【記念シリーズ・横浜市公共建築】第97回 消防本部庁舎 | 建設通信新聞Digital

5月4日 土曜日

横浜市公共建築100年

【記念シリーズ・横浜市公共建築】第97回 消防本部庁舎


 “安全・安心を実感できる都市ヨコハマ”実現への象徴となるプロジェクトがある。市民の安全・安心を守る司令塔として、消防・防災活動の中枢を担う「消防本部庁舎等整備事業」だ。心臓部である司令センターを配置する新たな本部庁舎は免震構造を採用。大規模な災害が発生した場合でも、継続的に機能を発揮できる活動拠点の整備が着々と進む。

 消防本部庁舎等整備事業は、中核となる消防本部庁舎の整備と消防通信指令システムの更新を一体的に行う。老朽化への対応や機能強化といった従来からの課題解消を目的に移転整備した保土ケ谷消防署の解体跡地に新たな消防本部庁舎を建設する。

上空から


 新たな消防本部庁舎は、新築棟の本館がRC一部PRC・SRC造地下1階地上7階建て塔屋2層延べ1万1412㎡の規模。司令センターや消防本部運営室、屋上に消防ヘリコプターの離発着場などを備えた消防本部の中枢となる。S造3階建て延べ423㎡の倉庫棟(別棟)は耐震構造で特別高度救助部隊(スーパーレンジャー、通称SR)の車両や資機材などを保管する。SRC造地下1階地上5階建て塔屋1層延べ3010㎡の既存棟は現在の司令センターが移転した後、緊急消防援助隊などを受け入れる諸室や特別高度救助部隊の執務室などを備えた別館として改修する。

 消防・防災活動の中枢である本部機能の継続性の観点から新築棟には免震構造(1階柱頭免震)を採用。計画規模の浸水に備え、止水板や止水扉、水密マンホールを設置するほか、指揮・情報収集の拠点となる司令センターや機械室、非常用発電機などの重要設備を上階に配置することで、最大規模の浸水(水害)にも備えていく。継続した電力確保のため、非常用発電機の多重化や7日分の燃料も備蓄。大規模災害時でも消防機能が発揮できる自走式地下駐車場を整備する。

 設計は松田平田設計、建築工事の施工は戸田建設・小俣組・小雀建設JVが担当する。工期は7月31日まで。指令システム設備の更新工事を経て、10月10日に開庁し、11月9日から司令センターの運用を開始する予定だ。別館は2024年度末の運用を目指す。

丸橋JV部長


 建築工事を担う戸田建設JVの丸橋靖明作業所長は「われわれ施工者の役割は設計者の意図をいかに的確かつ忠実に再現できるかということにある。それが最終的に発注者である横浜市が求める“安全・安心を実感できる都市ヨコハマ”の拠点の構築につながっていく」と言い切る。

 その言葉に集約されるように「設計者の意図をいかに具現化するか」を重視。設計者とのコミュニケーションの中で「お互いのイメージをすりあわせてきちんと共有できていることが大きい。何よりも“良い建物を造りたい”という向かうべき方向性は同じ。その思いは間違いなく共通している」と話す。

 実際に「消防本部としての機能を継続的に発揮させるための免震構造の採用だけでなく、しっかりとした硬さを感じさせる建物のファサード(外観)は市民にとって困ったときに頼りになる。そんな安心感を与える」とも。

 「市民に親しまれる頼りがいのある建物になってほしい」とするように“堅牢な建物を”という設計のコンセプトが「われわれの施工によって、できるだけ多くの人に伝わってほしい」と力を込める。

 新築工事は2020年12月から本格着手した。地上部の立ち上げでは狭あいな敷地とあってタワークレーンを1階の梁に抱きつく形で設置し、作業空間を確保したという。クレーンの作業半径が限られる厳しい制約条件の下で日々の打ち合わせを徹底し、緻密な作業工程を組み立ててきた。

 隣接する保土ケ谷区役所とNTT新保土ヶ谷ビルに挟まれた建設地は「道路に面した出入り口のゲートが1つしかない。思っていた以上に歩行者や車の往来が多く、間口が狭い上に奥行きもあるため資機材の搬出入調整に腐心した」とふり返る。

配置図

 ゲート前面には常に3-4人の交通誘導員を配置するなど、「市民の安全・安心を守る消防本部庁舎の整備で事故を起こすことが絶対にあってはならない」と、第三者対策をはじめ安全には細心の注意を払って施工を進めてきた。

