
聞き手
日本建設情報技術センター理事長
吉田六左エ門氏
現場を変革するゲームチェンジャーに/合意形成迅速化する情報共有ツール/表彰制度でインセンティブ

国土交通省水管理・国土保全局長
藤巻浩之氏
藤巻 i-Construction2.0は、建設現場のオートメーション化により、2040年までに3割の省人化と1.5倍の生産性向上を目指します。そのためのコア技術がBIM/CIMです。情報を一部の専門家にとどめず、どこにいても誰もが素早く簡単に情報共有できることが重要です。地中などの不可視部分も3次元モデルで見える化し、埋設物の位置を情報共有できます。合意形成ツールとしても有効で、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を用いて現地の状況を3次元モデルで再現し、住民に分かりやすく説明できます。
もう一つ見落としてはならないのは“安全”を向上するツールでもあることです。危険で過酷な現場条件でも遠隔施工を用いれば、エアコンの効いた快適な空間で作業できるようになります。そうした安全確保や職場環境改善を通じ、建設業界全体が若者にとって将来性や魅力のあふれる職場に映ることを期待したいです。
吉田 i-ConstructionやBIM/CIMが普及すれば、パソコンさえ使えれば女性が一人でドローンを飛ばし、地形データを取得して3次元モデルを作成し、仕事の達成感も得られると思います。大手を含めて若者の人材争奪が繰り広げられていますが、女性などさまざまな人材が建設業に参加することで地域建設業の人材獲得にもつながると思います。
一方、BIM/CIM原則適用が2年目に入りましたが、導入に踏み出せない企業も多いです。企業が安心して設備投資できるよう、入札契約制度が総合評価方式に移行したときのように国の本気度を伝える重要性も感じます。
藤巻 全国の整備局の技術事務所にDXセンターが設置されており、民間技術者にも門戸を開き、研修や訓練、出前講座を行っています。また多くの技術者に実際にICT建機の操作や出来形検査を体験していただいています。
BIM/CIMは、建設業の仕事を変革する“ゲームチェンジャー”になると確信します。BIM/CIMに取り組むこと自体が目的ではなく、仕事のやり方を変革して生産性を高め、よりよい調達を行う最適なツールになるでしょう。
実際、九州や関東で整備局長をした際、ゲームエンジンを活用してあっという間に動画をつくり、構造物の配置や色合いを瞬時に変えたり、光を調節して明け方や夕暮れをリアルに表現したり、地元との合意形成など実務に生かす職員もいました。さまざまなパターンを瞬時に作成し、早めの判断を支援する情報共有ツールとして役立ちました。
また、多くの整備局がこの数年でBIM/CIMやDXでがんばっている企業の表彰を始めています。受賞企業は総合評価方式で加点されるインセンティブを得るため、そうしたこともモチベーションにBIM/CIMに取り組んでほしいと思います。
吉田 当センターでも技術者がBIM/CIMのスキルを取得できるようにするため、独自資格のBIM/CIM管理技士資格認定試験を6月に実施しました。326人が受験して131人が合格しました。現状ではBIM/CIMに関する資格がないため、国交省の民間資格認証制度における登録資格認定を目指しています。総合評価方式で企業のインセンティブの取得に貢献したいと考えています。
藤巻 直近ではドローンに関する民間資格が認定されました。ドローンで取得した3次元データを活用する出口戦略になるのがBIM/CIMだと思うので、資格制度にも期待したいと思います。
吉田 i-Construction2.0やBIM/CIM活用でどのような建設業の未来を描きますか。
藤巻 例えば関東地方整備局の荒川調節池工事事務所では、i-Constructionモデル事務所として荒川第二・三調節池を整備しています。広大な敷地の地盤改良や敷き均し・転圧などの進捗をBIM/CIMで一括管理し、不可視部分も含め工事が終了した場所を色分けして分かりやすくするなど効果を出しています。
今後はBIM/CIMにAI(人工知能)を組み合わせ、遠隔地のオペレーターが1台のタブレットで何台もの建機等を自動制御し、さらに飛躍的に生産性が向上する時代も来るでしょう。さまざまな技術を包含しながらBIM/CIMがどんどん進化していくことを期待しています。
