Mimmyが運営する「オフィス留学」は、世界で活躍する建設業のグローバル人材の育成を支援するため、建設業特化型の英語学習カリキュラムを提供している。建設の専門用語やフレーズを学ぶ実践的カリキュラムを受講者の業務に応じてカスタマイズし、パーソナルトレーニングとグループレッスンを組み合わせた週4回のレッスンを通じて、1年間で海外駐在できるレベルに到達させる。具体的な業務を想定した英文テキストを豊富にそろえ、建設業で働く人材の英語力を強化し、企業の海外展開を強力にサポートする。関根謙太社長にオフィス留学のポイントを聞いた。
–どのような経緯でオフィス留学が誕生したのでしょうか
前職は大手ハウスメーカーに勤務していました。国内事業を担当した後、海外留学やアジアの生産工場にトレーニーとして在籍し、帰国後、アメリカでの事業立ち上げに従事しました。同社が強みにしていた建設の効率化を武器に、現地のサプライヤーを垂直統合するビジネスモデルの推進に携わる中、世界一と言える日本の建設業の技術力を実感したのがきっかけです。そして建設業は日本最大の産業で設備や建機などを含めると市場規模は100兆円に達します。今後世界で活躍できる産業は建設業だと考えています。
一方、言語を含め文化や商習慣の違いから、日本企業は実力に見合ったパフォーマンスを発揮しきれていないとも感じました。海外では相手のことを理解した上で自社の強みをしっかり説明できないと受け入れてもらえません。その意味で日本の建設業は英語力の底上げが必要です。
私は海外事業部での業務をきっかけに、グローバル人材育成を目的とした事業をつくるため、2019年にlinK&Relationsとして独立し、21年にMimmyに社名変更して現在に至ります。大学時代は土木学科で地質学を専攻していたこともあり、建築だけでなく土木、住宅、不動産を対象にした英語のカリキュラムを構築したのが特徴です。
–建設業の社員が英語を学習する意義は
英語ができなくても通訳を介せば会話できますが、自分で聞いて話すのとではコミュニケーションの質が全く違います。まず通訳のスキルはピンからキリまであり、建設の専門用語を正しく翻訳できる人は限られます。例えば「基礎」を訳すとき、ファンデーション、スラブ、コンクリートなどいろいろ表現できますが、どれが現地で使われているか通訳が理解するのは不可能です。ましてや監督として現場を指揮する際、正しく伝わらないとトラブルにつながります。
英語でコミュニケーションをとる時に重要なのは、流ちょうに話すことではなく、話を聞き取る力です。相手の意図をきちんとつかめないと会話は成立しません。自分で直接理解できるとコミュニケーション力は飛躍的に向上します。私自身、英語を話せるようになり、海外の建設関係者と会話して日本の技術力への理解を深め、オフィス留学の開発につながりました。
例えばアメリカは日本のゼネコンに該当する企業がなく、各社が縦割りで作業するため、横連携による業務効率化が苦手です。工程に空きができ、工期の遅延が当たり前のように発生します。翻って日本のゼネコンは徹底的に工期を厳守します。私は自分のキャリアパスを広げるために英語を学びましたが、結果として自分が所属する産業のレベルの高さに気づき、誇りに思うことができました。
–英語教育を通じて目指すグローバル人材とは
当社が考えるグローバル人材は、「主体性・リーダーシップ」「専門知識」「語学力」の三つの能力と異文化への対応力を備える人です。建設業は現場の技術職、会計、財務、法務といった事務職などさまざまな業務がありますが、重要なのは、会社のマインドと強みを理解した人材が英語を直接話すことだと思います。
建設業は経験工学と言われ、技術職は長い時間をかけて専門知識を習得しますが、「英語力」は後からでも身につきます。日本企業が海外で活躍するには、こうした人材が英語力を武器に、仕事を切り開くことが重要だと思います。
–オフィス留学の特徴を教えてください