 1月末現在の進捗率は81%。着工からの無災害記録は延べ26万3568時間(1月末現在)でいまなお継続中だ。最終的には延べ31万時間の目標達成を目指す。

 今後、仕上げ工事が本格化する。「日ごろから協力会社の作業員と知恵を出し合いながら、これまで予定どおりに施工を進めてきた。施工のプロフェッショナルとして、現場に携わる作業員それぞれが持てるスキルをしっかり発揮できる“適材適所”の現場運営を続けることで、最後まで気を抜かずに施工を進めたい」と意気込む。

【設計のポイント・大規模災害時も機能を継続発揮/松田平田設計 横浜事務所設計部長 浅野智之】

浅野部長


 現横浜市消防本部が抱える主な課題として、「大規模災害時に災害対応の方針決定及び緊急消防援助隊などの関係機関との調整を行うためのスペースが不十分」「情報収集機能の中枢である司令センターが消防本部と別棟になっている」「耐震構造基準には適合しているが、大規模地震発生時に、建物内部や重要機器が被害を受ける恐れがある」等があった。この課題を解決し、消防防災活動の中枢としての役割を果たす庁舎として4つの基本方針をもとに「災害に強い消防本部庁舎」を目指した。

(1)迅速かつ機動的に消防機能を発揮できる庁舎
 「消防本部体制の強化」として、司令センターを中心に消防本部運営室や本部会議室など本部機能を集約することで、迅速な対応ができる構成とした。司令センターは将来の機能更新を見据え、消防本部運営室と入替可能なレイアウトとしている。

(2)大規模災害にも消防機能を継続発揮できる庁舎
 「消防本部機能の継続性の確保」として、本建物は免震構造を採用している。1階部分をピロティとして特別高度救助部隊(スーパーレンジャー、通称SR)の駐車スペースを配置した。その駐車場上部に免震装置を配した中間層免震としている。これは千年に一度の大規模水害が発生し、建物が冠水した場合でも免震層を守り、機能継続できる構造形式である。また7日間運転可能な自家発電設備や緊急汚水槽、中圧ガス利用など消防機能継続対策を行っている。

(3)安心、信頼を実感できる庁舎
 「公助に触れ、安心・信頼を実感できる庁舎」として、市民が見学できるルート、場所を設けた。見学室となる消防本部会議室から、隣接した司令センター・消防本部運営室を見渡すことができる。

(4)社会の変化に柔軟に対応できる庁舎
 「将来的な執務環境の変化に柔軟に対応」できるよう、PRC梁の採用により執務室内に柱を設けない工夫をし、かつ「天井レス」「床下輻射吹き出し空調」を採用することで、高さ制限の中で最大限の天井高を確保したレイアウトフリーオフィスを計画した。この「天井レス」は、地震時、万が一の天井落下の恐れがないよう考慮したものでもある。

完成予想図


【プロジェクト概要・迅速で機動的な対応力強化】
 大規模地震発生の切迫性が高まり、集中豪雨などの激甚化する自然災害が頻発する中で、災害に対する備えに万全を期すことは喫緊の課題となる。横浜市の中央に位置する保土ケ谷区で建設が進む新たな消防本部庁舎は、まさに「安全安心を実感できる都市ヨコハマ」を実現する拠点として、消防・防災活動の中枢となる消防本部機能の強化を図り、その役割を十全に発揮できるための工夫がさまざまに施されている。

 大規模地震や水害時の機能継続を踏まえて新築棟(本館)の1階に柱頭免震(アイソレーター20基)を採用。別棟の倉庫棟上階には浸水想定を踏まえて受水槽を設けるなど、災害に強い庁舎を具現する。

 司令センターと消防本部運営室、消防本部会議室は本館中央の4、5階に一体的に整備。各種カメラなどの映像情報を共有することで、迅速かつ円滑な情報収集・処理と意思決定を可能とし、災害対応力を向上させる。

 さらに緊急消防援助隊などとの連携強化に向けて受け入れ機能も整備。災害情報の収集と集約、関係機関との調整を図る作戦室を事務フロアに整備するなど、迅速で機動的な消防本部機能の強化を図る。個室化した仮眠室やシャワーブースの整備など、当直環境の改善に取り組むことも特長といえる。

 

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