教育カリキュラムを事業化
ベクトル・ジャパン(東京都中央区)の安藤浩二社長は「限界までBIMモデルを作り込んでいる」と語る。構造モデルを基点に意匠や設備の各モデルも作成する独自のワンモデル提案を展開する同社では「配筋1本1本まで細かく描くモデルづくりに、あえてこだわっている」と付け加える。
社員が日常ツールとしてオートデスクのBIMソフト『Revit』を使いこなせるように、BIM教育に力を注いできた。新入社員は2021年に7人、22年に14人、23年に6人とコンスタントに採用しており、4月には4人を迎え入れた。1日8時間トータルで3カ月間の独自カリキュラムを確立し、Revitの操作スキルに加え、土木や建築の細かな納まりまで徹底して学ばせている。
「Revitは機能がとても豊富な幅の広いBIMツールであり、ポイントを押さえて学んでいくことが重要になる。ゲーム感覚で課題を一つひとつクリアしながら成長していくようにカリキュラムを工夫している」と説明する。Revitの操作スキル習得に1、2週間を費やした上で、簡単な土木構造物から設計してもらい、徐々に地下構造物や建築など複雑な設計に挑むようにカリキュラムを設定している。その際に細かな部分の納まり方など現場目線の専門知識も伝授している。
習得内容もRevitの基本操作にとどまらない。設備設計に対応できるようにRevitのMEP(設備)機能に加え、自動化プログラミングソフト『Dynamo』などにも触れてもらうほか、実務でプロジェクト関係者との情報共有が欠かせないことから、クラウドソリューション『Autodesk Construction Cloud』についても一通りの操作を習得させている。
「BIMが当たり前の時代がもうすぐそこまで来ている。これは私自身が経験した感覚に似ている」。安藤氏は建設会社の土木構造設計部門で苦労しながら図面と向き合っていた20代の頃を鮮明に思い出す。独立した1990年にはまだドラフター(設計製図機械)を使って設計していたが、CADの到来によって設計の進め方は大きく変わり、生産性も向上した。それ以上に「BIMは大きな生産改革を生む」と確信している。
国土交通省は直轄事業でBIM/CIMの原則適用に踏み切り、建築分野では設計や施工段階のモデル作成費用を補助する建築BIM加速化事業もスタートした。ただ、社を挙げてBIMの導入にかじを切った企業の中には、思うように定着しない状況に悩む社も少なくない。
最近はBIMで着実な成長を遂げる同社の姿を見て、取引先から独自に展開するBIM人材育成カリキュラムに関心を示す声も舞い込むようになってきた。鶴山昇取締役営業部長は「実は今、当社で実践している教育カリキュラムを事業として業務展開できるのではないかと考え、この4月から2人、5月からはさらに2人の受講生を受け入れる」と説明する。
社を挙げてBIMに取り組む企業の多くは、独自の教育カリキュラムを運用しているため、新たなプログラムに切り替えるためには時間がかかる。安藤氏は「依頼があればいつでもスタートできるように東京オフィスへの受け入れ体制も整えている。今はまだ最大6人ほどしか受け入れられないが、要望が増えてくれば専用のスペースを確保して事業として拡大していきたい」と考えている。
このように同社は、蓄積してきたBIMのノウハウを足かがりに新たな事業化に向けた業容拡大を日々模索している。Revitで設計した配筋データを加工機、さらには出荷までシームレスにつなげる独自の受発注スキームも確立した。「だからこそベースとなるBIMデータは徹底的につくり込んでいる」と力を込める。