【"これから"の手がかり】「系譜」と「批評空間」で分類・展示 「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」展 10/29まで | 建設通信新聞Digital

4月30日 火曜日

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【“これから”の手がかり】「系譜」と「批評空間」で分類・展示 「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」展 10/29まで

清家清設計の「斎藤助教授の家」を原寸大模型で再現した

 日本の住宅建築を成立させる条件が大きく変わった戦後に焦点をあて、56組の建築家が手掛けた75件の住宅を、400点を超える模型、図面、写真、映像などで紹介する展覧会「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」が、東京都千代田区の東京国立近代美術館で開催されている。時系列ではなく、「系譜」と「批評空間」の概念を用いて13のテーマに分類し展示することによって、「日本の家」の特徴を浮かび上がらせようとする今回の試みは、少子高齢化や晩婚化・未婚化など家族像が揺らぎ、住まいのあり方が変わりつつある今日、これからの「日本の家」とは何かを考える視点を与えてくれるものでもある。 この展覧会の企画は、国際交流基金の依頼のもと、同美術館の保坂健二朗主任研究員とチーフ・アドバイザーを務めた塚本由晴東工大大学院教授・アトリエ・ワン主宰により考案された。昨年11月からイタリア・ローマのMAXXI国立21世紀美術館で日本とイタリアの外交関係樹立150周年を記念する展覧会として開催され、ことし3月からは英国ロンドンのバービカン・センターでも開催。合わせて15万人を超える来館者が訪れ好評を博した。
 19日からの東京展開幕に先立ち、18日に開かれた記者発表会で保坂氏は、「日本の建築家は世界的に非常に高く評価されている。建築界のノーベル賞とも言われるプリツカー賞を日本人が米国人に次いで多く受賞している事実はそれを示している。なぜそれほどまでに高い評価を受けているのか。日本の建築家が住宅をつくるという営みを制度的に長く続けていることがあるからではないか」と指摘した。
 戦後の住宅不足を解消するため、1950年に建築基準法と建築士法、住宅金融公庫法が制定されたことで、「建築家たちが最も根源的な家という建築にずっと向き合うという日本特有の状況」を生みだし、「今日の日本の建築の評価を裏付ける理由になっている」というわけだ。

13のテーマに分けて日本の建築家による住宅建築を紹介する

 展示のキーワードである「系譜」については、1つの起源にたどり着こうというものではなく、むしろ「根のないこと、あるいは根は無数にあることを認識すること」であり、それを「どういう概念で結びつけることができるか。今回設定した13のテーマ(系譜)は今後日本の、世界の家を考えていく上で重要になる、あるいは欧米やアジアにも提案したい重要な系譜をまとめた」と語った。
 もう1つのキーワードである「批評空間」について、塚本氏は「歴史的弁証法ではないやり方をしようというのが基本的な考え方。文化人類学とか民族誌の持っている構造に注目した考え方でもある」とした上で「同じような、似たような関心がいくつかあるならば、その関係性の中に1つの批評空間が生まれる」と説明した。

チーフ・アドバイザーを務めた塚本氏

 「通時的な時間軸ではなく、共時的に、どの時代をどういうふうに取り寄せて議論しても構わない。昔の建物も入っていれば最近の建物も入っている。それらの家は同じ批評空間の系譜にあると言えるし、その批評空間をもう1回取り出してアプローチしてもいい」という。
 例えば「いまインバウンドが注目される中で、今回の批評空間の1つである『日本的なるもの』が改めてフォーカスされることは十分にあり得るし、既にそういうことは始まっているような気もしている」とし、「そういう形で受け継がれていくのだなと、この展覧会をやって実感した」と語る。

出展建築家を代表してあいさつする伊東氏

 18日には開会式もあり、出展建築家を代表して伊東豊雄氏は「それぞれの建築家の関係は往々に緊張のある関係があって、そしてまたお互いに最大限敬意を払いながら、しかし極めてお互いを批評的に考えてきたという、このすばらしい関係の延長上に、どのような家があり得るのかということを、これからの若い建築家の方々は問われている。それが今回の展覧会の大きなテーマではないかと感じている。これからどのような住宅が生まれてくるのか、大きな期待を抱いている」と期待を込めた。
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 展覧会では、語り継がれてきた名作から現代社会を反映する話題作まで、さまざまなタイプの住宅建築を幅広く取り上げ、「日本的なるもの」「プロトタイプと大量生産」「土のようなコンクリート」「住宅は芸術である」「閉鎖から開放へ」「遊戯性」「新しい土着:暮らしのエコロジー」「家族を批評する」「脱市場経済」「さまざまな軽さ」「感覚的な空間」「町家:まちをつくる家」「すきまの再構築」の13テーマに分けて展示している。日本の建築史に残る名作でヴァルター・グロピウスを感動させたという逸話も残る清家清設計の「斎藤助教授の家」の実物大模型も見どころの1つ。会場デザインはアトリエ・ワンが担当した。会期は10月29日まで。開館時間は午前10時-午後5時(金・土曜日は午後9時まで)。月曜日休館。

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