JR東日本は、建築、土木、機械、電気などの部門間やグループ会社と連携しながら、DX推進に向けてBIMの有効活用を推し進めている。同社独自のEIR(BIM発注者情報要件)フォーマットをまとめるなど、BIM発注における業務フローで改良に取り組み、BIMを円滑に利用できる環境を整備している。新駅の設計施工でもBIMを活用し、工費削減や工事円滑化も実現した。中小規模の駅舎や事務所を対象とした既存財産図の簡易BIM化も試行し、今後は維持管理での導入も視野に入れるなど、BIMの活用が飛躍的に広がっている。各部門、各グループ会社の最新動向を紹介する。
JR東日本建設工事部 25年度のBIM活用方針
JR東日本東京建設PMO/JR東日本建築設計 JR東日本版のEIRフォーマットの作成
JR東日本上信越建設PMO 新駅建設にBIM活用
JR東日本設備部門/JR東日本ビルテック 既存財産図の簡易BIMモデル化
JR東日本建築設計 JRED-BIM-スタンダードの策定
鉄建建設 設計BIMの施工段階での活用
JR東日本建設工事部 25年度のBIM活用方針
JR東日本建設工事部は2025年度内にJRE―BIMガイドラインを改訂し、設計・施工段階でのBIM活用を加速させ、効率的な業務構築を推し進める方針だ。
ガイドラインには、建築設計三会で策定された設計BIMワークフローガイドラインのEIRひな型を参考に、JR東日本仕様に改良した発注者情報要件(EIR)のフォーマットを添付し、受注者の設計・施工業務においてBIM実行計画書(BEP)により、実効性のあるBIMデータの作成につなげる。25年度には、駅舎や変電所、施設機械室・電気諸室などの設計件名で試行・検証する予定だ。受注者はEIRの内容を踏まえてBEPを作成し、BIMプロジェクトを実行する。
ガイドライン改訂のほか、確認申請についても、現状では紙資料に印刷・提出や図面間の整合確認などに膨大な時間と労力を要しており、26年春からの建築確認でのBIM図面審査が開始されることを受け、国土交通省の審査ガイドラインに準じて、確認申請BIMモデルの作成・検証を行う予定だ。
BIMモデルからの数量算出は、JR東日本建築設計と共同でBIMによる概算数量算出の試行運用を実施し、数量算出の手間の削減やスピードアップを目指す。
現場情報のデジタル化にも力を入れる。ベースの帳票や写真で蓄積する施工記録を現地で確認でき、時間を問わずに記録の確認ができる環境作りに向けて、CalTaらが提供するデジタルツインソフトウェア「TRANCITY」を活用したマネジメントにも努めている。
今年1月には外部講師を招き、発注者視点のBIM活用・業務における有用性に関する勉強会を開催し、リテラシー向上のため人材教育にも引き続き注力する。
JR東日本東京建設PMO/JR東日本建築設計 JR東日本版のEIRフォーマットの作成
JR東日本東京建設プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)は、同社独自のEIR(BIM発注者情報要件)フォーマットをまとめた。
建築三会や国土交通省の営繕工事、関西・大阪万博などの複数のEIRを比較・分析し、鉄道独自の記載を加え、プロジェクトスケジュールや共通データ環境(CDE)などをEIRに整理した。各項目には「義務」「推奨」「必要ではない」の3段階の要求レベルを設定し、受注者の知見や技術力も反映できるようにした。
BIM発注業務のフローでも、以前は契約後に受注者がBIM実行計画書(BEP)を作成するため、受発注者間で認識の齟齬が発生していた。契約前に双方で協議してBIMで取り組む内容を合意する手順に変更することで「受発注者間で同じBIM作業をイメージできるようになり、互いの合意形成がスムーズに運ぶようになった」(JR東日本東京建設PMO駅まちづくりユニット建築戦略(建築技術)中川環チーフ)と効果を実感する。CDEの整備は、共通プラットフォームでBIMデータの利用を実現し、発注者側が必要箇所をタイムリーに3次元データ上で確認できる。EIRのフォーマットは土木・機械・電気など他系統への展開をする方針だ。