英会話は、ただやるだけでは絶対に伸びません。明確な目的がないと自分事にならず多くの人が挫折します。その意味でオフィス留学は三つのポイントがあります。
一つ目が業務に直結する学習です。海外駐在経験の豊富な建設技術者や事務方として活躍した業界OBがアドバイザーとしてテキストを監修し、実務で交わされる会話を落とし込んでいます。外国人講師にも、業界のルールやグループワークでのロールプレイのポイントを伝える研修をしています。
二つ目は受講者の完遂率です。週1回のパーソナルレッスン、週3回のグループレッスンを合わせて週4回レッスンし、さらに1日2時間のホームワークが課されるため、就業時間以外は英語にどっぷり浸かる生活を送ります。1年間のハードな研修となりますが、専属講師が完全伴走型でサポートすることで、受講者の9割以上が完遂します。
三つ目は、講師へのこだわりです。英語講師としてのスキルが高い人を採用するため、400人ぐらいの応募者から一人を選びます。採用された講師に対し、建設業のことを学ぶ場を設け、日本で数少ない建設の専門用語を教える講師陣をそろえました。これらの要素により、ボリュームのあるカリキュラムでも完遂できるのだと思います。
–具体的なカリキュラムは
オフィス留学は、一年を4つのタームに区切って学習します。ターム1、2は日常会話や文法の学び直し、発音練習(フォニックス)などの基礎英語の向上に重点を置きます。ターム3、4は実践的なビジネス英語や専門分野に特化した英語を学びます。カリキュラムが進むにつれて細分化していき、実践的になります。1年後には、仕事を推進する即戦力として海外事業に従事できる力が身につきます。
例えば施工の特化領域の学習では、工期短縮の説明、BIM導入検討会議、資材高騰による代替案のプレゼンなど実務に基づいたシーンを再現して学習します。なかでも施工系の受講者からは、自分の仕事に関連するなじみのある単語や場面設定だと習得するスピードも早くなる、という声も頂戴しています。
BIMは海外では業務改革での重要な要素になるため、データベースの管理のための言い回しなどが重要です。建材の代替案のプレゼンでは、木材が高騰した設定で、代替案としてどの素材を選択するかを議論します。例えば脱炭素を掲げるプロジェクトでは鉄骨は代替案に選択できません。その理由をロールプレイ形式で説明する練習をします。注目される洋上風力発電もいち早く題材に取り入れました。事務系の場合は、M&Aのデューデリジェンスを行う際、相手方の経営者に今の経営課題を聞いたり、買収後のPMIなどについて会話します。
–建設業が海外事業に従事する際のポイントは
最も大切なことは、相手国との文化の違いや業界の慣習を理解する力です。例えば現場のメンバーに対し、なぜその作業が必要なのかを明確に説明することが求められる点は重要な違いの一つです。阿吽の呼吸で仕事を進めるのは日本の良さですが海外は異なるという認識を持つ必要があります。
文化の違いにより、海外赴任した人は誰でも一度や二度、トラブルやミスの経験があると思います。そのため、異文化理解を促進する内容をレッスンに組み込み、現地でなるべく早くなじめるようにカリキュラムを組んでいます。こういった点もご評価いただき、海外駐在員をオフィス留学の受講者から選ぶ企業も増えてきました。
–今後の目標は
そもそも技術者は理系出身のため、文系に比べて英語を学ぶ機会が少ないです。また、建設業はドメスティックな産業のため、国内の顧客が多く、グローバル人材が育ちにくい土壌です。国際/海外事業部を持つスーパーゼネコンでも海外で実力を発揮できる英語力を持つ人材が不足しています。
当社は、建築、土木、住宅、不動産に留まらず、建設設備、建材、建機など周辺産業に裾野を広げるカリキュラムの開発を進めています。今年4月には受講社数が急増し、8月いっぱいまで受け入れできない状況になりましたが、徐々にキャパシティを増やし9月以降に新規のお客さまの受け入れを再開していく予定です。建設業特化型カリキュラムを活用していただくことで業界の英語力を底上げし、海外展開に貢献したいと思います。