当たり前に使える技術に/若者や女性が活躍できる現場へ
吉田 BIM/CIMが原則化して半年が経過しました。滑り出しをどのように捉えていますか。
丹羽 道路局では、事業内容に応じた3次元モデルの作成・活用、データシェアリングの実施の二つの柱で取り組みを進めています。
一つ目の3次元モデルの作成・活用では、特に橋梁や立体交差、電線共同溝、トンネルなどで積極的にBIM/CIMを活用しています。立体交差事業では、道路を走る運転手や歩行者の目線でどのように見えるかをシミュレーションできるため、地元説明会や関係者の協議に利用しています。
トンネル工事では、中国地方整備局岡山国道事務所が玉島・笠岡道路の西大島トンネル工事でBIM/CIMを導入し、施工段階で取得する地質データなどを維持管理段階で活用する取り組みを進めています。トンネル工事は覆工が終わると地山を見ることができなくなりますが、施工段階で取得した地質や断層、湧水などの情報をBIM/CIMデータに残すことで、維持管理段階の点検時に、地山の弱部を確認して重点的に点検する場所を把握したり、トンネル変位や不具合が発生した場合に施工時の記録を見て原因究明に役立てることができます。
BIM/CIMが維持管理段階にも役立つよう調査設計、施工の各段階を通じてデータを一気通貫に使える環境を発注者が整備すべきであり、トンネルではそうした取り組みを始めています。
また、鉄筋が干渉するような特定部では、詳細な3次元モデルを作っていたのですが、全てを詳細に作ると負担が大きいため、今年度からは使わない部分は簡略化するなど目的に合わせて詳細度を変化できるようにしました。
二つ目のデータシェアリングでは、四国地方整備局松山河川国道事務所が取り組む松山外環状道路で、事業管理を効率化するために「事業情報プラットフォーム」を構築し、設計、用地、工事の各段階における地元との協議事項を管理しています。これまでは紙で管理し、担当者が変わるとその情報が埋もれてしまうことがありました。協議事項を全てプラットフォームに入れることで、検索すればすぐに見つけることができます。地元との協議の円滑化や工事のミス防止などに役立てることができ、維持管理段階でもデータを使えます。建設工事はロングスパンのため、地元や道路占用者、施工企業との協議事項などの一連の工事関連情報をデータシェアリングすることで、仕事の進め方を改善し、生産性も上がるのです。
吉田 原則化を推進するに当たり、受注者の会社規模の違い、地域差、リテラシーなどで課題と感じているところがあれば教えていただきたいと思います。特に会社規模の小さい中小企業は今後どのようにBIM/CIMに取り組むべきでしょうか。
丹羽 これからは日本全体の人口が減少し、建設業に携わる人も減っていくため、効率的に仕事を進めなければなりません。そのため、BIM/CIMなどの最新技術の活用、すなわちデジタルトランスフォーメーションにしっかり取り組むことが、企業として不可欠となってくると思います。そういう方向に行かざるを得ないため、今までの仕事のやり方を変える必要があると思います。
吉田 社員数が数十人規模の地方の建設企業がi-ConstructionやBIM/CIMに積極的に取り組み、国土交通省の表彰制度で受賞するケースが増えています。JCITCでは地域建設業をサポートするため、初級BIM/CIM技術者養成講座を開いていて、「初級BIM/CIM技術者」を国の民間認証にする活動も進めています。講習会では特に40代以下の受講者が熱心で、その人たちが50代、60代の指導的な立場になった時、BIM/CIMを使うのが当たり前の産業になっているのを夢見ています。
丹羽 パソコンが普及する時も当初は使えない人がたくさんいましたが、今では誰もが当たり前に使う社会になりました。携帯電話も、以前はボタン操作方式が普通でしたが、今では、ほとんどの人がスマートフォンを使うようになりました。BIM/CIMも同じだと思います。原則化したといっても1年で全て浸透させるのは難しいため、次年度以降もフォローアップしていきますが、ゆくゆくは当たり前の技術になり、扱えないのがむしろ恥ずかしいぐらいのものになると思います。
パソコンやスマートフォンでBIM/CIMを気軽に活用できるようになれば、現場における苦汁作業の低減やテレワークの拡大、さらなる効率化により、職場環境の改善、魅力向上につながり、若者や女性が活躍できる場所の広がりも期待されます。建設業全体で新たな人材を確保する意味でもBIM/CIMの普及は大きなメリットになるのではないでしょうか。