策定する予定だ。21年度の調査・計画、設計段階におけるBIMモデル作成の原則適用を契機に、各件名のBIM活用が進展していることから、よりステップアップした活用を目指す。建設工事部ビル・ステーショングループは「これまでは導入できるプロジェクトから単発的にBIMを導入し、メリット・デメリットを検証してきた。今後は、それで得られた知見を元にフェーズ間で連続的にBIMを活用し、プロジェクト全体の生産性向上につなげたい」と目標を掲げる。
 BIMに最適化したワークフローとするには、従来の2次元CADによる業務から、BIMの3次元モデルと属性情報の活用を前提にした業務へと転換する必要がある。そのため、「これまでの導入件名からメリットになる要素を抽出し、それらをつなげていく。必要に応じてワークフローそのものを変革し、生産性向上につなげたい」という。単に従来のCADで行っていた業務をBIMに置き換えるのではなく、BIMのメリットを引き出せるようワークフローそのものの見直しを目指すのが最大の特徴だ。

 具体的には、3次元化により関係者間の合意形成を容易にする従来のビジュアル面での活用に加え、BIMを基本にした調査、設計を推進し、属性情報から数量を集計して工事費算出に活用するなど、BIMの特徴を前提とした業務の進め方を検討する。また、設計から施工段階へシームレスに移行できるワークフローを併せて検討し、生産性向上の効果発現を見据えたプロジェクトサイクルの構築に取り組む。今年度は「将来ビジョンを策定し、関連部署に理解を深めてもらう」のが目標だ。
 また、同社のプロジェクトの共通データ環境となる「BIMクラウド」の活用では、建設工事部に加え、新たに設備部、各支社なども利用を開始した。系統間のデータ共有を容易にし、生産性向上を加速させる。
 さらに、すでに全社展開している電子契約とBIMクラウドとの連携に合わせて紙図面の扱いをやめ、PDF図面へ記名、押印する方式に切り換えた。契約書だけでなく、完成図書などの成果物も電子化することで、工事の入口から出口までをペーパレス化し、受発注者の負担軽減と業務効率化を一体的に進めている。

JR東日本建築設計の支援体制 社内標準化を推進

 JR東日本建築設計は経営ビジョンに「クライアントの信頼に応えられるプロ集団」を掲げ、BIM、AI、ICT技術の活用を加速している。2023年度までに一定規模以上の案件のBIM活用率100%を目標に、21年7月にはIT推進室を部に昇格する組織改編を行い、社内の支援体制を強化した。
 IT推進部は建築設計本部ほか兼務者含めて総勢22人で、社内の各設計部門から推進担当者として兼務してもらい、社内のBIM推進ほか、定着に取り組んでいる。
 柳澤剛技術本部IT推進部長は「今後、推進部を兼務している社員がインフルエンサーとなり各部署での活動を推進する起爆剤となってほしい」と期待を込める。
 社内のBIM活用の標準化に向け、設計の業務フローについて基本計画から実施設計までの12項目のマトリクスを作成した。これまでの各部門の取り組みの成果を具現化し、BIMを基本としたワークフローを系統的に整理したものだ。
 また、BIM導入の普及拡大の機運を高めるため、社員自らの取り組みを推進する初の取り組みとなる社内表彰制度のJRED「BIM(Revit)活用チャレンジ」を実施した。21年4月以降の直轄物件を対象としてBIM活用に取り組んだ件名を募集し、応募総数30作品から最優秀賞5作品、優秀賞9作品、チャレンジ賞16作品を選定した。
 最優秀賞作品では、建築設計本部が毎年実施している「BIM活用」ワーキングにおいて、オートデスクのBIMソフト『Revit』を活用する上で設計フローごとに注意するべきポイントを記載したハンドブックを作成したことなどが評価を受けた。
 これらの取り組みを通じて、各プロジェクトの成果を確認し、社内のBIM標準化に向けて分析・整理を進める。従来の2次元CADからBIMに切り替えることで「構造、設備、電気もコストも一気通貫で構成した3次元モデルから2次元に切り出していきたい」(柳澤部長)とする。あわせて、維持管理段階でのBIM活用に向けた検討も進めている。
 IT推進部は、BIM活用に向けて各業務で使用するアプリケーションなどの設定や内容を時代ごとにあわせて統合管理をしていく必要があると考える。また、各社員のスキルアップに加えて、業務効率化をコンサルティングという形で主導していく。

