新社長・日本ファブテック 中楯伸一氏 | 建設通信新聞Digital

5月19日 月曜日

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新社長・日本ファブテック 中楯伸一氏

【厳しい状況下も新設継続】
 日本ファブテックの新社長に、中楯伸一氏が4月1日付で就いた。親会社の清水建設の土木畑出身で、橋梁メーカーでの経営のかじ取りは初めて。現在は現場や工場を回りつつ、「会社の方向性、置かれている厳しい状況を踏まえて、どうするべきかを勉強中だ」と明かす。社長への抜てきについて「青森から宮崎まで、いろいろな仕事を経験し、その都度刺激があったが、今回は今まで以上だ」と語る。新風をまとった日本ファブテックの今後を聞いた。--就任の抱負は
 「清水建設で現場所長を務めていた際、熱意、技術、コミュニケーションを方針に運営していた。初心に立ち返り、この方針を前面に出して会社を運営していきたい」
--市況をどう見るか
 「鉄構事業は、来年度から繁忙期を迎えると予想している。特に再開発工事が忙しくなるだろう。足元では、建設コストの上昇に伴い、工事の見直しや内容変更、工期の後ろ倒しといった案件もある。米国トランプ政権の関税政策に絡んでは、発注サイドの投資計画が見直されるケースも確認している。大型案件が後ろにずれた場合、工場の稼働に大きな穴が空くため、これをどうするかが課題だ」
 「橋梁事業は新設の仕事量が少なくなっている。予算が変わらない中で物価が上昇し、仕事量が減っているという状況だ。日本橋梁建設協会に加盟する31社で、約10万tという少ないパイを取り合っている。新設だけでやっていくのは無理だろう。ただ、『橋をかけたい』との思いで入社した社員もいる。技術伝承の場としても新設は続けていく。設計を受注した大阪湾岸道路西伸部など、夢のある仕事も控えている」
--事業目標は
 「2023、24年度は橋梁事業が厳しかった。現状のままでは、いずれ新設工事がなくなりかねない状況が来てしまう。一方で鉄構事業は堅調だ。25年度の業績予想は、受注高を380億円とし、受注トン数は鉄構で4万t、橋梁などで7800t、合計で4万7800tとした。非常に高い目標だが、会社一丸となり達成したい」
--鋼橋新設市場の停滞は
 「少ないパイで31社が競争している。当然、橋をやりたいが、工場を回すには鉄構の仕事が必須だ。工場をしっかりと運営するにはある程度、初めから鉄構をやるという計画を立てる必要がある。橋梁分野の社員には、『初めから鉄構をやるんだ』という感覚を持つよう、伝えている」
--鉄構事業の戦略は
 「再開発案件は大型化しており、一つの工場で対応することが難しくなっている。工場同士の連携を高めるため、工務統括部を設けた。仕事量の山を平準化する体制をとっている。窓口となる工務が連携すれば、工場全体のやり方の統一も期待できる」
--事業の強みは
 「超高層ビル向けの鉄構など、他社ができない仕事を一生懸命やっている会社だ。今後の再開発では、技術的に難しい案件が多く出てくる。『ここなら任せてもいい』と思ってもらえるものをつくっていく」
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 (なかだて・しんいち)1986年3月山梨大工学部土木工学科卒後、同年4月清水建設入社。2018年4月九州支店土木部長、23年4月土木総本部統括部長、25年4月から現職。山梨県出身。62年8月19日生まれ、62歳。
◆記者の目
 「叱咤(しった)激励を激励と受け取れる性格だった」と笑う。苦しいときは「今は上り坂、成長しているんだ、一皮むけるんだ」と乗り越えてきた。ゆったりとした物腰からは、現場でたたき上げたであろう、人情の機微に対するまなざしがうかがえた。「コミュニケーションをしっかりとって仕事をお願いするのと、力関係で指示するのでは少しずつ、出来栄えに差が出る。そうした積み重ねは大きいということを、若い人に伝えたい」。中楯“所長”の“次の現場”が始まった。