【記念シリーズ・横浜市公共建築】第73回 横浜スタジアム | 建設通信新聞Digital

4月20日 土曜日

横浜市公共建築100年

【記念シリーズ・横浜市公共建築】第73回 横浜スタジアム

◆大規模増築・改修で収容も大幅増
      清水建設設計本部商業・宿泊施設設計部グループ長 平賀直樹氏
      清水建設横浜支店工事長 中村竜平氏
      清水建設横浜支店工事長 三澤裕樹氏

プロ野球・セリーグ、横浜DeNAベイスターズの本拠地で、「ハマスタ」の愛称で多くの人に親しまれている横浜スタジアムは、わが国初の多目的スタジアムとして1978年4月に開業した。昇降式のマウンドを降下させてフィールドをフラットにできるため、各種スポーツ競技やコンサートなど幅広いイベントにも活用されている。コミュニケーションを育むランドマークになりたいという思いを集約した「コミュニティボールパーク」化構想に基づき、2017年から大規模改修に着手、右翼・左翼側スタンドをそれぞれ増設するとともに、新設の左翼側スタンド「ウイング席」、スタジアム外周の回遊デッキ「Yデッキ」、リニューアルしたバックネット裏に「個室観覧席」「屋上テラス席」などを設け、収容人数も大幅に増加して20年に新装開業。ファサードや形状、施設内容も一新し、球場自体が躍動感にあふれる“ボールパーク”として生まれ変わった。

左から三澤氏、中村氏、平賀氏

より魅力的な球場に、いかに生まれ変わらせるか--。清水建設が設計と施工を通じて追求したのは、この1点に集約できる。コンセプトは、野球好きだけでなく、家族や友人、さらには同僚などと集まり楽しんで、コミュニケーションを育む「コミュニティボールパーク」化構想だ。また、実現のための与条件は(1)プロ野球興行を行いながら2シーズン、主にシーズンオフを使って約3万5000人の収容人数とする(2)東京オリンピック2020大会の野球・ソフトボール会場とする--の二つだった。
「今回のリニューアルの背景に、都市公園法の建ぺい率の条例改正があります。それまでの18%から31%に引き上げられ、増築が可能になりました。工事自体は、スタジアムがより収益を上げるため、1塁側ウイングと個室観覧席は1年先行して引き渡しました。そして、20年に3塁側ウイングと回遊デッキが竣工し、グランドオープンしています」(清水建設設計本部商業・宿泊施設設計部の平賀直樹グループ長)。

個室観覧室のバルコニー席


◆既存施設と一体化
 

横浜スポーツタウン構想の中心として位置付け

一方、横浜スタジアムは、リニューアルに際してのコンセプトのほかに、横浜市が描く都市レベルでの「横浜スポーツタウン構想」の中心に位置付けられてもいる。「スタジアムは日本大通りの軸線上にあります。スタジアム前面の中央に噴水があり、スタジアムがそれを受ける形で立地しています。増築するスタンドはあえて、そのライン上まで延ばさず、視線の抜けを確保」(同)することで、開放感を持たせた。市の都市美対策審議会のアドバイスを尊重し、歴史や景観、周辺施設を踏まえ関係者との協議を重ねて調和のとれたデザインにしたという。
また、隣接する横浜公園への動線を意識し、スタジアムを2階レベルで一周する600mのデッキを新設。プロ野球開催時の回遊性を確保するとともに、通常時は市民が散歩しながら球場内を一望できる「ドリームゲート」も提案して2カ所設置した。
既存スタジアムとの一体化も図った。中心座標と観覧席の勾配をそろえてすり鉢状に観覧席を連続させ、2階の回遊デッキレベルで接続することで調和させているが、これは「シームレスに既存部分と増設部分がつながるように、当初から考えていた」(同)ところだという。
一体化を実現する施工技術にメガトラスの構築がある。1塁側のウイング下部には既存の練習場があり、本来ならその位置に柱を設けるが、練習場を有効利用するため約23mのメガトラスで練習場をまたぎ、その上に既存スタンドと一体化したウイング席を設けた。

ウイング席はメガトラスで既存練習場をまたぐ構造


◆効率的に仮囲い移動
増築部分の3次元対応にも工夫した。「1、3塁側の増築部分は、すり鉢状になっています。最上段も同じ高さではなく、少しずつ上がっています。鉄骨を3次元に取り合ってくるので、平面上で表現して鉄骨を製作する段階から大変な思いをしました」(清水建設横浜支店の中村竜平工事長)。
施工技術のソフト対応の点にも特徴的な取り組みがある。「最も苦労したことの一つ」(同)が仮囲いの移動だ。約3万人の観客の避難動線確保は避けて通れない課題で、「年間80日あるプロ野球興行日に工事エリアを開放して、また元に戻すことを繰り返す必要があり、どうやって仮囲いを効率的に移動するかを考えました。アメフトや高校野球の試合の時も実施しましたが、観客が安全に歩行できるゴムマットの厚みにも配慮」(同)するとともに、仮囲いのユニット化などにも工夫を凝らしたという。

