メリットの理解が普及の鍵/課題解決の目的と手段を明確化
吉田 JCITCは昨年から「初級BIM/CIM技術者養成講座」を全国で開催しています。任意資格ではありますが、1年で約100人が受講し、約50人に初級BIM/CIM技術者資格認定証を授与しました。資格者の年齢層を見ると現場でばりばり働く40代ぐらいまでが圧倒的に多くなっています。
廣瀬 公共事業全体で見ると、さまざまな組織で50代以上の年齢層が厚くなり、高齢化が進んでいます。最前線で頑張る彼らの知識やノウハウが非常に重要であり、それをどう継承し、デジタル化が進む現場にビルトインするかが課題です。その意味でITリテラシーの高い技術者がBIM/CIMに関心を持つのは良いことだと思います。
BIM/CIMで建設生産プロセスを変革し、受発注者の生産性向上の武器にすることが、インフラDX(デジタルトランスフォーメーション)推進のコアとなる考え方の一つだと思います。一般的には若手技術者が得意とする新技術とベテランのノウハウをBIM/CIMを介して融合することで、組織として総合力を高めることができます。
廣瀬 今年度から詳細設計と、C等級以上の直轄工事にBIM/CIMを原則適用しました。河川は自然公物であり、水路の勾配などは地形に合わせて調整することが多く、3次元データと属性情報を使うBIM/CIMは非常に効果的だと思います。
特に築堤工事は大手だけでなく、多くの地域建設業が担います。地盤改良工や構造物工などの関連業種も多く、協力会社も含めてBIM/CIMで施工計画や段取りをしっかり確認し、無駄な作業や手待ちをなくすことが重要です。私が局長を務めた関東地方整備局の荒川調節池工事事務所は、BIM/CIMやICTを積極的に活用して荒川第二・三調節池整備事業を進めています。日光砂防事務所では、景勝地の景観を守りながら砂防堰堤を整備するため、BIM/CIMで自分たちの検討を効率化するとともに住民説明にも3次元データを活用していました。完成イメージのCGを別途発注する手間もなくなりました。
また、河川事業は代替案の比較が大切であり、BIM/CIMデータに入力した属性情報を使って概算数量や事業費をすぐに算出して比較し、迅速な検討が可能です。
吉田 BIM/CIMを普及させる上でどのようなことがポイントになりますか。
廣瀬 重要なことは、受注者がBIM/CIMやDXのメリットを理解する仕組みをつくることです。i-Constructionは、丁張りレスと安全性向上という分かりやすいメリットがありました。そのため、BIM/CIMでもメリットを紹介する義務項目・推奨項目事例集を昨年度に作成しました。先ほどの代替案の比較や景観地域の可視化などの事例を掲載し、関係者がBIM/CIMを導入する意義を分かりやすく紹介しました。導入メリットを出すには、単に3次元化するだけでなく、現場の課題を見つけ、新技術をどう使えばいいかを考えることがポイントです。
ダムなど大手や準大手ゼネコンが受注する工事では、彼らが協力会社のBIM/CIM活用をけん引することが重要です。特にダム再開発などの工程が複雑な工事では、BIM/CIMや新技術を活用した新たな働き方を広めてほしいと思います。一方で全国建設青年会議などに所属する若手経営者が、トップランナーとして地域建設業に広めることも期待しています。
吉田 発注者としてBIM/CIMに期待するメリットはどのようなことですか。
廣瀬 河川分野では、3次元河川管内図や河川維持管理データベースシステム『RiMaDIS(リマディス)』などの河川管理用のシステムを現場で運用しています。こうした既存システムとBIM/CIMが有機的に連携し、河川管理全体の生産性を向上する制度設計が必要です。インフラ老朽化対策も重要で施工と維持管理のデータ連携を進めることでメリットを得られます。
吉田 2年前倒しでBIM/CIM原則化が始まり、受注者が追いつけるか心配しましたが、国交省がきめ細かく対応しながら推進していることを知り、安心しました。
廣瀬 北陸地方整備局の利賀ダム建設工事では、安全管理の問題で現地に入りにくいため、BIM/CIMモデルで検討するのが有意義だと判断し、法面対策工事の工事公告時に提供しました。原則化を進める中で、河川の特性に合わせて課題解決のための目的と手段をきちんと考えることが大切です。新しい仕組みに挑戦するのは、組織を活性化する意味でも非常に大切であり、各現場で積極的に取り組んでほしいと思います。