【本】農業研究者が記録した自助・共助・公助連携による大災害からの復興  | 建設通信新聞Digital

4月25日 木曜日

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【本】農業研究者が記録した自助・共助・公助連携による大災害からの復興 

『大災害からの復興』門間敏幸編著(農林統計協会、3800円+税)

 大災害からの復興促進には、被災者個々の「自助」、ボランティアやNPO、企業、大学による「共助」、国、自治体や公的機関などの「公助」活動の緊密な連携がかぎ。東日本大震災などこれまでの多様な大災害復興での被災地調査や支援、ヒアリングを通して農業研究者の立場から実証した11章に及ぶ貴重な記録である。
 著者は、2011年5月にスタートした東京農業大学の東日本支援プロジェクトのリーダーとして福島県相馬市の農家、耕作地再生の先頭に立った。転炉スラグを用いた塩害水田の再生は「農大方式」として関係者の間で話題を呼んだが、本書第3章で展開される発災当初から復興までの克明なプロセスレポートは、「事前復興」シナリオの作成にも大いに参考になるドキュメントだ。
 大学、ヤマト福祉財団による共助活動と市や農業機関などからの公助による支援が被災農民の自助活動を支え続け、東日本大震災の被災農地の中ではいち早く作付けにこぎ着けた。自助、共助そして公助のいわゆる『3助』の連携と首長のリーダーシップ。迅速な復興には不可欠とする本書の核をなす。
 第4章では、放射線汚染地域の農林業復興にも言及する。同市内での農地1筆単位の放射性物質モニタリングの実践による被害農民との対話を通して「公助サービスの考え方の転換と、大学等との共助による未来農業創造の羅針盤の提供」こそ、減る一方の担い手育成対策と指摘する。チェルノブイリ事故関係者への現地ヒアリングをもとに風評対策に関しても論評する。
 最終の11章。「東日本大震災は津波被災地の農業を20-30年先にタイムスリップさせたことを示す。現在、津波被災地で誕生している農業の担い手経営は、将来の日本農業の担い手の姿を現す」と評価。
 その新たな担い手支援の1つとして筆者はオーダーメイド経営モデルを開発し、『3助』連携活動による普及を提唱する。
 東京農大・東日本支援プロジェクトの取り組みをベースに「三宅島火山噴火」「口蹄疫災害」「雲仙岳噴火」「奥尻町津波」など多種多様な大災害における農業の復興プロセスを分析し、その研究成果の集大成としてまとめられた本書。
 「大災害からの迅速な復興では自助・共助・公助連携が重要であることを強く認識し、望ましいあり方を追求するとともに、災害復興研究の一里塚となることを目指した」。著者は出版意図をそう語る。

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