【記念シリーズ・横浜市公共建築】第23回 横浜マリンタワー | 建設通信新聞Digital

4月23日 火曜日

横浜市公共建築100年

【記念シリーズ・横浜市公共建築】第23回 横浜マリンタワー

撮影・太田拓実


【港のシンボル 近く新装オープン】

 観光名所の山下公園や大さん橋、港の見える丘公園などのゲートとして位置付けられる横浜マリンタワーは、横浜港のシンボルとして60年以上にわたり市民に親しまれてきた。開業は1961年。高さは106m。10年前の大規模再生事業に続き、2019年から2年半かけて実施した大規模改修も終了、リニューアルオープンが待たれる。眺望絶佳の一等地で、来館者にとって2層の展望フロアから眺める360度の大パノラマは必見だ。
 

【寄稿・日建設計エンジニアリング部門ダイレクター 小野潤一郎/日建設計コンストラクション・マネジメント上席執行役員 古川伸也/2回の大改修を設計監理】

 横浜開港100周年を記念し建設され、長年民間企業によって保有・運営されてきた横浜マリンタワーは、入場者数の減少に伴う経営難を受けて2007年に横浜市が取得し、開港150周年に向けて全面リニューアルを行うこととなり、弊社が設計監理を担当させていただくことになりました。
 設計にあたっては、横浜が持つイメージの歴史や異国情緒と創造性や先進性を併せ持つ文化を大切にし、横浜を象徴とするアイコンとして人々の心に刻まれるものであり続けることを目指しました。また、民間事業者に施設の運営を委ねる事業スキームの中で、タワーがかつての賑わいを取り戻し、持続できる計画を企図しました。
 約100mの高さにある展望部は、外装を全て更新し、展望窓は小割の窓を4倍の大型の窓にすることで、ベイブリッジからみなとみらいまでの横浜のパノラマビューを楽しめるものにしています。鉄骨造の塔体部は、現行の建築基準法で求められる耐震性を確保するため、外観イメージを損なわない耐震補強を行うとともに、外部側をマリンタワーシルバー、内部側をブラウンオリーブの塗装に一新して新たなイメージを創出し、またタワーの基壇部は、古い外装を取り巻くように同心円状に増築を行い、山下公園側のイメージを一新させています。内部には、当時から残っている、山下清画伯による2面のガラスモザイク画「横浜の今昔」と、かつて世界一高い灯台としてギネスブックに載っていた灯火を鑑賞できるよう、吹き抜けを拡張してメインホールとして設えました。
 2009年のリニューアルから10年が経過し、さらなる長寿命化に向けた改修工事も引き続き行わせていただきました。今回は、塔体に長年塗り重ねられた塗膜とそれに含まれていた有害物質の除去、腐食が進行した部材の更新等と高耐久の再塗装も行い、間もなく竣工・リニューアルオープンします。横浜マリンタワーがこれからも永く存続し、人々に愛され、横浜のシンボルとしてあり続けることを願ってやみません。
 


【清水建設 堤俊明工事長(当時)/工期の6割超が仮設工事】

 工事長として現場を統括した清水建設横浜支店安全環境部の堤俊明さんは「あんなに難しい工事は初めてでした」と施工当時を振り返る。工期11カ月のうち、6割以上の約7カ月を仮設工事に費やしたといえば、その特殊性が分かろうというものである。極端な話、工事は、施工のための仮設足場を架設したら先が見えた、と言って過言ではなかった。
 工事名称「マリンタワー再生事業改修工事(1工区)」。工事内容は灯台と展望台の内外装改修、鉄塔の耐震補強と塗装などで、「展望室と灯台室は外部サッシ、屋根パネルなどを全面更新」したほか、鉄塔の「上部に鋼材を付け足して補強する、いわゆる耐震補強工事と全面塗り替え工事」を行った。完成後50年近くが経過、初めての大改修・再生工事であった。
 マリンタワーは、下から上に細くなり、その頂上部に灯台室(現在は役目を終えている)と展望室が載る。特に灯台室には清水建設が開発した制震装置「スロッシングダンパー」が設置され、現在も機能している。周りは賑やかで、人や車の往来も多い。工事中は多くの人の目にさらされ、海の近くのため強風も吹く。それだけに物の落下はもちろん、墜落転落など無事故無災害を徹底するなど、万全を期した。
 施工の最大の特徴が、立地特性を意識した「美しい景観を損ねない」取り組みである。その達成のため実践したのが「仮設は、本設(マリンタワー)のような美しくスマートな形状とする」こと。名付けて「清水イメージアップ仮設計画」である。
 というのも、このような工事の場合、一般的には養生を兼ねた枠組み足場やブランケット足場を組み合わせて架設する。しかし、着工前の段階で風の強さや高所作業などを考慮して工程を検討した結果、仮設の資材揚重と架設が工事の大部分を占め、工期を順守するのは厳しかった。大部分の仮設工事が高所や空中での作業となるため、安全確保が大変で作業効率も悪く、コスト増になることも懸念された。
 そこで、タワー形状に合わせて3パターンの足場を設置することにした。塔体部分の平面形状変化と傾斜に対応し、昇降できる塗装用「クライミング足場」、展望室のサッシやパネルなどの付け替え作業を安全・安心に、床上で効率よく作業できる「スライド足場」、底部がお椀のような形状の展望室上げ裏改修に、同じく安全で効率よく作業できる「ユニット足場」の採用である。
 特にクライミング足場については「上に向かって細くなるのに従って生じる隙間をふさぐため、足場デッキに跳ね出しステージを取り付けて鉄塔の平面形状に対応できるように」したほか、マリンタワーのように正10角形の鉄塔の場合、5基の昇降足場を配置するのが一般的だが、跳ね出しステージを横方向に自動で伸縮できるように改造した4台で外周を取り囲み、耐震補強や塗装工事を行った。また、「塗装工事での飛散防止にもなる養生シートについても、強風に耐えられるよう結束部分にワイヤーを入れて強化」するとともに、通常は長方形のものを塔部の形状変化に合わせて覆うことができるよう台形の特注品とし、「工事中もタワーのフォルムそのままの美しくスマートな外形を維持」した。コスト削減をはじめ、安全な作業床と飛来落下養生の確保など十二分に効果を上げた。
 「施工は仮設も含めて大変だったのですが、私にとっても思い出に残る現場です」


