【寄稿】建設業界のM&Aが活発、経営課題解決の選択肢に/M&Aキャピタルパートナーズ・高橋祐基 | 建設通信新聞Digital

5月5日 日曜日

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【寄稿】建設業界のM&Aが活発、経営課題解決の選択肢に/M&Aキャピタルパートナーズ・高橋祐基

 2024年4月に迫った「2024年問題」を目の前に控えた建設業界の経営者は、その対応に苦慮されています。M&Aキャピタルパートナーズが23年9月に行った建設業経営者の意識調査では、「2024年問題」への対応だけでなく、高騰を続ける資材価格など、建設業界を取り巻く経営環境の厳しい現状と先行きの見通しが浮き彫りになりました。厳しい市場環境の中、経営課題のソリューションの選択肢の一つとして活発化しているのがM&Aです。建設業経営者の意識調査の結果とともに、M&Aによる経営課題解決について紹介します。

◇約7割の建設業界企業「先行きさらに厳しく」

建設経営者100人に聞いた経営課題とM&Aの意識調査における設問 「今後の建設業界の先行きに対してどのように感じているか」


 M&Aキャピタルパートナーズは、建設業経営者を対象に建設業界の課題となっている「2024年問題」や「人材不足」「資材価格高騰」などの現在の状況や今後の先行きについて調査を行いました。

 調査では人手不足を実感している企業が約8割、うち72.5%は「人材採用の難しさ」がその原因と回答しました。そのうち約6割が「2024年問題で人手不足・人材採用の状況が悪化する」と回答。人手不足や採用難の現状において、「2024年問題」によりさらに状況が悪化する危機感を持っていることが分かりました。

 また、従業員の高齢化の進行についても深刻です。高度な技術が必要な建設プロジェクトにおいて、技術を持った従業員の高齢化が進んでいるとともに、その技術を承継する人材も少ないため技術が承継できない問題が発生しているのです。調査でも約4割の経営者が従業員の高齢化による技術承継問題を経営課題と回答しています。

 資材価格高騰については、約6割の企業が利益を圧迫されており、高騰した資材価格を請負額に転嫁できず、利益が圧迫されてしまっていることが分かりました。

 このように、「2024年問題」をはじめとしたさまざまな経営課題を抱える中で、約7割の建設業経営者が今後の先行きに対して「さらに厳しくなる」と回答しているのです。

◇近年活発な建設業界のM&A

建設業界のM&A件数推移


 M&A情報のレコフデータによると、建設業界のM&Aは21年・22年公表ベースで182件と過去最高件数を更新しました。その背景にあるのが、2024年問題や人材の高齢化、資材価格の高騰など業界全体の経営課題に加え、深刻な後継者不在問題です。帝国データバンクによると、建設業界の経営者の平均年齢は59.9歳となり、後継者不在率は業種別で最も高い60.5%となりました。その結果、事業承継を目的とした「事業承継M&A」が活発化しています。

 この「事業承継M&A」に加え、大手企業にグループ入りし、その経営リソースを活用して、成長スピードを加速させる「事業成長M&A」も注目を集めています。

 現在、上場企業による再編も活発化しており、今後も経営課題解決の選択肢の一つとしてM&Aが多く活用されることが予想されます。

◇「2024年問題」に起因する経営課題のソリューション

 「2024年問題」に起因するさまざまな課題の解決策の一つとして、上述の「事業承継M&A」「事業成長M&A」をはじめとするM&Aにはさまざまなメリットがあります。

 第一に、採用力の強化や人材の確保です。

 M&Aによって大手企業の傘下に入ることで、譲受け側のブランド力の活用やグループ一括採用によって採用力を強化することができます。人口の減少や若年層の建設業への関心の低下などによって、建設業界の求人倍率は5倍を超えており、地方の建設業企業を中心に採用が課題となっている場合が多くなっています。

高橋祐基M&Aキャピタルパートナーズ建設業界プロフェッショナルチームリーダー企業情報部主任 生命保険会社を経て、独立系ブティックでアドバイザリー業務に従事。M&Aキャピタルパートナーズ参画後は、建設業界の大型M&Aや上場企業からのカーブアウト等、数々の成約実績を有する


 また、M&Aによってグループ企業内での人員の融通も可能となります。グループ各社での繁閑の差に合わせて、グループ企業内で人員の融通ができるのです。さらに大手資本のグループに入ることによって、グループ一斉研修やグループ他社の現場でのOJTなどによって新たなスキルを獲得することも可能となり若い人材のキャリアパスが広がり、人材の定着も期待できます。特に地方の中小規模の企業は、その恩恵を受けると考えられます。

 二つ目のメリットは、スケールメリットによる原価の低減です。より大きな資本とのM&Aによって、建設資材の調達において、大量に発注することが可能となり単価の低減を期待することができます。

 最後に、M&Aシナジーによる受注拡大が期待できます。建設業界は、業種が多岐にわたり隣接している業種が多いため、M&Aによるシナジーが生まれやすい業界と言えます。M&Aによって、多岐にわたる業種がグループになることで、建設の上流工程~下流工程への垂直的に、また電気設備、空調設備、管工事、など水平的に多種の工事を一括受注することができるようになり、結果的に受注拡大が期待できるのです。

 慢性的な人材不足、採用難、人件費の高騰などが課題となる中、24年4月に働き方改革関連法による労働時間の上限規制が建設業界でも適用される「2024年問題」を業界全体が抱えており、人手不足や人件費の上昇がさらに深刻になっていくことが考えられます。24年以降、建設業界のさまざまな経営課題のソリューションの一つとして、M&Aがさらに活発になっていくことが予想されます。

 

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