JR東京総合病院で維持管理BIM
――今回の事業の経緯は
嶺 JR東京総合病院(東京都渋谷区)は、健康経営推進の観点から、医療技術の進歩や患者ニーズの変化、また感染症患者受入れにも対応した施設更新・機能強化が必要となっています。このため、築40年以上が経過し老朽化した病棟の建て替えと、外来棟を含めた病院全体のリニューアルを行います。本プロジェクトは延べ約9800㎡のe棟、延べ約3万3500㎡の新病棟を新築する計画です。e棟(基本設計・監理=久米設計、実施設計・施工=竹中工務店、維持管理=JR東日本ビルテック)は4月に開業しました。2025年春に新病棟が開業します。
設計から維持管理までBIM活用を行うモデル事業として、実施設計が始まった20年度から維持管理BIMの検討を本格化しました。膨大なBIMデータをスリム化する必要があり、社内建築関係者とともに必要な機能を検討してきました。
吉田 設計段階の時にJR東日本ビルテックに出向しており、建築、機械、電気、通信など系統別に管理する部材、設備、機器の属性情報やパラメーターをリスト化し、維持管理に必要な要素を抽出しました。その後JR東日本に戻り、BIMの専門的な知識がなくても維持管理に活用ができ、データの2重管理をせず、現地利用ができる3次元モデルビューワーの開発を進めました。そこで、久米設計が国土交通省のBIMモデル事業を機に開発したビューワーをJR東日本仕様にカスタマイズして利用することにしました。
――維持管理での活用法は
藤森 当社は、設計、数量計算、施工などの事例が増え、各部署に浸透しつつありますが、維持管理は明確な活用事例がなく、どのように業務に落とし込むかを検討する必要がありました。JR東日本やJR東日本ビルテックが参加するワーキンググループ(WG)を立ち上げ、維持管理に必要な図面や設備データ、報告書、製品仕様など、ばらばらに管理していた情報を全てビューワーに集約し、関係者が活用、更新して建物を管理することを最終ゴールとし、業務フローを変革します。
維持管理BIMビューワーの主な機能には、モデル閲覧、法令点検記録、発生事象記録機能などのほかBIM上での寸法計測機能や検索機能も備えます。例えば駅のある器具に不具合が起きた際、ほかの駅で問題あるか検査するとき、どこに取り付けられているか表示し瞬時に把握します。
――定着する上で必要なこと
藤森 業務フローを検討するWGを設置し、全支社を対象にどう仕事の仕組みを変えるか検討します。JR東京総合病院のビューワ―の試行を踏まえ、駅舎の活用にフィードバックし、将来は既存建物もBIM化し、ビューワーで管理することを想定します。
横川 維持管理の現場では、目に見えるものはすぐ対応できますが、壁の中や天井裏の配管やダクトを確認するのは困難です。現地で壁や天井の中の設備をビューワーで確認できるほか、点検記録の入力や写真を撮影・保存できるのが最大のメリットです。設備や機器の財産区分を色分け表示できるため、タブレットですぐにどの部署の財産か確認し、対応が迅速化します。
黒柳 図面データセンターでは、財産図の更新と工事しゅん功図の登録を行います。これまでCAD図面を扱ってきましたが、今後BIMデータの更新・登録をどう進めていくのか業務体制について検討していく必要があります。
――データ連携のポイントは
古川 建築の各分野の担当者とシステム開発会社がおのおのの専門用語で会話するため、間に入って両者が伝えたいことを翻訳、調整し、BIMに落とし込むのがBIMマネージャーの大きな役割でした。またBIMデータを維持管理に活用する際は膨大なデータを取捨選択する必要があり、ビューワーでハンドリングできる情報量に調整する仕組みの構築などの技術的支援も行いました。現在はバーチャルハンドオーバー(仮想竣工引き渡し)を行っており、ビューワー上で維持管理BIMのテストをしています。
