資材価格の高騰や深刻な人手不足、高齢化による後継者不在など、建設業がさまざまな課題に直面する中、打開策の一つとしてM&A(企業の合併・買収)が注目されている。M&Aキャピタルパートナーズは、建設業向けM&Aの豊富な実績を持つアドバイザーを集めた「建設業界プロフェッショナルチーム」を立ち上げ、支援体制を強化してきた。チームをけん引する高橋祐基氏は「事業承継の解決に加え、事業成長を加速するための経営戦略の選択肢の一つになる」とM&Aのメリットを説明する。
建設業の現状について高橋氏は「技術者、職人の双方で高齢化が進み、若手が減少している。採用難と、時間外労働の上限規制を本格適用する2024年問題により、建設現場への人員の割り振りが非常に難しくなっている。大手企業はある程度自前で対応できるが、中小企業には厳しい状況だ」と分析する。
若者の入職や社員の定着を図る上でポイントになるのが賃金や労働時間などの処遇改善だ。「受注面では、幸いにも官公庁の維持修繕工事の発注が好調で、上手に工事を受注して従業員に還元する企業もある」という。こうした受注環境を生かし、技術者確保や経営資源の効率的な運用により、経営基盤を強化する手法としてM&Aが注目を集めている。
◇シナジー効果狙う事業成長型M&Aが増加
例えば、仙台市に本社を置くUNICONホールディングスは、持ち株会社の傘下に東北地方各県の地域建設業が入ることで地域連合を形成している。各企業が所有しているリソースを地域間で活用するのが狙いだ。「地域建設業のM&Aは、地方銀行が主導し、管轄する地域内の企業同士をマッチングすることが多い。UNICONホールディングスの場合はファンドがM&Aを主導することで地域連合が実現した。地域としがらみがないファンドやM&A仲介会社が間に入ることで、幅広い地域や業種の企業とのM&Aを実現できる可能性が高まる。当社もPEファンドを含めた約7万社の譲受候補から最適なマッチング相手を提案することが可能だ」と強みを語る。
同社が手掛けたナカノフドー建設と、長野県飯山市を拠点とするトライネットホールディングスのM&Aでは、土木工事を主体にリニア中央新幹線関連工事などで業績を拡大していたトライネットホールディングスと、建築工事が主体のナカノフドー建設をマッチングした。地元企業3社のM&Aで誕生したトライネットホールディングスは、さらなる事業の発展に向け建築に強いゼネコンに会社を譲渡したいと考えていた。一方で建築に強いナカノフドー建設は、土木分野の本格参入を目指していたため、トライネットホールディングスがグループ入りすることで互いにシナジーを発揮する事業成長型のM&Aが実現した。
こうしたM&Aの主要な動機の一つに技術者の確保がある。「国や地方自治体の発注工事では一般競争入札や総合評価方式が普及、定着したことで、人材が不足する中でも技術者の確保や技術力の向上が工事を受注する上でますます重要になっている」ことが背景にある。
◇事業承継の選択肢として存在感を高める
従来のM&Aは、企業の身売りや乗っ取りなどマイナスイメージも根強いが、「近年は業績不振でM&Aするよりも業績の良い企業同士がM&Aするケースが圧倒的に増えている。子会社として企業グループに参加する場合、屋号はそのまま残るケースが多い。株主が変わるだけで社長がそのまま経営を継続することも多く、企業風土も残るため、従来の取り引き先に安心して付き合ってもらえるメリットがある」と説明する。
一方、事業承継型のM&Aでは、検討する経営者は50代から60代が増えている。子どもが小中学生のケースもあり、その段階で家業を継いでくれるかどうかが不透明なことに加え、「子どもの人生を大切にする傾向が強くなっている」ことから、事業承継の在り方が変化している。
経営を手放し、株など資本だけを家族に承継する場合でも数千万円から億単位のお金が動くこともあり、莫大な贈与税を考慮する必要もある。オーナーとして株を持ったまま企業に残り、経営だけ承継しても結局は問題が先送りするだけのため、「早く解決したいと考える経営者が増えている」のが実情だ。
事業承継の選択肢の一つとしてM&Aが存在感を高めており、「他社に株を買ってもらうのも事業承継の有力な選択肢になる。実際にM&Aを行うかどうかは別にして調査・検討だけでもしておけば、子どもに継がせるケースと比較できる。できるだけM&Aの情報も持ってほしい」と呼び掛ける。