 
【渡辺組 篠田隆信所長(当時)/エレベーターシャフトを活用】

 新装開業に向けて、約10年ぶりに改修することになった。工事名称「横浜マリンタワー改修工事(建築工事)」。施工は渡辺組が担当した。主な工事内容は、塔体部等の鉄部の劣化補修と塗装改修、屋根や外装の防水改修と塗装改修、低層部内装の美装と更新(横浜市資産の共用部)などである。
 作業所長を務めた渡辺組の篠田隆信工事部次長は「工事のメインは、簡単に言うと塔体の塗装塗り替え工事です。塗装をはがして塗り直すというもので、工事内容には特段、目新しいことはないですね」と事もなげに話すが、実際の施工は容易ではなかった。除去する塗膜に有害物質のPCB(高濃度ポリ塩化ビフェニル)が使われており、除去する際に飛散を食い止める必要があった。しかし、屋内などの閉鎖空間なら対処するのはたやすいものの、鉄塔という吹きさらしの骨組みだけの構造で、ましてや高所での除去作業である。飛散する条件はそろっていた。
 除去にはまず、塔体を上下方向に5分割して区画とし、1区画ずつ順繰りに施工した。「1区画は高さ15m。フレームの足場を組んで外周を防音パネルで覆うのだけど、それだけでは空気の流れは止まらないので、その中にシートとベニヤで水平区画をつくり、さらに内側をビニールシートで養生して内部を負圧防塵装置で負圧にし、万全の飛散対策を取って作業をしました」。1区画につき、フレームを上げるのに3カ月、改装のための棚足場の組み立てに3.5カ月、その解体に3カ月を要した。工期が2年半となった大きな理由に、この仮設工事があった。
 もう一つ、記録しておきたい工夫に、材料等の揚重や搬出に既存のエレベーターシャフトを活用したことがある。「かごの四隅とシャフトの間に10cmほどの隙間があるのに気付き、そこに鋼材4本を仮設し、上端に鉄板を置いてかごに蓋をする。そこを13tに耐えられる構台として工事用エレベーターを設置して、シャフト内を活用しました。提案して、設計変更を認めてもらいました」という。篠田所長は、10年前の低層部・機械棟の改修工事「マリンタワー再生事業改修工事(2工区)」にも参加しており、その時の知識と経験がシャフト活用に生きた。
 

撮影・エスエス東京


◆開業当初は灯台の役割も

 横浜マリンタワーは、横浜開港100周年を記念して建設、1961(昭和36)年1月15日に開業した。設計施工を清水建設が担当。当時は灯台としての機能を持ち、世界一高い地上灯台としてギネスブックにも登録、横浜港の船舶の安全航行に一役買っていた。眼下に山下公園、背後に中華街、近くに港の見える丘公園、大さん橋、港口に横浜ベイブリッジが見渡せる絶好のロケーションで、晴れた日には房総半島や富士山まで望める観光スポットでもある。
 築後50年を前に、横浜開港150周年事業として2008年から約1年をかけて大規模再生改修工事を実施。さらに、この再生事業から約10年、横浜市は再び塔体修繕などを目的とした大規模改修工事を実施、22年3月に終えている。近くリニューアルオープンする。

 
◆施設概要
 
■新築時
▽所在地=横浜市中区山下町14-1
▽用途=灯台、展望塔
▽設計・施工=清水建設
▽構造規模=(展望部、塔体部)S造延べ3325㎡、最高高さ106.2m/(低層部)SRC一部RC造地上4階建て
▽建築面積=約1510㎡
▽工期=1959年12月-61年1月14日
 
■マリンタワー再生事業改修工事(1工区)
▽施主=横浜市
▽設計監理=日建設計
▽施工=清水建設
▽工事内容=灯台部および展望台内外装改修、耐震補強、鉄塔部塗装
▽工期=2008年3月12日-09年2月27日
 
■横浜マリンタワー改修工事(建築工事)
▽施主=横浜市文化観光局
▽設計監理=横浜市建築局、日建設計
▽施工=渡辺組
▽構造規模=展望部・塔体部のほか、低層部は2009年に増築(S造)されて総延べ約4389㎡
▽工事内容=屋根および外装の防水・塗装改修、塔体部等の鉄部の劣化補修と塗装補修、内装の美装・更新、ほか
▽工期=2019年9月-22年3月31日