幕張豊砂駅 施工の課題を事前に解消

JR東日本東京工事事務所が発注している京葉線新習志野駅~海浜幕張駅間における幕張新駅(幕張豊砂駅)の建設プロジェクトでは施工BIMを推進している。駅本屋やエレベータシャフトの取り合いを確認するため、詳細検討用BIMモデルを作成し、不整合個所を事前に解消することで施工の円滑化に貢献している。
 施工者の鉄建建設が施工BIMモデルを作成し、鉄骨ファブリケーターや昇降機メーカーなどの専門工事企業が作成したBIMを統合・管理し、施工計画の検討に活用した。このうち駅舎の大屋根は、さまざまな角度のついた形状を持つため、外形パネルと鉄骨モデルを統合する際、接合部の納まりなどの干渉を事前に解消する必要があった。不整合を解消するため、複数のBIMモデルを作成し、納まりを検証した上で不具合を解消した統合モデルを作成した。
 建築躯体、土木構造物との取り合いが複雑なエレベータシャフトでも統合モデルを作成し、系統別にモデルを色分けして干渉個所を表示するなど関係者間の役割を整理し、問題解決に役立てた。鉄建建設の芦村武夫所長は「バーチャル空間で事前に課題を解決することで、実際の施工での大きな間違いがなくなる。3次元で関係者と共有することでイメージも共有しやすい」とメリットを語る。
 作成したモデルは、データ共有クラウドとして試行導入した『BIM360Docs』で管理し、発注者、設計者、施工者などの工事関係者がブラウザを介して情報共有する。BIMモデルを閲覧するほか、図面への質疑や回答もクラウド上で行う。定例会議で使う図面や資料もクラウドに保存し、各自がパソコンやタブレットを使ってクラウド上で確認するなど完全なペーパレス化を実現した。
 BIM360Docsの導入を提案したJR東日本建築設計建築設計本部ターミナル駅開発部門の上田将也主任は「当社としても初めて導入した案件となる。最初は苦労したが軌道に乗っている。ペーパーレス化することで施工図照合などがテレワークで対応できるなど省力化につながっている」と説明する。
 東京工事事務所総武・東北開発京葉グループの北原魁人氏は「通常は工事が進まなければ気付かない課題を事前に把握できる。図面の質疑や検討願い、回答などをクラウド上で行い、会議も資料を印刷する手間がなくなるなど効率化している」と効果を語る。

駅舎の大屋根を詳細に表現。不整合を事前に解消した

JR東京総合病院建替計画 維持管理の情報拠点に

 JR東日本東京工事事務所は、JR東京総合病院建替計画を対象に、維持管理BIMのモデル事業を進めている。2019年の基本設計段階から施工、維持管理を考慮したBIMモデルを作成しており、一気通貫の維持管理プロジェクトの先駆けとして注目される。今夏の着工を前に、ライフサイクル全体を見据えた属性情報の検討が佳境を迎えている。

