一方、東京理科大学で建築を学びコロンビア大学に留学したものの、広告代理店を経由してメディア・アートに進出。最新のテクノロジーを利用して多くの産業や企業とのコラボレーションを通し、デジタル領域からまちづくりにもかかわる齋藤氏は「(顧客の)ディベロッパーは経済効果を優先するのに対し、建築家の仕事はエモーションが優先される。そのかい離が大きく、ディベロッパーとの仕事では建築家の役割が監修だけに限られることが多い」と指摘。そのギャップを埋める中間的な立場から、プロジェクトのコンテンツづくりやプロモーション、サポートなどに携わる機会が多いとした上で「美しい、使いやすいという発想に加えて、建築家がデータに裏付けされた運営的な提案をすることで計画自体が変わるのではないか」と、経営面に踏み込んだ思考領域の拡大を促した。
「世界一の企画会社を標榜している」というカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)で全国の蔦屋書店の開発に携わる田島氏は、全国に1394店舗展開しているTUTAYAや蔦屋書店などを「新しい生活スタイルの情報を提供する拠点だと考えている。実店舗は厳しい時代だが、最大の顧客価値は居心地にあり、人が集まってコミュニケーションすることに価値がある」と魅力的な空間を提案し続ける同社の取り組みを紹介した。
それぞれのバックグラウンドを踏まえ建築的思考の可能性を探ったパネルディスカッションでは、齋藤氏が「建築家は分野を超えて学ぶことができる人たちであり、どんなスケールでも扱える」と建物以外にも幅広く建築的思考が通じることを力説した。
建築家とのコラボレーションについて田島氏は、さまざまなクリエイターが参画した代官山T-SITEでは「互いの価値観をぶつけ合う中で、新たな価値観が生まれた」と振り返った。さらに“アートのある暮らし”をコンセプトにギンザシックスに出店した蔦屋書店の取り組みに触れ「クリエイティブなものが価値を持つ世の中になってほしいという希望もある。建築的な思考を含めて日本が世界をリードできる分野だと考えている」と建築家が持つ創造性に期待を寄せた。
鈴野氏は「著名なブランドを始め、どの分野にも建築出身者がいて、店舗などのブランド戦略づくりに活躍している。建築は発展や応用が利く分野だけに、閉じるのではなく、より開いていくことが大事だ」と強調した。
齋藤氏は「建築家は世の中にあるすべての単位を扱え、すべての業種と共通言語を持ち、接点を持てる職業だ。建築的な視点でものを見るなど建築思考のプロセスがあれば、縦割りが多いいまの世の中をつなぐことができる。その根幹にあるのが建築教育であり、そこが変われば建築のポテンシャルも上がるのではないか」と建築教育のあり方にも言及した。