【世界初の高性能空気浄化システム、実用化へコンテナ型核シェルター】奈良林東工大特任教授ら | 建設通信新聞Digital

5月3日 金曜日

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【世界初の高性能空気浄化システム、実用化へコンテナ型核シェルター】奈良林東工大特任教授ら

◆風呂場をシェルターに/奈良林直東京工業大学特任教授 ラサ工業 木村化工機 森村商事

 原子炉工学の専門家である奈良林直氏が特任教授を務める東京工業大学とラサ工業、木村化工機、森村商事は、有害汚染空気を浄化する空気浄化システムを開発した。核攻撃や核テロなどで生じた放射性物質、サリンなどの毒ガス、ウイルスや細菌などが対象。放射性物質はスクラバーやフィルターなどで固体放射性物質を除去し、毒ガスはスクラバーを使用して吸収させ除去する。ウイルスなどは高純度の次亜塩素酸水に汚染空気を通し、直ちにウイルスを不活化して除菌する。ヨウ素吸着剤の銀ゼオライト(AgX)を入れたフィルターにより、気体放射性物質も取り除くことができる世界初のシステムだ。 実用化に向けた第一歩として、コンテナ型核シェルターを発表。奈良林氏は「有事に備えてシェルターを地下鉄ホームや病院、地下街、商業施設の地下駐車場などに組み込むため、できるだけ川上段階で幅広い事業者とアイデアを共有していきたい」と話す。
 奈良林氏は、2011年に起きた東京電力福島第一原子力発電所事故の後、原発の安全対策の切り札といえる格納容器フィルターベントシステム(FCVS)や、これを応用した空気浄化システムの研究開発を進めてきた。考案したシェルターに採用した空気浄化システムには、「FCVSを開発した高度な技術を、テロ攻撃や感染危機に耐えられるように投入した」と語る。

◆除去率は99.9%以上

空気浄化システムの構成図。実用化に向けて、スクラバーノズルは金型を介して成形できる樹脂製のものを量産化できる体制を整えた


 空気浄化システムは、汚染した空気がスクラバーノズルを通して水と混合し、微細でかつ膨大な数の水滴を生成する。重力の3000倍に相当する遠心力を発生させることで、空気中のウイルスや放射性物質の粒子をはじき飛ばして水中に閉じ込める。除去率は99.9%以上と高い。
 その浄化速度は、ウイルスが充満した部屋の空気を約5分でウイルス検出限界以下にできる。次亜塩素酸水に殺菌力があるため、残った無害の水を排水溝に捨てることができ、後処理が簡単で安全であることも魅力だ。
 空気浄化システムには、直径が2ミクロンの極細で無数の溝があるステンレス製メタルファイバーを用いたフィルターを開発し採用した。目詰まりに強く除染係数が高い。それだけでなく、爆風に伴う火災を想定して1000度以上の高温にも耐えられるという。
 一般的な核シェルターには放射性物質を取り除く機能が備わっていない。しかし、放射性ヨウ素吸着剤となる高性能な銀ゼオライトAgXを活用したフィルターを通せば、放射性物質を除去できる。
 一般的に放射性ヨウ素吸着剤は、温度が高く低湿度で、接触時間が長いほど吸着率が高まるが、ラサ工業の特殊製法によるAgXは「100度以下の低温の高湿度下でも高い吸着性能を示すため、広範囲の使用条件下で高い除染係数が得られる」(ラサ工業の遠藤好司営業部長代理兼開発営業課長)。

 実用化に向けて、米国の核シェルター専門家らの助言を得て完成させたのが、幅2.4m、長さ12m、高さ2.5mの40フィートコンテナ型シェルターだ。地下鉄の駅や商業施設の地下駐車場、地下街などの避難場所に設置でき、4人で1週間程度生活できる機能と安全性を備える。貨物やトラック、海上輸送による輸出を想定し、輸送に便利なコンテナ型とした。希望小売価格は、ISO規格に基づく40フィートコンテナで2800万円程度(施工費別)となる。

地中に設置した40フィートコンテナ型核シェルターのイメージ(奈良林氏提供)


自家発電を装備した20フィートコンテナ内蔵空気浄化システム。非常時の地下空間をシェルターとして活用できる

 大型トレーラーに搭載して全国に陸送できるようにするものなど、多様なコンセプトを思い描く。核シェルター内に設置する小型化した空気浄化システムも開発している。

大容量空気浄化システムを搭載した大型トレーラー。緊急時に建物に浄化した空気を送る


◆極めて低い普及率
 各国の核シェルターの普及率を見ると、米国は82%、ロシアは78%、英国は67%。スイス、ノルウェー、イスラエルは全国民を収容できる100%に達している。永世中立国のスイスは、戸建ての1室に核シェルターを設けるよう法律で義務付けている。集合住宅の地下には住人を全て収容する地下シェルターもある。一方、日本はわずか0.02%と主要先進国と比べて大幅に遅れている。
 奈良林氏は「大都市に核攻撃を受けた場合には多くの国民が命を落とす。特に地下街や地下駐車場、地下鉄構内などを核シェルターとして使えるように至急整備すべきだ」と訴える。
 奈良林氏は、空気浄化システムを使った「マンションの風呂場の核シェルター化」を提案する。有事の際、地下にシェルターがあったとしても高層階から避難していては間に合わない。「大抵、風呂場には窓がない。リフォームや更新の際に厚い鉄扉で遮蔽(しゃへい)すればシェルターになる。たとえ販売価格が上がったとしても、家族をあらゆる危機から守るという付加価値の付いたマンションが、今後求められるはずだ」。ゼネコンや大手デベロッパーの関心も高く、既にユニットバスのシェルター開発に向けて検討を進めている。
 しかし、設置場所や要件は住戸によって異なる。このため「設計段階、ひいては建物のコンセプトを決める川上段階から、さまざまな事業者とアイデアを共有したい」と話す。

高性能空気浄化システムを街のあらゆるところに適用すれば、放射能、ウイルスなどの有害汚染の危機から守ることができる




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