【インフォメーションの在り方を検討/ガイドラインへの反映目指す/必要な情報を見極め、次工程に引き継ぐ】
JR東日本建設工事部基盤戦略ユニット(技術戦略・DX)は、建設サイクルを通じたBIMデータの活用を推進するため、モデルに付与する属性情報の選択や詳細度などの“インフォメーション”の在り方に焦点を当て検討を進めている。建設工事部に設置した「JRE-BIM推進ワーキング」に調査計画、設計、監督業務、工事費・工程などのサブワーキングを設け、部署の垣根を越えて議論を進め、JRE-BIMガイドラインに反映する考えだ。
今年度から、建設サイクルの各段階で付与するデータやLOD(詳細度)についてJR東日本の建設工事を担っている施工会社と意見交換を開始している。どのデータを工程間で引き継ぎ、最終的に維持管理に伝えるかを探る。さらに同種のプロジェクトの参考になるデータなど、次の建設サイクルに生かすためのデータ構成も検討する。今後さらに踏み込んで議論し、必要なデータを見極め、2025年度に方向性を示す考えだ。
また、今年6月に「点群による構造物計測の手引き」を制定し、JRE-BIMガイドラインにも同手引きの内容を反映した。計測する際の留意点、点群データの精度の検証方法、同社が開発しCalTaとJR東日本コンサルタンツが提供する3次元点群クラウド『TRANCITY(トランシティー)』を活用したデータの保存方法などを示した。同ユニットは「測量した点群データを共通クラウドに納品する仕組みを作ることで、工事写真のように点群データで代替できる業務は、帳票そのものを省力化していく」との考えを示す。
昨年度から3次元設計の検証も進めている。3次元設計モデルから切り出した図面と2次元図面を比較し、表現の違いなどを検証することで「われわれに必要な情報が足りるのか、あるいは業務自体を3次元設計の仕組みに合わせるのか最適なマッチングを探る」のが狙いだ。
同ユニットは「われわれの従来の業務を洗い出し、仕事を進める上で必要な情報とBIMから取得できる情報を見極める。推進ワーキングが一丸となり、建設部門の新たな仕事のやり方をつくる気持ちで検討を進める」と先を見据える。
電気システムインテグレーションオフィス/電気設備系統で初の統合モデル作成

上野主務(左)と櫻田チーフ
JR東日本では業務変革の推進に向けてデジタル人材を育成する「DXプロ」を組織しており、電気SIOではDXプロが中心となりBIMの活用を進めている。首都圏エリアでの既存鉄道設備に対する駅改良プロジェクトを対象に、23年度の事業で統合モデルを作成した。
土木系統の線路の路盤やホーム、建築系統のホーム上屋や駅舎とともに、電気SIOが作成する設備統合モデルを一体化することで、将来的には運転士目線での信号機の見通し確認や、ホーム上屋などに通すケーブルルートの取り合いなどをBIMモデル上で関係者が事前調整することが可能となる。さらに各設備モデルが持つ属性情報を活用し、数量算出などを瞬時に行い検討がより迅速になることを目指す。
電気SIO企画総務部工事管理ユニット企画法令管理グループの櫻田隆宏チーフは「例えばBIMモデルでどのホームの柱に非常停止ボタンを設置するかが分かれば、そこに電気ケーブルが走ることを他系統も把握し、設計や施工の検討に役立つ。施工前の段階から3次元的な設備構成が分かっていれば、施工途中の設計変更を減らすことができる。施工前の安全検討にも寄与できる」とメリットをあげる。
24年度は昨年度に作成した統合モデルの活用に向けて検証を進めている。統合モデルを活用し、より効率的・効果的な業務のあり方について実務者目線での議論を行い統合モデルをどこまで造り込むかを検証している。設計や施工を担当するグループ企業を含め関係者のBIMに対する習熟度が異なるため、デジタル人材育成も必要であり、関係箇所との調整を今後進めていく。
櫻田チーフは「検証を進め、数年後には新たなトライアルを実施できるようにしたい」と見据える。同グループでDXプロを担う上野貴之主務は「電気SIOでは、BIMをはじめとして各種取り組みを行っていることもあり、変革のタネがたくさんある。DXを進め、変革を実現するためにも新技術を活用した取り組みをさらに進めたい」と意気込む。
東京建設プロジェクトマネジメントオフィス/スタートアップ企業と協業し配筋検査省力化

