【道路マニア"みっちゃん"が魅力発信/道路を楽しむポイント/高橋良和京大教授】 | 建設通信新聞Digital

5月17日 金曜日

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【道路マニア“みっちゃん”が魅力発信/道路を楽しむポイント/高橋良和京大教授】

高橋教授

 土木学会の人気イベント「どぼくカフェ」を創設し、土木と社会のつながりの再構築に挑む京都大学工学研究科社会基盤工学専攻構造ダイナミクス分野の高橋良和教授。道路マニアの“みっちゃん”など、多彩なジャンルの土木ファンが集う場を設け、身近過ぎるがゆえに気づきにくい土木の奥深い魅力を発信し、世の中を盛り上げることに奔走する。「現役の土木管理者自身が土木を楽しみ、おもしろさを感じることが大切。それが利用者である国民の幸せにつながる」と話す高橋教授に道路を楽しむポイントを聞いた。

――どぼくカフェを始めたきっかけは

 私は橋梁分野の耐震工学を研究対象にしています。土木は「災害科学」であり常に弱点の克服が求められます。それゆえ対策ができているときは着目されず、うまくいかないときだけクローズアップされ悪目立ちしがちです。そんな土木の魅力を一般の人に知ってもらうため、どぼくカフェを始めました。

 土木施設は本来、日常をつくるものです。だから災害や事故などで日常が破られたときに初めて大切さが認識されます。大切だからといって直接趣味になるほど魅力的とは言えません。趣味は非日常と結びつきやすく、日常であるほど対象になりにくいからです。

 土木の中で人気のあるダムは巨大さゆえに非日常感を味わえます。鉄道は最新車両やSLなどコンテンツが豊富です。一方、道路を楽しむには、道路の歴史や起点終点などの知識を掛け合わせる“教養”が必要です。そうすることでいつもの景色が違ったものに見えてきます。工夫がいるだけに、関心がない人を無理に呼び込むのは難しく、相手に気づいてもらうことが重要です。そこで日常生活で土木の魅力が伝わるよう2014年から平日の街角でどぼくカフェを開き、さまざまな土木好きに講演してもらうことにしました。

「道ちゃん大集合!」をテーマとしたどぼくカフェにて、頭上で三角マークをつくり国道標識を表現したみっちゃんポーズ


――「みっちゃん」にとって道路の魅力とは

 10年ほど前に「酷道」をテーマに企画したとき、プレゼンした京都府の道路管理者が「鉄道の『てっちゃん』ならぬ道路の『みっちゃん』が必要」と提言し、みっちゃんが生まれました。それ以来、私も意識して発信しています。

 みっちゃんは、インテリチックな知識に加え「生き死に」のようなエモーショナルな部分にも引かれます。土木施設は未来永劫使われるイメージがありますが、実際には「廃道」のように終わりがきます。国道が役割を終えて県道になることもあり、そうしたストーリーが心に響くのです。

 私が感銘を受けたのは、海上国道として鹿児島市と那覇市を離島を経由しながらつなぐ国道58号です。昔の国道は一級と二級に分かれていて、幹線道路の一級国道は1桁と2桁の数字で表示されます。そこから各地を結ぶ二級国道は3桁で表示します。昔は3桁の国道が2桁に「昇格」したり、逆にバイパスができて国道が取り消されることもありました。それが1965年の法改正で全て一般国道になりました。一級国道は57号が最後となり、それ以降につくられる国道は全て3桁になりました。

国道58号


 国道58号は沖縄が米国から返還されたときに国道になった道路です。一般国道の考え方では3桁になるのですが、一級国道を示す58号が与えられました。一級に相当する番号を特別に与えることで沖縄が重要であることを宣言したのです。画一的ではない、心が通う道路行政にぐっときます。

――一般の人が道路に親しむ方策は

 例えばダムマニアには、ダム管理事務所が発表するハイドログラフを理解できる人がいて、読み取った情報をSNSで発信しています。雨がやむと放流が重要な操作になりますが、そのときもマニアはダムの操作を見ながら「あの人が頑張っている」「放流を最大にしたね」などとツイートし、管理事務所が発表する専門情報を一般の人に分かりやすく翻訳してくれます。そうした役割分担があります。

 ダムマニアが増えた理由の一つに、ダムカードなどを通じた管理者とマニアの交流があります。国土交通省によるとダムカードはパンフレットの一つで、マニアの意見を取り入れてつくられました。ダムカードが盛り上がることで、ダムに関わる人たちも元気になっていきました。

 上手なのは、管理事務所まで行かなければカードをもらえないことです。管理事務所は一般の人には遠い存在ですが、カードをもらうには行かなければなりません。そうすると事務所の土木技術者が、わくわくした一般の人と接することができます。普段は苦情の対応がほとんどのため、ダムカードを通じてポジティブなコミュニケーションが生まれました。道路にもこうした取り組みが必要だと思います。

――今後期待することは

 道路は日常極まりない施設のため、興味を持ってもらうのが難しいです。だからこそ、そのハードルを越えて魅力を感じられるようになれば、自分たちの“日常”そのものにも興味を持ち、より生活が豊かになります。道路の理解が深まることで維持管理に必要な税金や、道路工事の騒音などへの反応も変わります。今の土木が抱えるさまざまな問題の解決につながると思います。そのためにも“なかの人”による魅力的な発信が重要です。しかも、それを8月10日の道の日に実施するべきです。

 どぼくカフェは関西支部で50回を突破しました。土木をおもしろがる人が講演すると聞く方も楽しくなります。道路管理者も義務感だけで仕事するのでなく、よりポジティブな思考をすることで受益者たる国民の幸せにつながります。今ならみっちゃんの世界はてっちゃんに比べてはるかに敷居が低いため、どんどん飛び込んでほしいと思います。

 

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