BIM/CIMモデル活用が今後の焦点 i-Con2.0のコア技術
国土交通省による直轄事業のBIM/CIM原則適用が2年目に入った。2024年度はi-Construction2.0を打ち出し、データ連携のオートメーション化などを実現するコア技術にBIM/CIMを位置付けている。国交省のBIM/CIM推進委員会委員長を務める矢吹信喜大阪大学大学院工学研究科教授に、BIM/CIMの今後の在り方について聞いた。
データに基づき施工管理/三者協議で建設的な議論を

矢吹氏
国交省の直轄工事では、義務項目と推奨項目の二つの方式でBIM/CIMを適用します。大規模プロジェクト等では、測量、地質調査、概略設計、予備設計などにもBIM/CIMを適用し、高度な活用を行いますが、基本的には全ての詳細設計と工事で3次元モデルを作成するのがこれまでと大きく違うところです。
設計を3次元化することで関係者の理解が早くなり、初期段階で間違いを発見し、ミスや手戻りを減らすことができるようになりました。さらに体積や面積などの数量の自動算出や干渉チェックでも多くの人が効果を実感していると思います。
推奨項目が適用されるような先進の現場では、時間軸を加えてBIM/CIMを4次元化して効率化しているほか、時間軸にコスト情報も加えた5次元化で工事を管理するゼネコンも現れています。出来高に応じて実行予算を算出し、時間軸に沿ってコスト情報をグラフなどでビジュアル的に管理するため、従来のように経験と勘に頼るのでなく、データに基づいて工事を進捗(しんちょく)管理できるようになります。
――i-Construction2.0におけるBIM/CIMの位置付けは
i-Construction2.0は「施工のオートメーション化」「データ連携のオートメーション化」「施工管理のオートメーション化」を三本柱とし、40年度までに3割の省力化と1.5倍の生産性向上を目指します。このうち施工のオートメーション化では、ICT施工によるマシンガイダンス(MG)、マシンコントロール(MC)を推進し、BIM/CIMの設計データやJ-LandXMLデータを活用します。
鉄筋コンクリート構造物の検査では、スマートフォンで配筋をスキャンして点群データを作成し、設計データと比較して鉄筋径やピッチを自動認識するツールも登場しています。AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を活用し、現実世界にバーチャルモデルを重ね、地元説明や発注者への工事計画の説明なども分かりやすくなりました。最新のデジタルツールと連携しBIM/CIMを有効活用する動きが活発になっています。
直轄工事の三者協議会では、2次元図面で説明するのが難しい案件でも3次元モデルを活用すれば施工者が設計者や発注者と問題点をすぐに共有し、建設的な議論が進みやすくなりました。i-Constructionモデル事務所でも職員がBIM/CIMを積極的に活用し、よりよい活用に向けて検討しています。
――BIM/CIM教育の現状は
私の所属する大阪大学の工学部環境・エネルギー工学科では、BIM/CIMや点群モデルの理論、BIM/CIMを活用したICT施工や出来形管理、データモデルの基本的な考え方を学ぶ科目を設置しています。
私の研究室とCUG(CIVILユーザー会)は共同でハンズオン研修の「CIM塾」を開催するとともに、BIM/CIM講演会を全国で提供しています。また、日本建設情報技術センターもBIM/CIM技術者養成講座を開催しています。
今年6月には、日本建設情報技術センターがBIM/CIM管理技士資格認定試験を行い326人が受験し、131人が合格しています。来年度も継続するため、土木技術者のBIM/CIM教育の一環として活用していただきたいと思います。
また、国交省は地方整備局のDX推進センター等でBIM/CIMの受発注者研修を提供しています。ソフトのハンズオン研修や導入効果についての座学講義を受講できます。
――海外の発注機関における実施状況は
英国では16年度から土木建築分野にBIMが原則適用されました。特に道路と鉄道は設計施工一括発注が多くBIMを積極的に活用しています。ドイツやフランスも英国を目標にBIM活用を積極化するようになりました。スイスでは国鉄がISO19650に基づくCDE(共通データ環境)を運用し、受発注者の効率的なデータ共有に成果を出しています。
ドイツ連邦国防省はCDEシステムを独自に開発し、発注、設計、施工まで受発注者のコミュニケーションやデータ共有を一貫してこのシステムで行います。設計コンサルタントやゼネコンがCDEシステムに入り、メッセージやファイルのやりとりを行うことでトレーサビリティーを確保するとともに効率的にプロジェクトを進めます。
――BIM/CIMの目指す未来は
i-Construction2.0が取り組む三つのオートメーション化を実現するには、BIM/CIMを徹底して活用し、これまで以上に普及に力を入れる必要があります。3次元モデルの作成はBIM/CIMの始まりに過ぎず、 今後は作成したモデルをどう活用するかが焦点になります。
人手不足が進む上に今後は高齢者の大量退職も予測され、従来の工期では現在のレベルのものづくりができなくなるかもしれません。なんとしても施工のオートメーション化を実現し、少ない人数でこれまで以上に品質のよいものをたくさんつくれるようにすることが、極めて重要です。
BIMのデータ標準規格の最新版IFC4.3が今年3月にISO16739に認証された。土木分野の線形、道路、鉄道、橋梁、港湾の五つの規格が追加された。土木構造物の設計に不可欠な「線形」がIFCに対応したほか、道路や鉄道の専用オブジェクトを使用できるため、よりBIM/CIMに適したデータ活用が可能になる。
IFCが4.3にバージョンアップしたことで、BIMの分類コードを提供するBSDD(buildingSMART Data Dictionary)と属性情報をチェックするIDS(Information Delivery Specification)と組み合わせることで、BIMのデータ作成、連携、品質を向上し、さらなる業務効率化につながる。
既にソフトウエアベンダーによる実装が始まっていることから、ビルディングスマート・ジャパン(bSJ)では、2025年夏を目標に4.3バージョンに対応したIFC検定を実施する。
一方、国土交通省はIFCを活用したBIM/CIM積算を24年度に試行する予定だ。現在はIFC2×3、4.0、4.3の三つのバージョンが使用されているため、いずれにも対応できるようにする。
BIMの標準化を進める国際組織ビルディンスマート・インターナショナル(bSI)は現在、IFC5の検討を進めている。IFCの実装をより汎用的な技術に切り替えることで、多くのベンダーが対応しやすくする方針だ。
有賀貴志bSJ理事・技術委員会委員長は「IFC4.3の実装に向けた検討をベンダーと進めている。IFCの品質向上に貢献したい」と語った。