米山主任(左)と吉田チーフ
アクションカメラを取り付けた建ロボテックの鉄筋結束ロボット「トモロボ」に鉄筋の上を走行させ、撮影した動画をCalTaの3次元点群クラウド「TRANCITY」で処理して点群を生成する。その後、DataLabsの3次元配筋検査ツール「Modely」によって鉄筋の点群データから3次元モデルを自動生成する。これにより、パソコン上で配筋ピッチ等が確認可能になり、配筋検査にかかる手間や現場への移動時間を大幅に削減できるようになる。
鉄筋コンクリート構造物の配筋検査は、受発注者ともに多大な労力を要するため、効率化が課題となっている。既に定置式の3Dレーザースキャナー等で点群を測定し、鉄筋モデルを作成する手法はあるが、鉄筋が密に配置されている箇所等でデータの精度が低くなる箇所が生じている。データが不十分な箇所は人の手による修正を加える必要があり、さらなる改善が求められていた。
今回開発した技術は、鉄筋の上を安定して移動できる鉄筋結束ロボットを使用するもので、撮影した動画から高い精度の点群を取得できる。点群精度が上がったことで、鉄筋モデルの自動生成の精度も向上している。
JR東日本グループは、優れた事業アイデアを持つスタートアップ企業との協業を積極的に実施しており、ビジネス創造活動「JR東日本スタートアッププログラム」を展開している。今回の技術開発に参画している建ロボテック、DataLabsは同プログラムに採択された企業であり、CalTaは同プログラムをきっかけにJR東日本スタートアップ等が出資して設立したスタートアップ企業である。
東京PMO企画戦略ユニットの吉田知史チーフは「同プログラムに参加したテック系企業同士がコラボして新たな技術開発に取り組むのは今回が初となる。今後もさまざまな企業と協力して新しい技術を取り入れ、DXを進めていく」と語る。同ユニットの米山睦美主任は「DXによる省力化は、現場の声から生まれた取り組みであることを肝に銘じつつ、今後も技術開発を進めていく」と意気込みを述べた。
大宮土木設備技術センター/維持管理業務の省力化へ

室谷主務(左)と植原主務
メンテナンス工事は、規模はそれほど大きくはないが、件数が非常に多い。作業従事者の高齢化などが進む中で、早く、簡単に実施できる点群計測の必要性が高まっていた。そうした背景から、当センターは点群上での出来形計測の検証を2022年に着手し、2年半かけて検証を重ねてきた。特に簡易マーカーを用いて点群計測に適する工種の洗い出しに注力し、ネット工、雑草の発生を抑える防草対策工、斜面崩壊など防ぐのり面工の3工種を主な対象とした。
今回の写真測量では、既知点を計測するに当たり、4つ以上のマーカーをA4の用紙1枚にまとめた簡易マーカーを使った計測方法となる。取得した点群データは、CalTaの3次元点群クラウド「TRANCITY」(トランシティー)にアップロードし、出来形を計測する。
今回の検証では、レーザースキャナーを使った測量に比べ、どれだけの精度を担保できるかが検証のポイントとなった。実際に数十のサンプル現場を通じて検証し、点群生成誤差率は1%以内に収まることを確認した。
今回の検証結果は、3工種の出来形計測で抱えていた課題の解決につながる。ネット工では、高所作業車出来形計測を不要とできるほか、防草対策工やのり面工でも出来形計測及び計測データ整理の時間短縮といった効果が見込まれる。植原広平主務は「今回検証した3工種は小規模な工事となることが多く、高額なスキャナーを用いたレーザー測定では労力面やコスト面で現実的ではない。当センターは、埼玉県から栃木県まで広範囲を保守エリアとするだけに、一定量の精度が担保されて手早く計測できる本取り組みを保守エリア全体に導入していきたい」と今後の活用に期待を寄せる。
既に実用化に向けて動き出している。今回の検証を踏まえ、24年6月に「点群による構造物計測の手引き」が制定された。室谷貴弘主務は「来年度からの本導入を見据えており、適用工種拡大に向けてより一層推進していきたい」と語る。