3次元データ活かしたマネジメント実現/建設生産プロセス全体をデジタル化/橋梁下部工の積算に活用する試行推進

国土交通省道路局長
山本巧氏
吉田 BIM/CIM原則適用から2年目を迎えました。設計や施工に効果は出ていますか。
山本 道路事業においても、全国的にBIM/CIMを活用した取り組みが展開されています。取り組みの効果としても、3次元モデルが視覚的に分かりやすいという特徴から、関係者間の円滑な合意形成、施工ステップの可視化による作業効率化、構造物の干渉チェックによる手戻り防止に役立っていると感じます。
例えば、設計分野では橋梁の詳細設計業務でAR(拡張現実)を用いた現地踏査を実施し、設計上の問題点や現場条件が明確となりました。3次元モデルを用いることで関係自治体や地権者への理解促進にも寄与しています。施工分野においても、橋梁の上部工事で施工ステップを可視化し、施工時の課題を関係者で共有することで監督業務の効率化につながっています。
吉田 BIM/CIMの活用を加速するため、積算の試行やほかのICT(情報通信技術)ツールの連携など、どのような展開が必要となりますか。
山本 3次元モデルを活用した積算については、3次元モデルを作成することで体積を自動的に取得できるので、その情報を積算に活用できれば同じ情報を複数回入力する必要がなくなり、積算や設計変更の効率化やミス防止につながると考えます。そのため、3次元モデルの属性情報として数量、工事工種体系のツリーコード、施工条件を付与し、橋梁下部工において積算に活用する試行を進めていきます。
ほかのICTツールとの連携についても、MR(複合現実)デバイスによって現地モデルを重ね合わせることで、鉄筋や円筒型枠、PC(プレストレストコンクリート)鋼材の設置前後の確認などの取り組みを行っています。MRやARなどによるデジタルツインの技術を活用し、生産性向上にもつなげていきたいです。
吉田 以前からコンストラクションのIT化は推進され、これらの具体的な解決ツールとしてBIM/CIMが存在感を強めてきました。改めて「i-Construction2.0」におけるBIM/CIMの役割をどうお考えですか。
山本 i-Construction2.0の推進は施工、データ連携、施工管理のオートメーション化に取り組むことで、建設現場の自動化を目指しています。その中で、BIM/CIMはデータ連携のオートメーション化に大きく寄与し、i-Construction2.0の中核を成すものです。BIM/CIMで建設生産プロセス全体をデジタル化し、3次元化して必要な情報を必要な時に加工できる形式で容易に取得可能な環境を構築することで、同じデータを繰り返し手入力することや不要な調査などを削減することができます。
吉田 データ連携に関して道路の現場でさらなる活用に向けた取り組みについてはいかがですか。
山本 建設コンサルタンツ協会と日本橋梁建設協会が橋梁技術のデータ連携実装に向けた共同宣言を行い、鋼橋製作の現場において設計段階のデータと工場で活用するデータのフォーマットを連携させ、同じデータを再度手入力する手間を省く取り組みを直轄国道の現場で始めています。鋼橋の設計から工場製作を円滑に実施するためのデータ連携の事例として大いに期待しているところです。
吉田 当センターでも技術者がBIM/CIMのスキルを取得できるようにするため、独自資格のBIM/CIM管理技士資格認定試験を行い、合格者に資格を与え、建設業界における人材の獲得・育成に努めていますが、改めて人材育成についての取り組みをお聞かせ下さい。
山本 デジタルに明るい人材を育成することは重要で、現在は各地方整備局にインフラDX(デジタルトランスフォーメション)人材育成センターを整備しています。講義や3次元モデルを作成・活用する研修を実施し、デジタル技術のスキル習得に努めています。
吉田 最後に今後の目標やBIM/CIMで目指す未来について教えて下さい。
山本 3次元データを活かしたマネジメントの実現を目指します。3次元設計を標準化して、設計のシステム化や照査の自動化を進めるとともに、難度の高い工事には時間軸を入れた4Dシミュレーションを実施して、手戻りの防止や現場全体のデジタル化・見える化による事業の最適化を進めていきたいです。
BIM/CIMは建設分野の革命をもたらす技術になり得ると考えています。関係団体などと連携しながら、BIM/CIM活用による道路事業全体の生産性向上に向けて、引き続き取り組んでいきたいです。