◇増加する建設業のM&A
技術者や後継者の不足が重なる中で、建設業のM&Aの件数は年々右肩上がりで推移している。M&Aキャピタルパートナーズでは、建設業に最適なM&Aを支援するため、実績が豊富なスタッフで構成する建設業M&Aプロフェッショナルチームを23年に立ち上げた。事業承継と事業成長型のM&Aを建設業の発展につなげるため、幅広い企業の支援体制を強化した。
M&Aのアドバイザーは企業のM&Aを支援することでナレッジが蓄積され、スキルを高めていく。専門チームを立ち上げることでそれぞれのアドバイザーが蓄積したナレッジを共有し、面的な支援を進めることができる。「建設業の地域性、歴史性、商習慣などに精通することで業界特有の『共通言語』を理解したスタッフが企業に支援を行い、オーナーとともに建設業に最適なM&Aの在り方を深掘りする」のが目標の一つだ。
元請企業だけでなく、管路更生、塗装、橋梁補修など受注する工事費が数百万から数千万円規模の企業のM&Aも増え、建設業全体でさらなる潜在需要を見込む。「企業グループ化することで、技術者を増やし、いろいろな現場で融通が利かせるのが最大のメリットとなる。グループ間で機材を共有し、共同で工事を進めるなどして仕事を完結できる。建築と土木を一体的に扱うためにM&Aするケースも多い」と説明する。
一方、業界内で建設DX(デジタルトランスフォーメーション)が進展し、ITツールを活用した省人化や生産性向上に取り組む企業が急速に拡大している。手書きの帳簿管理や積算などをデジタルに切り替えるケースが一般化し始めており、「自前で仕事の在り方を変えるのが難しい中小企業は、大手企業のグループに入ることでデジタル化のノウハウを導入できる。間接コストの削減に貢献している」という。
その延長線上に、同社が手掛けた、飛島建設とITコンサルティングを得意とするスタートアップ企業のアクシスウェアのM&Aがある。飛島建設がアクシスウェアをグループ傘下に収め、建設現場のIT対応をワンストップで支援する建設DXトータルサポート事業を展開している。
異業種間のM&Aの実現には、同社の長年にわたる豊富なコンサルティングの蓄積がある。同社に蓄積されたM&Aマッチングのノウハウやアドバイザー間の情報共有などの連携により、建設DXの推進のためのM&Aに最適なマッチング相手を検討した。「当社では週1回の全社的なマッチング会議を開いており、プロフェッショナルチーム間で情報共有し、提案を募集することで、異業種間の最適なマッチングをサポートできる」のも強みとなっている。
◇検討段階の費用を無料化、支払い手数料の低さNo.1
同社は、経営者に寄り添い、事業承継の選択肢の一つとしてM&A仲介サービスを提供する「クライアントファースト」を掲げる。このコンセプトは仲介手数料の料金体系に表れており、コンサルティングを始める際の着手金や月額報酬を無料としているのが特徴だ。入口の検討段階での費用を無料とすることで、M&Aを経営上の“選択肢”とし、オーナーが判断する機会を増やしてもらうのを目的としている。アドバイザーへの相談や企業価値算定レポートなどの作成も無料だ。譲渡企業と譲受企業の双方が納得し、M&Aが基本合意した段階で初めて中間報酬を支払い、M&Aが成立した時に成功報酬を支払うシステムとなる。
報酬料の算出には、譲渡企業と譲受企業のそれぞれに対し、株式評価額に報酬率(手数料率)を乗じる株価レーマン方式を採用し、東京商工リサーチの調査では、M&A仲介業界において「支払い手数料率の低さNo.1」を獲得している。また、譲渡企業と譲受企業の支払い手数料率を「創業以来、同一の手数料に設定しているのも当社の特徴だ」

他のM&A仲介会社では、譲受企業が手数料を多めに支払うこともあるが、譲受企業は株式の取得に費やす予算の上限が決められており、譲受企業の手数料が多くなるとその分だけ譲渡企業が受け取る金額が少なくなる。「利益相反の観点からも譲渡企業と譲受企業の手数料体系が同一であることは重要。料金をフェアにすることでよりM&Aに前向きに検討する企業が増えることを期待している」と意義を語る。