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【AI解析で道路点検手法を変革】アーバンエックステクノロジーズ 前田社長

 高度経済成長期に整備した道路の老朽化が社会問題となる中、整備やメンテナンスを担当する自治体職員が著しく減少していることから、人手不足を補う先端技術が注目されている。東京大学発のスタートアップ、アーバンエックステクノロジーズ(東京都渋谷区)は、スマートフォンや車載カメラ、AI(人工知能)などを活用し、自動で道路損傷を検知するサービスを提供し、全国自治体の道路メンテナンスを支援している。前田紘弥社長に今後の展開を聞いた。
 

RoadManagerの概要

 (まえだ・ひろや)2018年東大工学系研究科修了後、三菱総合研究所入社。20年4月アーバンエックステクノロジーズ設立。21年3月博士号取得。長崎県出身。1993年生まれ、29歳。

 管理対象の道路は膨大にあるが、その点検手段は、専門職員による目視と高価な専用車両に頼っているのが現状だ。専門職員の不足や予算不足により、十分な管理を実施できない自治体は多い。
 同社が提供する道路損傷検知サービス「RoadManager」は、スマートフォンを車に取り付けて走るだけで、事故につながる損傷を画像から自動で検知する。スマホに搭載したAIが検知する損傷箇所はネット上で共有し、市庁舎のパソコン画面の地図に損傷箇所の場所や写真が表示される仕組みとなっている。

 既に東京都のほか、神奈川県や和歌山県など全国22の自治体が導入している。ある自治体は「検知はソフトウエアに任せ、職員は修繕の対応により多くの時間を使えるようになった」とし、これにより、年間の道路修繕の実施を3倍に増やせたという。別の自治体は「点検職員による判断のずれがなくなり、基準が統一された」と利点を挙げる。「大きな点検車両では回りきれない細い道も巡回できるようになった」との声もあるなど好評を得ている。

「RoadManager」では、検知した損傷をウェブダッシュボードで検索し、作業指示書を出力することができる


 2021年12月からは、三井住友海上火災保険と共同し、パトロール走行を行わずに広範囲の路面情報を把握するサービス「ドラレコ・ロードマネージャー」の運営を始めた。三井住友海上火災保険の自動車保険に付帯するドライブレコーダーは、法人向けで数万台ある。これを搭載した車両が地域を走行して取得するリアルタイムの映像データと、アーバンエックステクノロジーズのAI画像分析技術を組み合わせることで損傷箇所を見つけるサービスだ。
 既に品川区や兵庫県尼崎市などの自治体で実証実験を行い、道路損傷箇所の検知精度に対し高い評価を得ている。ユーザーにとっての利便性が高く安心性の向上に貢献する点が評価され、22年度グッドデザイン賞を受賞した。
 販売先は主に全国の自治体を想定しているが、自治体から道路管理業務を受託しているゼネコンや道路会社との交渉も進めている。「会社規模を問わず、当社のミッションに共感してくれる企業がいれば、ぜひお声かけいただきたい」と呼び掛ける。

◆AI活用、豊かな街に
 幼い頃は両親の故郷・長崎県五島列島で過ごした。ここで道路や橋などのインフラが人々の暮らしを支えていることを実感したこともあり、大学では土木工学を専攻した。自治体の協力を得て道路の損傷画像をもとに道路点検AIの研究を行なった。在学時から研究していた技術が同社のサービスの基盤になっている。東大大学院を修了後、三菱総合研究所でインフラ関連企業の海外進出を支援する業務を担当した。学生時代の研究を社会実装するため、20年にアーバンエックステクノロジーズを設立した。「街の課題をソフトウエアの力で解決し、豊かな街をつくることに貢献したい」との思いが根底にある。

◆路面以外や海外進出も
 社名に「アーバン」の文字を加えたのは、「路面管理だけに限らず、地域全体に喜ばれるものを提供したい」との思いがあったからだ。将来的には、車載カメラに映る電線や電柱、信号などの道路以外の構造物も対象にしたいと考えている。
 「都市インフラの課題は世界共通の部分も多い」とし、海外展開も視野に入れる。既に国土交通省のプロジェクトを通じて、試験的に各国のインフラメンテナンスに導入されている。まだ本格的な導入には至っていないものの、「必要性は彼らも感じてくれている。できるだけ本格導入にこぎ着けるように頑張りたい」と意気込む。
 「基本的には街のつくりが似ているアジアの国が適していると思うが、各地域に根差したインフラ整備のシステムやマインドセットがある中で、業務オペレーションとセットでサービス提供するのは容易ではない」。最終的には「人間関係が鍵になる。できるだけ早い段階から進出し、関係を構築していきたい」と先を見据える。


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