中村工事長は、現業長の立場で従事し、基本的にはライトとレフトのスタンド、回遊デッキなどを担当し、増設の観覧棟は同じ横浜支店所属の三澤裕樹工事長が役割分担して担当。「個室観覧棟の記者席の屋根切り替えといった特殊な進め方が求められており、工期も押していましたので、応援の形で入りました」(三澤工事長)。しかも資材確保がタイトになりつつあり、労務も繁忙な時期だった。いまではグランドオープンから2年ほどが経過しているが、「忙しく大変な時などふと、ハマスタを完成させられたのだからできないことはない、と自信につながっている」(同)と振り返る。

景観バランス向上、にぎわい創出
横浜スタジアム 取締役ファシリティー担当 重田克巳

横浜スタジアムの増築・改修工事は、「コミュニティボールパーク」化構想に基づいて実施し、約3年をかけて2020年2月に完了しました。プロ野球開催の稼働率が9割を超え、観戦チケットが入手しづらくなっていたのが増築した最大の理由です。一方で、東京オリンピック2020大会で野球、ソフトボール競技の主会場に決まっていたのも改修の契機となりました。街に開かれたにぎわいの拠点として新装なった「ハマスタ」を一人でも多くの方に体感していただきたいと思っています。

工事に当たっては、職員8人によるプロジェクトチームを設置し、興行を運営する側のプロとして、主にお客さま目線や警備目線で、各施設の配置や観客動線など、細かい部分までチェックや注文をさせていただきました。例えば設計と施工で中心的な役割を担った清水建設さんにはイベントのスケジュールをすべて渡して、興行日には人流を阻害しないように仮囲いを移動させるなどの工夫をしてもらい、工程への影響や手間など大変な苦労をかけましたが、十二分な対応で感謝しています。
港まで600m、横浜中華街や山下公園など横浜市を代表する観光地に立地するこのハマスタが、今回の改修で高さ規制31mのギリギリまでを利用して増築されたことで、“港町ヨコハマ”の町並みを俯瞰して眺めることができるようになり、屋外球場ならではの空との景観バランスも向上し、良好な観戦環境が築けたと考えています。
また、今回の大改修で左翼側と右翼側で計6000席の観覧席を始め、バックネット裏に個室観覧席や屋上テラス席などを増設したことで収容人数は約3万4000人となり、国内の屋外球場では甲子園球場に次ぐキャパシティとなりました。さらに、17年から運用を開始した内野側外周のYデッキに回遊デッキを接続して拡張することで球場を一周する約600mの回廊ができ、市民や通行人にとって開放された場所となりました。これにより、さらに一層の人の流れを生み出す施設となりました。

横浜スタジアムは横浜のスポーツの聖地であり、シンボルでもあります。スタジアムまでの交通アクセスの良さは日本一と言っていいと思います。関内地区の再開発で今年4月からは、旧市庁舎跡地と球場の回遊デッキをペデストリアンデッキでつなぐための工事が始まります。スタジアム、横浜公園、日本大通りのルートの回遊性が一段と高まり、スポーツを核にした地域のにぎわい創出に引き続き大きく貢献したいと思います。

◆関連写真

創建時1979年。すり鉢状のシンプルな形状だった。第20回BCS賞を受賞。なお、新装なったスタジアムは「グッドデザイン賞」「BELCA賞」を受賞している。

港から日本大通りの軸線上にスタジアムが位置している。

2階レベルでスタジアムを一周するオープンスペースのデッキ。球場内を一望できる「ドリームデッキ」(2箇所)が設けられた。

空きブースがわかるLED照明を設置したトイレ。ほかにも1、3塁側のウイング席に車いす席を設け、9基の大型エレベーターも新設するなどサービスレベルは格段に良くなった。

屋上のバーベキューテラス席。

最寄り駅の一つ、JR関内駅側の新しいアイコン。カラーも統一された。

◆工事概要
▽所在地=横浜市中区横浜公園
▽主要用途=観覧場
▽建築主=横浜スタジアム
▽設計=清水建設一級建築士事務所
▽施工=清水・馬淵・大洋共同企業体
▽CM=山下PMC
▽敷地面積=6万3787.16㎡
▽建築面積:2万3207.02㎡
▽延べ面積:4万6295.04㎡
▽階数=地下1階地上4階塔屋1層
▽最高高さ=3万0980mm
▽構造=(主体構造)S造、SRC造
▽敷地条件=商業地域、防火地区

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