【BIM/CIM原則化元年②】インタビュー 国土交通省BIM/CIM推進委員会委員長 大阪大学大学院工学研究科教授 矢吹信喜氏 | 建設通信新聞Digital

5月2日 木曜日

B・C・I 未来図

【BIM/CIM原則化元年②】インタビュー 国土交通省BIM/CIM推進委員会委員長 大阪大学大学院工学研究科教授 矢吹信喜氏

【革命的生産性向上の実現へ】
 国土交通省による直轄事業の業務と工事へのBIM/CIM原則適用が2023年度から始まった。今年度は義務項目と推奨項目の二つの方式で生産性向上につなげる。BIM/CIM推進委員会委員長の矢吹信喜大阪大学大学院工学研究科教授に、原則適用により建設生産方式を変革するメリットと今後の方向性について聞いた。
未来ビジョン持つ人材育成/次年度はデータ利活用の高度化検討

――BIM/CIMを導入するメリットは
 「今年度からBIM/CIMは業務と工事に原則適用された。建設コンサルタントの場合は、3次元で設計することでミスが劇的に解消されるのが最大のメリットだ。構造物を2次元で設計すると平面図、断面図などたくさんの種類の図面が必要になり、設計が進むと枚数がどんどん増えていく。一つ設計変更があると影響を受ける図面は数十枚に及び、一つひとつ手作業で変えると大変な作業になる。一方、BIM/CIMは最初に3次元で設計し、そこから2次元図面を切り出す。修正があれば関係する図面全てが自動修正されるため、作業が効率化し、ミスがおきにくくなる」

矢吹氏

 「施工段階に詳細設計のミスが見つかると、施工者から問い合わせがくる。設計者は過去に手掛けた図面を修正しなければならず、人手不足の中、現在の業務を併行して行うため、業務負担が重くなる。責任問題に発展することもあり、仕事で得た利益を事後の対応で失わないためにもミスを減らすメリットは大きい」

――施工者のメリットは
 「地域建設業の多くは、BIM/CIMをどう使えば仕事のメリットになるかを模索している段階だろう。BIM/CIM導入が建設生産システムを見直す転機となり、利益を享受する企業もたくさんある。そうしたベストプラクティスの共有が大切だ」

 「具体的には、道路や堤防の切り土や盛り土、敷地造成などでICT施工を行い、作業を効率化している。出来形検査では3次元モデルとMR(複合現実)、タブレット端末などを用いて遠隔臨場し、移動や待ち時間を大幅に削減できる。検査の記録や帳票作成を現場にいながら行い、業務効率化したケースも多い。メリットはたくさんある」

――BIM/CIMの普及を円滑化するには
 「例えば建設機械を導入すると特定の課題が一気に解消するため、利益を数値化しやすい。BIM/CIMは単一の仕事を効率化するのと異なり、仕事全体に影響を与える。それによって得られるメリットはあちこちにあり、気がつけば大きなメリットになっているのが特徴だ」

 「農業革命を例にすると、人類は最初、木の実を拾い魚や動物を捕獲して食べていたが、食料生産を変革する農業が出てきた。最初は種を植えてもうまく育たず、水害で流されたりして、新しい取り組みを批判する人も多かったと思う。しかし、じきに大きな効果が表れ、人類はもはや農業以前の方式に戻れなくなった」

 「それと同じで、原則化で初めてBIM/CIMに取り組み、費用ばかりでメリットが出ないと思う企業があるかもしれないが、少し我慢して使い続けてほしい。そして、どう使えばメリットが出るか自分の頭で考えることが大切だ。パソコンが出たときも最初はみんな怖がってさわらなかったが、現在は絶大な効果を発揮している」

 「デジタル世代の若者は、BIM/CIMの操作を身につけるのが速い。2次元より3次元で設計する方が自然に感じる学生が圧倒的に多くなっている。そうした時代に2次元で設計し、電卓を叩いて数量計算するのは合わないだろう。若者の感覚が大きく変わっていることを経営者は認識すべきだと思う」

――次年度以降の原則化の方向性は
 「データの利活用を高度化し、BIM/CIMに取り組む企業が明確にメリットを感じられるようにしたい。一つの指針となるのはISO19650に規定されたCDE(共通データ環境)の活用だ。ここにはBIM/CIMデータを作るプロセス、承認の規則などが規定されている」

 「今までBIM/CIMで発注する時は、3次元モデルの詳細度や属性情報を入力する基準があいまいで、担当者の采配ひとつで決まることが多かった。これからはISOに準拠し、何をどこまでつくるか、その理由も定義し、設計、施工のリクワイヤメントに適用する必要がある」

