【BIM/CIM2022④】JR東日本 JRE-BIMの取組みで生産性向上を加速 | 建設通信新聞Digital

4月27日 土曜日

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【BIM/CIM2022④】JR東日本 JRE-BIMの取組みで生産性向上を加速

 JR東日本は、BIM/CIMやICT技術、共通データ環境の活用により生産性向上を図るJRE-BIMの取組みを加速している。2021年度は7月より調査・計画、設計の全件名で点群取得とBIMモデル作成を原則化したほか、JRE-BIMガイドラインを改訂した。22年度からは、設計図面としてのBIMモデル活用の拡大に取り組むとともに、点群プラットフォームやデジタルツイン環境の活用も進める。生産性向上を着実に進めているJRE-BIMの最前線を紹介する。

【BIMモデルの利用拡大/点群プラットフォームで系統間の利用促進】
 JR東日本は2022年度、JR東日本コンサルタンツの協力を得て、点群データやBIMモデル活用の取り組みをステップアップさせる方針だ。

 現在、BIMモデルは建設工事における視覚化資料や施工計画検討、干渉確認などに積極的に活用しているが、更なるBIMモデルの活用を進める。

 具体的には、設計~施工~維持管理の各段階での活用を見据えた属性情報を付与したBIMモデルの作成、設計照査等で必要となる2次元図面のBIMモデルからの切り出しなどの取り組みに着手する。導入に適した工種を見極め、BIMモデルを基本とする取り組みを拡大する考えだ。

 点群データの活用も推進する。これまで各系統で取得していた点群データを社内関係者が系統横断で活用できるようにするため、点群データを蓄積する点群プラットフォームの構築を進めており、4月に完成する予定だ。

 また、JR東日本が鉄道・インフラ分野のデジタルトランスフォーメーションの実現を目的に21年7月に設立したCalTaでは、狭小空間が得意な高性能小型ドローンで撮影した点群のほか、BIMモデルを重ねて表示可能なデジタルツインアプリを今春リリースする。デジタルツイン環境の整備により、工事や点検業務における生産性向上を加速させる。

 設計や工事の契約における電子契約の利用も本格化している。19年度より導入してきた電子契約システムを改修し、共通データ環境であるBIMクラウドとシステム連携することで、大容量の図面データを含む契約書類の取り交しができるようにした。これにより、電子契約システムの利用対象を全契約件名に拡大した。押印や契約書類のやり取りを電子化し、発注者と受注者が一体となって取り組む、業務効率化と生産性向上を推進する。

目次
JR東日本東京電気システム開発工事事務所/電車線設備における点群測量の利活用
JR東日本東京工事事務所/渋谷駅改良
JR東日本上信越工事事務所/新潟駅付近連続立体交差事業
JR東日本東北工事事務所/青森車両センター検修庫の完成検査

JR東日本東京電気システム開発工事事務所/電車線設備における点群測量の利活用

現場測量の業務効率化に貢献

 JR東日本東京電気システム開発工事事務所は、点群データを活用した電車線路設備に関する現場測量の効率化を進めている。現場のデータをGalaxy-Eye(点群データ処理アプリケーション)に取り込み、その中で寸法を計測でき、終電後の線路閉鎖手続きや感電防止のためのき電停止手続きなどの煩雑な手続きを不要とし、高所での測量による墜落のリスクもなくなる。

 具体的には、線路内の測量箇所に米FARO社の「Faro Laser Scanner Focus Sシリーズ」を設置して点群データを取得した。従来の架線測定器や巻尺、高所作業車を用いた測量の代わりに、Galaxy-Eye(パソコン)上から柱の幅や高架線の寸法を計測することで、作業時の触車・感電・墜落といった死亡災害につながる労働災害のリスクの低減に貢献するほか業務効率化を実現した。

点群カメラを用いた現場測量


 さらに、線路の外側(側道)から日中に測量しても支持物、レール、架線などを測定するのに十分なデータを取得できることを確認した。将来的には電柱や架線の強度検討など設計業務での活用も見込む。同事務所インテグレート課東北グループは「所内でも徐々に利用拡大している。ゆくゆくは標準化していきたい」と説明する。

