【動画ニュース・前編】天神町place/伊藤博之建築設計事務所/伊藤博之氏、上原絢子氏 | 建設通信新聞Digital

5月2日 金曜日

公式ブログ

【動画ニュース・前編】天神町place/伊藤博之建築設計事務所/伊藤博之氏、上原絢子氏

 

◆動画ニュースはこちら
動画はこちらから

伊藤氏(左)と上原氏


 「住む人みんなが一緒に住んでいるように感じられる建物をつくりたい」。伊藤博之建築設計事務所主宰の伊藤博之氏は常に、この意識を持ちながら共同住宅の設計に臨んでいる。同じ出身地の人同士が故郷の記憶を通じて共感し合えるのと似た感覚で、建物の特徴を介して住民に「一緒に住んでいる意識」が芽生える建築を目指しているということだ。それを体現するのが、2024年度のJIA優秀建築賞やグッドデザイン金賞を受賞した賃貸共同住宅『天神町place』(東京都文京区)である。設計を手掛けた伊藤氏と同社の上原絢子氏に、現地を案内してもらった。 この建物があるのは湯島天神からほど近い閑静なエリアで、周囲には小中規模ビルが建ち並ぶ。天神町placeはそれらのビルと調和した、8階建てのRC造建築だ。近づいてそのビルの隙間をのぞくと、奥に“わくわくする何か”が広がっている気配を感じる。

エントランスは思わずのぞき込みたくなる雰囲気を醸し出す


 そうして中に進んでいくと目の前には、日光が差し込む円形の中庭空間が現れる。というのもこの建物は馬蹄形状で、中庭に陽光と風を入れるため、上空だけでなく、建物の随所にバルコニーを設け、その通り道をつくっている。光や風の入り方はもちろん、遠くにそびえ立つ高層ビルを筆頭に、景色の見え方も綿密に計算した上で配置した“抜け”により、「完全に閉じた世界ではなく常に周りが感じられる場所」(伊藤氏)を実現した。

 中庭の外壁は、不ぞろいの型枠でつくり上げたコンクリート壁の効果で、木のうろにいるような不思議な感覚が味わえる。この空間をつくる設計過程では、「当初、平滑な壁として模型をつくったが、壁の威圧感が強くなってしまった」と上原氏。そこで、「温かみや光が感じられるテクスチャーを表現するため、木の皮が残るようにスライスした材を型枠として使用した」という。

中庭には随所にベンチが設けられている

◇被害材の型枠で外壁に木の個性

 この型枠には千葉県山武市産材を活用した。背景には、溝腐(みぞくされ)病のまん延による同市の林業低迷がある。事務所では07年、その打開の一手として、被害木を使って家具をデザインしたことがあった。今回の計画でも、「製材としては利用できなくても、ほかの使用方法があるのではないか。森の状態は依然として変わっておらず、この状況を知ってもらいたい」と考え、型枠として使用したと伊藤氏は明かす。この型枠の効果で、木の持つ個性が存分に生かされた外壁が出来上がった。

 この外壁、一見すると施工の手間がかかりそうだが、大工が施工しやすいシステムである点もポイントだ。型枠材は片側を木の皮を剥いだままの状態にする一方、残りの片側を直線とし、この面を一直線にそろえて200mmピッチで貼る方法にすることで、迷わず作業できるようにした。

 モックアップをつくり、狙った効果が出せるかを確認した上でこの案を採用したという。

 多様な表情を見せる外壁の窓にも、施工性が考えられている。幅の異なる窓が随所に取り付けられており、ぱっと見にはたくさんの種類の窓を使用しているようだが、実際は4種類に限定。部屋の間取りや構造面からの要請に応えながら配置した不規則性が、そう錯覚させている。このほか、馬蹄型建物の曲線はなるべく少ない種類の曲率とするため、2種類のみの同心円で出来ている。

 施工しやすさにこだわるのは、「コストなどの制約の中でも、工夫次第で多様な表現が生まれる」(伊藤氏)からで、施工を最適化することも、愛される建物をつくる秘訣だという。

後編はこちらから

 

【公式ブログ】ほかの記事はこちらから

建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら