◇事業成長実現へ最高のマッチング/中小企業の経営環境は「二極化」進む/建設業界再編の動きも
深刻な人材不足に直面する建設業界の経営環境が急速に変化している。経営者や技術者の不足、公共事業の発注形態の変化などに対応するため、事業承継や成長戦略を強力に支援するM&A(企業の合併・買収)が浸透してきた。M&Aキャピタルパートナーズ(MACP)の「建設業界プロフェッショナルチーム」をけん引する高橋祐基企業情報部課長に、建設業界でM&Aが増加する背景や課題解決に向けたポイントを聞いた。
–建設業界の経営課題を教えてください
深刻な人材不足に加えて資機材の高騰などの問題が継続しています。建設業は重層下請け構造のため、資機材が高騰しても価格を転嫁しにくく、業績に大きく影響しています。一方、地域によってばらつきはありますが、都市開発や防災インフラなどの工事量は全体的に増加傾向にあります。工事ロットの大型化や一式工事の発注が増えたことで、技術者を多く抱える元請け企業ほど業績が良く、小規模な元請けや専門工事業は受注が難しくなり、恩恵を受ける企業とそうでない企業の“二極化”が拡大していると思います。
人材不足については、若者の入職が減る中、従事者の高齢化が進み、人材確保や技術継承が大幅に停滞しています。本来は業務を通じたOJTでノウハウを引き継ぐのですが、それができず、ベテランが第一線で働く状況が続いています。
経営者の事業承継も以前のように、必ずしも子どもが家業を継ぐ時代ではなくなりました。
後継者が決まらずに経営者や社員の高齢化が進み、受注が減る中で教育や採用にかけるお金も減っていていき、人材はどんどん大手に流れています。地域のファミリー企業や専門工事業の経営は苦しくなっているのです。
–建設業界のM&Aの動向は
前述の通り、建設業界は厳しい経営環境にあると言えます。帝国データバンクが発表した建設業の倒産件数を見ると2023年に過去最多の1671件、24年も1-10月で1566件と過去最多ペースで推移しています。
さらに、23年度に人手不足が要因で倒産した建設業の企業数は94件となり、全業種で最多となりました。当社のアンケート調査でも人手不足の建設企業は78%となり、大きな課題といえます。厳しい環境の中、清算、廃業ではなく、課題解決につなげる選択肢の一つとしてM&Aがあることを多くの企業に知ってもらいたいと思います。
M&Aは大きく事業承継型と事業成長型があり、現在の割合は事業承継型が多いのですが、最近は事業成長型が増え、トレンドになってきました。業績が良く、今すぐM&Aを行う必要がないと考える企業でも、他の企業と組むことで人手不足や資機材の高騰などの経営課題を解決するソリューションや、シナジー効果などによって成長を目指すために検討する経営者が増えています。事業成長型では、譲渡側の経営者は、譲渡後すぐ引退するのではなく、企業に残って社長として経営し続けるケースが多いです。
また、中小企業の多くは資本の承継が重要な課題になります。会社が株を買い取る場合でも、数千万円から数億円になることもあり、会社が金融機関から借り入れを行い、買い取るケースもあります。子どもなど親族に株を承継する場合も大きな贈与税や相続税がかかるケースもあります。以上の通り資本の承継には大きな負担がかかるため、M&Aも選択肢の一つとして検討していただきたいと思います。
–建設業界のM&Aの事例を教えてください
私が支援した事例に、発注者支援業務を強みに奈良県で事業を拡大したウエルアップと、建設コンサルタント大手の大日本ダイヤコンサルタントの友好的M&Aがあります。ウエルアップは得意先から安定した受注を獲得しており、業績も好調である一方で、社員数も増加し、元オーナーは元請としての立場を確立した達成感を覚えると同時に「もう逃げられない。会社をつぶせない」と思うようになり、事業承継について真剣に考え始めたといいます。
経営面の承継においては自社をよく知る人材に引き継ぐことができましたが、資本を個人が担う会社規模ではなくなったとの考えから、会社を永続的に残す方法を探る中でM&Aを選択肢に加えて検討を進めていました。
一方、大日本ダイヤコンサルタントは、中長期経営計画に「脱炭素」「事業マネジメント」「自衛隊施設の建て替え」の三つを打ち出し、特に自衛隊施設の建て替えでは同社の手掛けた設計案件の施工を円滑に進めるために多くの施工管理技術者を必要としていました。ウエルアップは発注者支援業務の中でも施工管理を得意としていたため、大日本ダイヤコンサルタントのニーズとも合致し、友好的なM&Aが成立しました。
重要なポイントは、早めに検討を開始し、経営状態の良い会社ほど選択肢が多いということです。ウエルアップのケースでは、会社が発展段階にあり、事業承継の問題に直面する前からM&Aの検討を始めたことで、数ある企業の中から譲渡先を選ぶことができました。差し迫った状況になる前の企業価値が高い段階に検討することで、受け身になることなく、自分たちに合う譲渡先を選ぶことができたのです。
–M&Aの最新の動きは
ERIホールディングスは建築の確認審査機関として有名ですが、当社の支援により北海道で活躍する建設コンサルタントの福田水文センター(札幌市)を買収してグループ化しました。民間を対象にした建築確認審査だけでなく、安定して仕事を見込める土木事業に進出し、事業の柱にすることで、経営の多軸化を考えています。北海道内で分散化している建設コンサルタントのネットワークを構築して成果を出しています。
また、建設業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が強まり、異業種連携も魅力的でしょう。BIMのような新技術の普及も進む一方で地方になるほど対応が難しくなるため、今後はDX対応がM&Aの重要な要素になると思います。
近年、これまで自社を譲渡する意向はなかった売上数十億円規模の企業のご相談が増えており、建設業界の再編が活発化し始めると考えています。かつての銀行、近年の調剤薬局はM&Aを活用して業界の再編が一気に進みました。ピークはもう少し先だと思いますが、建設業界も再編の入口に立っていると思います。
–建設業のM&Aを支援するMACPの特徴は
MACPのミッションは常に「誠実」な仕事をすることです。良い相手を紹介するには建設業界に詳しくなければならず、当然、M&Aについて熟知していなければなりません。MACPは勉強会や研修が充実しているほか、アドバイザー同士の情報交換も盛んです。新しいお客さまに会うたびに建設業を研究し、さまざまなメンバーが顧客のニーズをキャッチアップし支援していきます。
M&Aの仲介は、アドバイザーが譲渡と譲受の間に入り、譲渡はどのような理由で会社を譲渡したいのか、譲受はどのような理由で企業を買収したいのかを把握します。その上で、譲受企業が譲渡企業のどの部分に興味を持っているのかを正確に伝えることができます。
譲受企業に対しては、アドバイザーが既得権益をつくらないように担当制を取りません。譲受企業の担当を決めてしまうと、別のアドバイザーが譲渡企業を紹介したいとき、アドバイザー間の関係性が影響して譲渡企業の満足する企業を紹介できない恐れがあるからです。言い換えれば、アドバイザーの社内政治や人間関係を企業の支援の場に持ち込まないようにすることで、お客さまに最高の相手を見つけられるようにしています。これは創業時からの方針です。社内の風通しが良いため、特定の業界に強いアドバイザーに気軽に相談できるのもよいところです。
–建設業界にメッセージを
メディアを通じてM&Aに関するトラブルが報じられたり、中小企業庁が注意喚起するように、仲介会社の支援の質や実績、専門性に細心の注意を払うことが必要です。M&Aを行うときは、経験豊富で安全・公正なM&Aの仲介会社を慎重に選ぶとともに、士業などの専門家や金融機関、事業承継・引き継ぎセンターなどに相談することが大切です。
当社はM&Aを支援するリーディングカンパニーとして、譲渡を希望するオーナーがトラブルに巻き込まれないよう、業界全体で対策を構築するための取り組みを進めています。アドバイザーとして高い水準でM&Aを支援できるよう研さんを積むことで公正で安全なM&Aを支援していきたいと思います。