 信号系統においても点群測量の活用を加速している。新築予定の信号機器室の用地検討に点群データを活用しリモートによる現地立ち会いを計画、3次元の利点を生かしたさまざまな角度からの用地確認により、関係者合意形成が容易に実現できたことと、多数の関係者の日程調整や移動の負担がなくなり、業務効率化につなげることができた。

信号機器の離隔測量にも活用した

 また、駅の信号装置を統括する「連動装置」の設計において、分岐器の車両同士の接触限界位置の把握に点群データを活用した。安全確保の観点から線路内の測量は夜間作業に限定されていたが、現地の点群データを取得し、「Galaxy-Eye」の軌道中心を自動抽出する機能などを活用することでパソコン上での計測を可能とし、夜勤(深夜労働)の削減を実現した。

 そのほか、他の鉄道事業者の設備と在来線設備の離隔測量を実施した。従来の離隔確認の際には相手の事業者と調整したうえで現地測量を実施していたが、点群データを活用して測量を実施することで煩雑な手続きを省略した。

 同事務所信号システム・計画信号更新計画グループは「点群データが移動ロスの削減に大きく貢献していることを確認できた。今後は3次元モデルと連携して離隔確認や干渉チェック、信号機と地上子の距離測定などへの活用、さらにはBIMの活用によるさらなる設計効率化も想定している」と見据える。

JR東日本東京工事事務所/渋谷駅改良

線路切替工事の設計・施工計画検討/見通し確認にBIMと点群を活用

 JR東日本東京工事事務所は、渋谷駅改良工事で実施する線路切換工事の設計・施工計画の検討に、BIMと点群データを活用したシミュレーションを導入している。改良工事は埼京線ホームの移設や山手線の1面2線化を実施するもので、5回の線路切換工事のうち、2021年10月の第3回工事からBIMと点群データの活用を開始した。次回の第4回切換工事からは、これまでの3次元モデルによる建築限界確認に加え、ホームの見通し確認などに活用範囲を広げている。

 現在は埼京線ホームの移設が完了し、山手線ホームを島式に改良する工事を進めている。外回り線への乗降は現状と反対側からとなるが、新しいホームにおいても車掌と駅立番社員が全車両の乗降確認を行えるカメラ・モニタ配置とする必要がある。通常、現地に列車を模擬し見通しの確認を事前に行うが、現状では既存山内ホームの施設が支障し実施できないことから、BIMを活用して検討することにした。

 車両、拡幅するホーム、柱、仮囲いなど計画した駅施設すべてをBIM化し、既存ホームの点群データと統合したVR空間を構築。複数の駅社員など関係者員がヘッドマウントディスプレイを装着して同時に入り、立哨位置からの見通しやカメラの画角、駅社員同士の合図確認が可能なことを確認した。BIMを活用した結果、現地で列車を模擬する従来の確認方法の回数、規模が縮小し、業務効率化を実現した。同工事事務所渋谷プロジェクトセンターの堂本竜哉グループリーダーは「BIMを活用し目視及びカメラでの確認可能な範囲を具体的に反映した検討ができた。新ホームへのスムーズな移行に貢献する」と成果を語る。

BIMを活用した見通し確認

 また、供用中の3階コンコースの改築施工計画もBIMでシミュレーションした。昭和初期に施工したトラス梁と工事で取り付ける養生部材の干渉が即座に判明し、設計の見直しと適切な施工計画の検討に貢献した。大成・東急JVの山田広樹所長は「夜間工事は1つの手戻りでリカバリーに数週間かかることがあり、正確な施工計画が求められる。BIMと点群データを使うと支障個所がすぐ見つかり、寸法測定もパソコン上で行えるため、時間と手間を減らせる」と実感する。

 そのほか施工中の新3階コンコースに設置する売店、広告、コインロッカーなどの配置をシミュレーションするなど幅広い活用につなげている。

JR東日本上信越工事事務所/新潟駅付近連続立体交差事業

点群を活用し高架橋施工基面幅の計測を実施

 JR東日本上信越工事事務所は、新潟駅付近連続立体交差事業において、点群データを活用して高架橋の施工基面の幅を計測する同社初の取り組みを実施した。

 同事業は地上4面7線の新潟駅を、信越線、白新線、越後線の約2.5㎞を連続立体交差化させ、新潟駅を高架3面5線化、2箇所の踏切除却、3箇所の交差道路を新設する計画。