――建設生産システムの将来像は
 「BIM/CIM原則化で大事なことは、生産性を革命的に向上させることだ。そのため、無人化や自動化を志向することが重要であり、そこにどうつなげるかを次年度以降に検討したい。そうすることで25年までに生産性2割向上が実現する」

 「原則適用したのは詳細設計と施工だけで、地質調査、測量、基本設計などの前段階は義務化されていない。BIM/CIMは本来、計画段階で行う比較設計で大きなメリットを発揮する。通常は図面を描いて数量計算し、概算工事費を出すのに手間がかかるため、三つぐらいの選択肢からルートを選んでいる。しかし道路整備にはいろいろなファクターが存在するため、施工段階に問題が見つかることも多い。初期段階にデメリットが見えず、問題が後ろ倒しになり現場のブラック化につながっていたが、BIM/CIMを活用することでたくさんのパターンを検討できるようになる」

 「工事が難しい場合は、施工者に前工程の検討に参加してもらい、問題を事前に解決するフロントローディングが効果を発揮する。国交省が発注する工事の大半は設計施工分離方式だが、施工者が詳細設計に参加するECI(施工予定技術者事前協議)方式や詳細設計付工事発注方式もある。BIM/CIMやICT活用に最適な契約方式を考える必要がある」

 「かつて経済学者のシュンペーターは、イノベーションは不連続であり、『郵便馬車を何台連ねてもそれは鉄道にはならない』と言っている。当時は蒸気機関車が始まった時代であり、馬車が使った道ではなく、新たにレールを敷き、駅をつくる必要があった。郵便馬車と全く異なるビジネスモデルを作り出すことで鉄道のイノベーションは完成した。われわれが直面するBIM/CIMにも同じことがいえる」

 「歴史を振り返れば当たり前かもしれないが、当時は何が正解か分からない。正解を見つけた人は先を見通す力があり、そうした未来ビジョンを持つ人材の育成が大切だ。イノベーションが起きるときは、仕事、契約、会社全体が大きく変わるため、BIM/CIMに最適化した建設生産システムに変革する必要がある。それが真の意味でのイノベーションとなる」

【「ISO16739」24年初旬に改定/対象は土木系5分野IFC4.3】

 BIMの標準データモデルIFCの国際規格「ISO16739」が2024年初旬に改定する見通しだ。現在のIFC4を拡張し、新たに鉄道、道路、橋梁、港湾・水路、土工の土木系5分野を追加したIFC4.3が対象となる。今後は土木系データが持つ3次元モデルと属性情報の確実な識別が可能になる。

 IFC4.3の実装は海外のソフトを中心に進んでいるが、ISOに認定されることで、今後は日本国内のベンダーも検討を進めることが予測される。

 日本では国土交通省が直轄の業務、工事にBIM/CIM原則適用を開始した。オリジナルデータとIFCデータの納品を求めることから、IFCの利用促進に期待が高まる。

 IFCを所管するビルディングスマート・インターナショナル(bSI)は現在、トンネル、地盤の二つの標準規格の検討を進め、次期バージョンのIFC4.4での記載を目指す。

 bSIの日本法人ビルディングスマート・ジャパン(bSJ)では、国内でのBIM/CIM活用の機運拡大もあり、「土木基本IFC検定2022」を行っている。出力と入力の二つの区分で検定しており、現在は国内で活用される三つのBIM/CIMソフトを認証している。認証を受けたソフトは、より確実なIFCデータの取り扱いが可能になる。IFC検定を通じてソフトの互換性向上に貢献し、BIM/CIMによる建設工事の生産性向上に貢献していく方針だ。

 今後に向けて有賀貴志bSJ技術委員会委員長は「データの互換性を向上するにはユーザーとの連携が重要だ」と強調する。ユーザーが個別に使うソフトの課題はベンダーのサポート窓口が対応するが、「ソフト間のデータ連携の課題についてはbSJに連絡してほしい」と呼び掛ける。ユーザーがデータ連携に期待することをbSJとして把握し、ベンダーと協力してデータ環境の改善につなげる考えだ。

 また、bSJは、BIMに携わる個人の知識や技能レベルの向上を図る「openBIMプロフェッショナル認証」を行っている。各プロバイダの認定トレーニングを受講し、試験に合格すると、bSIの認証が取得できる。



【B・C・I 未来図】ほかの記事はこちらから



建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら