【建て替え】日本初の民間分譲マンション「四谷コーポラス」、歴史や思い出生かし再建へ | 建設通信新聞Digital

4月24日 水曜日

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【建て替え】日本初の民間分譲マンション「四谷コーポラス」、歴史や思い出生かし再建へ

築61年、日本初の民間分譲マンション「四谷コーポラス」

 日本初の民間分譲マンション「四谷コーポラス」。1956年竣工の集合住宅は、大規模な再開発が動き出したJR・東京メトロの四ツ谷駅に近い東京都新宿区にある。管理組合による建て替え決議が3月25日に成立し、5月には全員合意となった。入居者の転居後、9月には解体工事に着手する予定。事業協力者には、マンション建て替えで業界トップレベルの実績を持つ旭化成不動産レジデンスが参画し、再建マンションの検討を進めている。日本のマンションの黎明(れいめい)期の記念碑的な建物にスポットを当てながら、2019年完成に向けて動き出した建て替え事業の動向を見る。

◆集合住宅の歴史
 日本の集合住宅は、関東大震災後の復興のために海外から寄せられた義援金などをもとに設立された財団法人同潤会が、大正末期から昭和初期にかけ東京・横浜各所に建設した賃貸集合住宅「同潤会アパート」に始まる。一方、戦後に建設され現在の分譲マンションの先駆けの1つが、1956年竣工(設計・施工=佐藤工業)の「四谷コーポラス」だ。62年の区分所有法施行以前の建物で、所有形態の位置付けや共用部の管理責任などが明確ではなかった時代に、初めて民間企業によって運営管理がされた。
 また、当時の住宅販売は現金一括払いだった。現在のように住宅ローンが一般的でない中で割賦販売したのも大きな特徴の1つ。割賦販売が民間分譲マンションに適用されたのはこれが初めての事例とされ、後に広く行われているマンション販売の先駆けとなった。その後、62年に区分所有法が施行され、資産としての位置付けが明確化して担保対象として銀行の融資も受けられるようになり、63年以降の第1次マンションブームにつながっていく。

◆建物と住戸の特徴

共用部廊下

 「四谷コーポラス」は、RC造5階建て延べ2290㎡の規模で、外堀公園を見下ろす形で立つ28戸のマンション。当時は珍しかった「メゾネットタイプ」の間取りが取り入れられ、1階から入って1・2階を使う住戸や、4階から入って3・4階を使う住戸などがあり、結果的に2階・3階には玄関がないことも特徴だ。旭化成不動産レジデンスでは、これによって「間口が狭く南北に長い敷地でありながら、共有部をコンパクトにし、住戸内に豊かな空間を創出するなどの工夫がされている」と分析する。
 「A型」と名付けて販売されたメゾネットタイプ(約77㎡)の住戸は24戸。間取りは、上階をメインルームとして和室が3室(6畳、4.5畳、4.5畳)と浴室・トイレ、下階をサブルームとして玄関とLDKが配置されている。設備・仕様には、フローリング敷きや、当時は珍しかった浴室が各戸に設置。また、管理人による洗濯クリーニングの取り次ぎなど、現在のサービス付きアパートメントのようなサービスの提供が民間で初めて試みられた。

管理人室

 こうしたメゾネットタイプの住戸の販売価格は1戸233万円。大卒の初任給が1万円程度だった当時では、時代の最先端をいく高級住宅だった。フラットタイプ(約51㎡)も4戸ある。

◆建替え事業の概要
 築61年を迎える集合住宅の再生計画は、管理組合で建て替えや大規模修繕などの検討会が2006年にスタート。東日本大震災を機に耐震性能や給排水管の老朽化などを理由に建て替えを中心とした検討に移り、決議が成立した。

敷地南の庭からの外観

 分譲当時の購入者が長く所有し、その後転売することなく相続されてきたケースが半数以上を占める。昔からつながる住民同士の関係も健在で活発な管理組合活動が維持されてきたため、比較的短期間での建て替え決議が実現した。
 建て替え事業手法は、等価交換方式。建て替えの特徴は、「床面積が大きく増えるケースでないにもかかわらず、暮らし勝手の良さや住まいへの愛着から、区分所有者の大半が再建後のマンションを再取得することを前提に計画される」(旭化成不動産レジデンス)。
 区分所有者の9割が再建後のマンションの再取得を予定しているのも特徴の1つ。そのため、建物計画は「住宅メーカーが造るマンションという強みを生かし、再取得住戸は権利者それぞれの思いや要望に丁寧に応えるオーダーメイドの住戸プランニングを予定している」(同)。また、四谷コーポラスの歴史や思い出を生かしたマンションを再建することで、所有者・居住者が再び長く愛されるよう取り組む考えだ。

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