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◇中庭は“大きな一軒家の縁側”
天神町placeの特徴として、各部屋に行くまでの道のりがそれぞれ異なる点も見逃せない。これにより、「それぞれのアプローチが個性的な風景を持つことで、ある意味でそれぞれが少しずつ特権的な住まいであるような感覚を持てる」(伊藤氏)からこそ、住人は一戸建てに住まうように、自然と住戸の使い方を創造し、思い思いの空間を生み出している。
ある住人は、柱の間を利用してつくられた小スペースをワークスペースとして活用。いすに座って窓の外を見ると、エントランスの方向を一望でき、お気に入りの場所になっている。窓越しに垂れ下がった植物の実を目当てに、野鳥もやってくるという。
中庭に面した各住戸の窓際には、多くの住人が置物や人形を置き、生活の風景が中庭へとにじみ出す。
完成してから約1年6カ月、上原氏は「たくさんの人が見に来てくれた。『ヨーロッパみたい』『アジアみたい』と、皆さん中庭の情景からさまざまなことをイメージしてくれている」と話す。ここに住む人も見学に来る人も、それぞれが自由に想像を膨らませられる建築に仕上がった。
木のうろのような、洞窟のようなこの場所では、随所に設けられたベンチや階段に、自然と腰掛けたくなる。建築の力に加え、グリーンデザイナーによる多彩な植栽の風景や住民の気配が安心感を与え、ただたたずんだり、ボーッとしたくなったりするのではないだろうか。
この中庭は言うなれば、風や光、緑を通して季節の移り変わりを感じる“大きな一軒家の縁側”で、これこそが伊藤氏の言う「一緒に住んでいる感覚を持てる」ことなのだ。
この考え方はほかの用途にも応用できると伊藤氏はみる。「高齢者向け施設やホテルにも言えることかもしれない。ある建物を使用する人たちが、互いに一緒にいる感覚を持てることが重要なことだと思う」とし、これからの建築を見据える。
概要
▽事業主体=寿企業
▽建築設計・監理=伊藤博之建築設計事務所
▽施工(建築)=サンユー建設
▽規模=RC造地下1階地上8階建て延べ2448㎡
▽建設地=東京都文京区湯島3
▽完成=2023年8月