【BIM/CIM未来図】ベクトル・ジャパン(上) 構造から意匠、設備のワンモデル展開 | 建設通信新聞Digital

5月15日 水曜日

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【BIM/CIM未来図】ベクトル・ジャパン(上) 構造から意匠、設備のワンモデル展開

BIM軸に業務の最適化支援
 「BIMで日本一の協力事務所を目指す」と語るのは、ベクトル・ジャパン(東京都中央区)の安藤浩二社長だ。土木・建築構造設計事務所の同社は10年前からオートデスクのBIMソフト『Revit』による3次元配筋図の提供に乗り出した。現在は構造モデルに意匠や設備などの各モデルを加えたワンモデル提案を確立し、取引先を着実に増やしている。BIMの成長戦略にかじを切った同社の歩みを追った。

 ワンモデルのきっかけとなったのは、5年前に構造設計の協力事務所として参加した九州の浄水場プロジェクトだった。機械設備の設計作業が遅れていたことから配管の開口部がなかなか決まらない状況となり、担当事務所から大まかな計画位置を共有してもらい、設備開口部を反映した3次元配筋モデルを作成した。安藤氏は「もの決めが早まれば、設計効率は格段に高まる。この経験が今につながっている」と強調する。

 1990年に設立した同社は、土木構造を主体に活動してきた。徐々に建築構造にも活動範囲を広げ、2020年には建築が全体の4割まで拡大し、現在は土木と建築の売上比率が対等になった。公共事業が中心の土木は年度後半に業務が集中する。年間を通して稼働率を確保するため、戦略的に建築を増やしてきた。

 BIMの導入もいち早く取り組んできた。2次元CADによる配筋図の作成は作業負担が大きく、修正にも時間がかかる。14年にRevitの導入に踏み切り、16年にはRevitによる土木配筋図の作成に完全移行し、18年のBIM課設立を機に、社として本格的にかじを切った。

10年前にオートデスクBIMソフト『Revit』による3次元配筋図の提供開始


 社員数は、中国・大連の海外オフィスを含め70人を超えるまでに成長した。約50人の東京オフィスには構造、BIM、意匠設計、CAEの各課を配置し、設計担当は現在35人に達する。全員にオートデスク製品を自由に利用できるパッケージライセンス『AECコレクション』を整備している。Revitを日常ツールとして使いこなし、構造解析ソフト『Robot Structural』や自動化プログラミングソフト『Dynamo』なども効果的に取り入れている。

 ワンモデルへの転機となった九州の浄水場プロジェクトでは、RevitのMEP(設備)機能を使い、事前に把握した複雑な設備配管の開口部をモデル化した。別の浄水場プロジェクトでは設計者から技術者不足による作業の遅れを補うために統合モデルを求められるケースもあった。これを機に他の協力事務所に対しても機械設備や建築設備の情報を事前に提供してもらう試みを始めた。安藤氏は「それが構造、意匠、設備のワンモデル提案に発展した」と明かす。

 建築のBIM対応は、20年から本格的に動き出した。鶴山昇取締役営業部長は「BIMをきっかけに現在は大手・準大手クラスのゼネコンや建築設計事務所からの依頼が着実に増えている」と語る。首都圏で進行中のプロジェクトでは基本設計の早い段階から参加し、構造、意匠、設備のベースとなるワンモデルを構築し、そこから詳細な設計を段階的に積み上げていく試みで成果を収めた。設計者からは「設計工期の2割短縮につながった」との評価を受けており、ワンモデル提案が強みの一つになろうとしている。

着実にBIM対応を進めてきた


 安藤氏は「構造設計事務所のわれわれが意匠や設備の部分までモデル化することで、業務全体の最適化を支援していく。海外のBIMコーディネーターのように建築プロジェクトの下支え役として成長していきたい」と強調する。将来を見据えて重要視するのはBIM人材の育成だ。独自の教育カリキュラムも確立した。BIMをきっかけに同社は新たなビジネス展開に向けて進化を始めた。



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