設計から維持管理までBIMを一貫活用する


 JR東京総合病院(東京都渋谷区)では老朽化による建て替え事業が進められており、駐車場棟、病棟、会議棟を解体し跡地に健康管理棟(仮称)、新病棟(入院棟)、中庭を新築し、外来棟と設備棟をリニューアルして活用する。24年春から順次供用開始し、完成後の総延べ床面積は約6万1600㎡(建て替えは約4万3000㎡)。
 JR東日本では、建築、機械、電力、通信などの各系統、グループ会社が連携し、一体的に建物を建設、管理するのが特徴。そのため、BIMを活用することで各系統の維持管理に必要な属性情報を統合し、グループ全体の生産性向上につなげる。
 取り組みの1つとして検討しているのが「建物カルテ」としての活用だ。仕上げ、設備機器、什器などの基礎情報や修繕履歴を蓄積し維持管理の効率化につなげる。各系統の担当者が参画する維持管理BIM検討会を設置し、維持管理に必要な属性情報の絞り込みを進めているところだ。
 また、ばらばらに管理している図面や資料をBIMに集約し、維持管理段階の「情報拠点」として活用する。点検時もタブレット端末などとBIMが連携し、効率化を図る。今回の試行でメリットが確認されれば駅施設への展開も想定される。
 前例のないプロジェクトを円滑に進めるため、基本設計を担当した久米設計がBIM支援監修業務も担い、建築とBIMの知識を駆使してプロジェクトをまとめる「BIMマネージャー」を配置している。実施設計・施工の竹中工務店が作成するBIMモデルを監修するとともに、維持管理を担当するJR東日本ビルテックなどの意見を調整し、BIM推進の舵取りを担う。
 BIMマネージャーを務める久米設計の古川智之氏は「関係者ごとにBIMの認識や要望は違うため、翻訳・調整し、最適な方法に落とし込む必要がある。BIMモデル作成者に意図を伝え、維持管理で使えるモデルを作成する」と説明する。
 今年度に属性情報を整理し、23年度からデータ入力する予定だ。竣工前にはバーチャルハンドオーバー(仮想竣工引き渡し)を行い、「維持管理で活用できるかを確認し、供用開始と同時にBIMによる管理を開始する」と見据える。

JR東日本新宿建築技術センター DX推進で業務改革

JR東日本新宿建築技術センターは、点群データとドローンや3次元モデルなどのICTを組み合わせ、デジタルトランスフォーメンション(DX)による業務改革を推進している。
 Leica社の3Dスキャナー「BLK360」により座標情報を持つ点群データで3次元モデルを作成した。変電所工事の施工検討において、変電所内の点群データを取得することで、複雑に巡らされたケーブルの位置を確認し、検討作業を効率化。また、線路上空やき電線の離隔確認でも効率を上げている。
 従来は目視やレーザー距離計等により位置関係を把握していたが、3Dスキャナーにより測定に個人差が生じることなく詳細な検討情報の取得に役立てた。さらに、駅ホームの上家などの建築限界と離隔測定や信号見通し確認にも活用した。
 施工段階では、耐震補強工事が進む蒲田駅を対象に、クレーンの旋回範囲や支障物確認など点群と3次元モデルによる事前のリスク検討を試行した。
 3Dスキャナーで取得した現地の点群データに、オートデスク社の3次元モデリングソフト『3ds Max』で作成したCGを重ね合わせることで杭打機の搬入やクレーンでの杭材の揚重作業の流れをCG動画にし、作業の可視化を図った。
 スレート屋根の点検においては、ドローンを活用した。東京都中野区に位置する中野電車区では、大正期に建設された旧検修庫の屋根部分の劣化が進んでいるものの、全面点検には大掛かりな足場を必要とすることから、ドローンにより詳細な画像を取得するとともに3次元モデルを作成することで、フックボルトの外れなど詳細な状態を確認した。
 また、駅の天井裏の内部調査に狭小空間が得意な超小型ドローンを使用し、人の立ち入りが困難な天井裏の配管やケーブルなど内部の状態を詳細に3次元化した。ドローンは支障物に当たってもすぐに体制を立て直す自動姿勢制御技術を搭載し、非GPS(全地球測位システム)環境下でも飛行できる。取得した3次元データは今後改修工事への活用も見込む。
 同センターの松村亮典計画1科長は「ドローンによりこれまで稼働中のビルや駅舎では夜間に限られていた点検作業が日中でも可能となるため、コストダウンや工期短縮につながる」と期待する。
 岩井雄志計画2科長は「今後も狭小空間の3次元データの活用などDX推進によるさらなる業務効率化を目指した検討を重ねる」と展望を語る。



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