 2018年4月に開業を迎えた高架橋一期工事では、3面4線を高架化し、新しい在来線5番線と新幹線11番線を同一ホームとする「新幹線・在来線同一ホーム乗り換え」を実現した。続く高架橋二期工事では、残る1線の延長1.4㎞の在来線高架橋を構築した。全線高架化は22年6月頃を予定している。

 供用開始に際しては、さまざまな検査が行われるが、そのひとつに軌道中心から高欄や電柱までの離れを指す施工基面幅が基準を満たしているかを検査する項目がある。

 従来の手計測では、レール上に軌道用直角定規を設置し、軌道中心においたレーザー距離計から高欄や電柱にレーザーを照射し計測する。検査対象区間の延長1.4㎞の計測箇所数は200箇所以上にのぼる。

 点群計測では、最初に地上レーザースキャナーにより約20m間隔で計60ショットの高架橋の点群を取得・合成し、区間全体の3次元点群データを作成した。

軌道中心から対象物の計測を実施

 点群データから施工基面幅計測の基準となる軌道中心を取得する技術は、富士テクニカルリサーチとJR東日本で技術開発した。具体的には、3Dレーザー計測データCAD化ソフト「Galaxy-Eye」(ギャラクシーアイ)を活用し、取得した点群データからレールの位置を抽出・3次元モデル化した後、軌道中心線を自動抽出した。Galaxy-Eyeの機能で軌道中心線上に計測用の垂直な面を作成し、軌道中心から対象物までの距離を計測可能とした。

 手計測と比較して、同程度の計測日数であるものの、日中の列車運行時間帯に線路脇から対象構造物の点群を取得できれば、夜間の線路閉鎖によらず計測が出来るなど、計測の省力化につながる。

 同事務所新潟工事区の水野弘二主務は「点群データを取得すれば現地に赴かなくても机上で計測や検査ができるため、今後は標準化に向けて水平展開を進めていきたい」と期待する。

JR東日本東北工事事務所/青森車両センター検修庫の完成検査

点群活用で業務のDXを推進

 JR東日本東北工事事務所は、点群測量による建設業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している。地上型レーザースキャナー(TLS)やドローンなどの機材を社員が直轄操作し、点群データを活用した検査や施工管理の業務効率化に取り組んでいる。

 検査業務では、青森駅構内に建設した車両の検修庫の検査に、TLSで取得した点群データを活用。長さ230mの庫内には単線の検修線や洗浄台、屋根上点検台、転落防止柵などの特殊な設備が設置される。検測箇所が膨大にあり、高所の検測も発生するため、点群データ活用により効率化、安全性向上を図った。

 通常は建築限界測定器をレール上に走らせ、支障の有無や離れ寸法などを測定するが、屋根上点検台など高所の測定に測定器が対応しないため、膨大な実測作業が発生する。そのため検査対象設備の点群データと建築限界の3次元モデルを統合し、各設備との限界支障や中心線からの離れ寸法などをパソコン上で確認した。同工事事務所工事管理室の村崎隆弘氏は「実測同等の検査を実現し、実測数を45箇所から3箇所に大幅に減少した。施工会社・現場監督箇所による事前検査、抜き取り検査を含め、5日分の現場作業を短縮できる」と効果を語る。実測との誤差も4mm以内に収まり、今後標準化を進める。

MRで支障確認

 同工事事務所はドローンによる広域点群測量にも取り組んでいる。東北新幹線トンネル出口に設置するトンネル緩衝工の工事では、新設する緩衝工及び構造物と既存新幹線構造物の取り合いや建築限界の支障の有無を安全・効率的に確認するため、ドローン測量で取得した現地の点群データを活用した。具体的には実験現場にトンネル緩衝工の実物大構造物を構築し、既設新幹線構造物の点群データと新幹線建築限界の3次元モデルを合成してMRで投影し、実物大構造物と重ねて支障の有無を確認した。

 福島駅では、1㎞に渡る長大な施工範囲をドローンで点群測量し、死角となる高架下の点群データはTLSで補い、新設する高架橋の3次元モデルを統合し、既存設備と計画構造物の離隔測定を行った。大塚隆人副課長は「ドローン測量を社員が直轄で行うことで現地情報をすぐに入手でき、コストダウンや工期短縮につながる」と語る。施工管理の遠隔化にも活用する方針だ。



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