ただ、21年に設計プロセスの現状分析を依頼した外部コンサルから、各部門がそれぞれ別の設計ツールを使いデータを変換しながら共有している流れが非効率な現状を生んでいることを指摘された。その解決策として示されたのがBIMの定着であった。建築、設備電気、生産設備の各ユニットからメンバーを選任したBIM推進タスクフォースを発足し、社長だった伊藤氏がリーダーとして陣頭指揮をとった。「本格的なBIM導入の動きはそこから始まった」と振り返る。
同社は、エンジニアリング会社として石化プラントをはじめ、多様な産業施設のFS(事業化検討)、FEED(基本設計)、EPC&M(設計・調達・建設・保守)を展開する。野田繁構造改革・デジタル推進担当は「各ユニットのデータをいかに効率的に統合管理できるかが求められている。LSP本部が先行するBIMの流れを確立し、それを全社展開することが、当社のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の重点テーマになる」と強調する。
DX推進では、コーポレート系デジタルとプロジェクト系デジタルの両面から展開し、BIMはプロジェクト系の一つの柱に位置付けている。先導しているLSP本部では、導入案件を選別し、受注した建築プロジェクトの約半数でBIMを活用している。坂本昌祥LSP本部副本部長は「5年前に指摘された非効率なデータ受け渡しの課題を解決するため、社内を一つのツールに統一することを決め、環境整備を進めている。重要なのはツールの親和性であり、それを実現するRevitをデータ基盤の中心に置いた」と説明する。
医薬品、化粧品などの工場や研究所は建築だけでなく、空調、給排水、電気、生産設備、物流設備など多くの要素技術で構成されている。伊藤氏は「これらの要素技術をBIMによって統合することで、設計品質や業務効率化の側面で大きなメリットが出てくる。アウトソーシング先との協業作業でも同様だ。BIMは全体最適のツールとして機能する」と確信している。
少子高齢化時代の到来で人材の確保が難しくなり、時間外労働の規制も動き出した。BIMは豊富な経験を持つベテラン社員の知識やノウハウをデータベース化する「技術継承の観点でも有効」と考えている。社内ではエンジニアリング(ENG)本部もBIMの活用に取り組み始めた。LSP本部が支援役となり、全社的なBIM推進を後押しする流れが色濃くなってきただけに「LSP本部内にBIM推進組織の発足も具体化していく」と先を見据えている。