一方、JR東日本建築設計(JRED)もEIRに対応する形で、建築三会のフォーマットをベースにBEPをまとめた。品質管理で実効性のある重要項目を追加するなど改良を進めている。
同フォーマットは、既に東京都内の駅舎設計で活用しており、25年度内に改訂する「JRE-BIMガイドライン」に反映する予定だ。今後は情報の一元化やデータベース化も進め「建物用途ごとのEIRを確立していきたい」と同ユニットの藤井里奈氏は意気込む。
JR東日本上信越建設PMO 新駅建設にBIM活用
JR東日本上信越建設プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)では、JR越後線白山駅-新潟駅間に3月に開業した上所駅(新潟市)の設計・施工でBIMを活用し、工費削減や工事の円滑化などにつなげた。実施設計時に作成したBIMのさらなる有効活用に向け、6月以降の維持管理に引き継いでいく。
同駅には2面2線6両対応で全長125m、幅2.1-3.0mのホームがあり、その上部に3両分60mの上家が設けられている。実施設計段階では上家の設置により、運転士から下り線(新潟駅)進行方向先の既設中継信号機が見えなくなる懸念があった。
夜間に電車を走らせ見通しを確認するとなれば、線閉、測量、モックアップの作成など多くの人手と手間を要する。そのため同社は、現地で取得した点群データとBIMモデルを基にした運転士目線のウォークスルー動画で事前にシミュレーションしたことで、夜間作業の立ち会いなどにかかる労務費を一定程度削減できた。
施工では昼間のホーム作業時間を増やすため、設計BIMモデル上に仮囲いを設けて運転士が進行方向にある速度制限標識の視認に支障がないかを検証した。実施設計を担当した上信越建設PMOの小島大輝氏は「ベースとなる設計BIMモデルがあったおかげで施工時にも簡便に応用でき、運転士との打ち合わせを円滑化して工事を進められた」と振り返る。
現在、維持管理に必要な部材情報や設計時からの形状や部材などの変更点に対して設計BIMモデルを基に施工者の第一建設工業で反映作業を行っている。その後、上信越建設PMOにて、建築、土木、電気など系統ごとに財産モデルを色分けで表示し、どの所管か判別する機能などを盛り込む方針だ。
JR東日本設備部門/JR東日本ビルテック 既存財産図の簡易BIMモデル化
JR東日本では、建物の財産図を簡易BIM化し、維持管理を効率化する取り組みを進めている。同社鉄道事業本部設備部門建築ユニット、構造技術センター、建築設備技術センター、JR東日本ビルテックが参加する維持管理BIMに関するワーキングを立ち上げ、同社が保有する数多くの建物のうち中小規模の駅舎や事務所を対象にした既存財産図BIMモデル化の手引きを作成し、10棟程度の駅舎や事務所で簡易BIMモデル化の試行を開始した。
保有する約2万4000棟の建物の維持管理をBIMで効率化するため、既存の財産図や給排水図をもとに「簡易で低コストにBIMモデル化する手法を検討した」とJR東日本鉄道事業本部設備部門建築ユニットの吉田圭一副長は説明する。
簡易BIMモデルは、屋根を平屋などのシンプルな形状にする一方、設備や機器など各部材を適切に管理するための属性情報やパラメーターを保持することで、所有区分に応じた色分けや配管ルートの特定など管理を効率化する作成手法とした。また複数のシステムに分散していたデータや属人化した知識・ノウハウをBIMに統一し、「検索機能で誰もが簡単に必要なデータを引き出せるBIMビューワの開発を行っている」(同ユニット棚邉駿介氏)。
JR東日本の駅等建物設備の維持管理を担うJR東日本ビルテックは「財産図の延長線上で簡易にBIMを作成できる」(ファシリティマネジメント変革本部企画部図面データセンター黒柳徹副課長)と手引きの効果を実感する。社内のBIM推進を担当するJR事業本部JR事業部第一グループ田中宏樹副課長は「社内ワーキングも4月に立ち上げた。維持管理に必要な情報をフィードバックしたい」とし、BIMを利用した維持管理方法の確立に貢献する。
JR東日本建築設計 JRED-BIM-スタンダードの策定
JR東日本建築設計(JRED)は、BIM業務での社内標準ガイドライン「JRED-BIM-スタンダード」を作成し、BIM実行計画書(BEP)などとともにBIMデータの品質向上を進める。2018年にオートデスクのRevitを本格導入して以来の大規模改訂となり、「データの品質担保に加え、作業効率や時間短縮にもつなげたい」とJREDの牟田口高志技術本部IT推進部長はマニュアルの導入効果に期待を寄せる。
同社はこれまで、BIMデータ作成時の標準的なルールが存在しないため、業務の非効率を招いていた。そうした中、発注者のJR東日本東京建設プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)がBIM発注者情報要件(EIR)作成を進めていることや、26年から建築確認でのBIM図面審査が開始されることなどを念頭に、23年頃から社内BIM標準仕様の整備に乗り出した。同部の宮脇健太郎課長は、「社内の製図基準や設計者の意見をまとめた標準テンプレートをBIM確認申請で活用していきたい」と展望を描く。
ガイドラインおよびテンプレートは、建物各部位のモデル作成や作図手段のほか、ファイル構成、命名規則など、データの管理手法に関する共通ルールを設ける事でBIMソフトの初期セットアップや作図表現、出図調整の効率化を図りつつ、BIMデータの一貫性の確保を目標としている。
同ガイドラインは4月に正式版がリリースされ、今後のプロジェクトで施行される予定だ。「あくまで指標であり、標準ルールを理解した上でより最適なルール、手順、アイデアの導入を図り、随時アップロードしていく」(駅まち開発設計本部 新宿駅プロジェクト部門〈同部兼務〉志関雅詞課長)と柔軟性を持たせた運用で社内の定着化を目指す。
鉄建建設 設計BIMの施工段階での活用
鉄建建設は、設計段階で作成したBIMを活用し、業務効率化や省力化、工事における精度向上を進めている。その中で、東京都心で整備が進む鉄道建築案件では、設計時に作成されたBIMを受領し、EIR(発注者情報要件)に対するBEP(BIM実行計画)を作成し、工事着手前段階において施工計画検討などの取り組みを進めた。
本計画建物は土木工事で先行して構築された地下構造体の直上に新設する計画であり、発注者のJR東日本から建築設計BIM、土木計画構造物BIM、施工範囲の周辺状況を持つ土木BIMを受領し、統合BIMモデルを作成して施工計画の検討を進めた。鉄建建設建築本部鉄道建築グループの嶺大輔担当部長は「着工前に施工上の課題をフロントローディングで解決できるか検証した」と目的を語る。
統合BIMモデルによる検討の結果、既設構造物が新設建物に支障することや、施工区域と近隣敷地との高低差について、新たに対策が必要となることが確認された。同建築本部集中支援部BIM推進グループの松本賢二郎担当部長は「関係者が把握していなかった検討確認項目を洗い出すことができ、プロジェクト全体を通したコストや工期のリスクを事前に共有できた」と成果を評価した。
またEIRとBEPの適用では、プロジェクト全体でBIMを効率的に活用するための必要事項を整理できた。同グループの本田瑛久主任は「他系統との連係を見据えた運用を行う際は、徹底した最新情報の管理と共有、事前のBIM作成のルール決めが必要不可欠であることを確認できた」と振り返る。他系統の施工情報を正確に把握することで、施工計画検討の精度向上を図る考えだ。これらの成果が今後の業務フロー構築に活用されることが期待される。