藤森 12月までを試行期間とし、月1回程度のペースで議論して第2開発につなげます。25年春に開業する新病棟にも反映したいと思います。病院と並行し、中規模駅舎でもサンプルモデルをビューワーに入れて検証します。
嶺 データ変換の負荷が大きいため、誰がいつBIMデータを変換するか業務フローに組み込む必要があります。BIMはまだ人によって理解度が異なるため、BIMマネージャーら実務に詳しいメンバーが参画し、われわれが言うことをうまく構築いただくことで、まだ事例の少ない維持管理BIMの議論をまとめることができたと思います。
【鉄建建設 関係者間 連絡調整を効率化/BIMを中心とした円滑なデータ連携】
今回、関係者とデータを一元管理するため、「BIM360 Docs」を採用した。新旧データの比較機能により、図面変更があった場合に最新の修正箇所が一目で確認できたほか、常に最新のデータにアクセスできる環境を整えた。さらにマークアップ機能や、指摘事項のリスト化機能を活用することで、関係者間の連絡調整の効率化などに貢献した。
今回は新たな試みとして、初期設定の段階で工事関係者をグループ化して、ワークフローの管理を実施した。グループ特有のルールに沿って進捗管理したほか、各業務の処理状況をリスト化し、未処理事項を一目で確認できるほか、担当者に処理を促す役割も果たした。同グループの本田瑛久氏は「未決事項が視認でき、容易に共有化できたので、現場定例会議でのスムーズな進行に効果的であった。会議における情報の閲覧・共有できるツールとしての強みを実感できた」と説明する。
具体的なBIM活用では、基礎配筋の納まり検討で配筋BIMモデルを作成し、鉄筋の干渉・かぶり厚さ・定着長さの確保、鉄筋とアンカーボルト・アンカーフレームの干渉などを確認し、検討箇所を現場担当者と共有し、納まり検討を行った。
また、設備の統合BIMモデルを使った干渉チェックも実施し、階ごとに統合モデルを分割して活用することで、梁貫通補強の位置調整や設備配管や配線ラック等の干渉調整を行った。さらに、各設備を系統ごとに色分け表示し、円滑な情報共有が可能となった。BIMの活用に加えて、XR(クロスリアリティ)技術により、工事関係者間で工事の具体的な進捗イメージの共有を行い合意形成につなげた。また、デジタルツインとBIM連携では、竹中工務店技術研究所と共同で、四足歩行ロボットを現場巡回させたデータ取得も試行した。今後の取り組みとして、BIMモデルを中心とした現場情報の一元化に取り組み、各種現場データとの連携によって業務効率化を模索している。
【JR東日本建築設計 点群と重畳 自動積算も追加/鉄道電気設備建物の自動設計ツール高度化】
さらにBIMモデルと点群を重畳させ、CDE(共通データ環境)上での3Dビューによるレールや架線などの支障物との位置関係や既存構造物との離隔の確認を実現した。こうした検討精度の向上で、現地確認の回数削減や関係者調整にかかる時間の削減につなげる。柳澤剛技術本部IT推進部部長は「建築と設備機器の設計は根本的に異なるが、今回の機能である程度の所まで誰でも設計ができるようになった」と強調する。
BIMモデルによる自動積算も追加する。建物マスモデルから数量自動計算を行い、単価と数量を掛け合わせた単価データベースと組み合わせることで、概算精度の向上や業務削減を図り、フロントローディングを目指す。「各路線で数年おきに、機器の老朽化による取り替えが発生する。どの鉄道会社も同じ課題を抱えているとあって、ぜひ活用してほしい」と利用機会の増加を期待する。
一方、設計におけるDX(デジタルトランスフォーメション)推進のため、JR東日本グループとして同社が設計の発注を受ける「特定件名」などでBIMを積極的に駆使し、2023年度の85%から24年度は100%活用を目指す。施工BIMにおけるFM(ファシリティマネジメント)連携による拡充も進めている。前回の高崎線熊谷駅天井内での点群とBIMを使用した「天井内空間における状況把握検証」に続いて、新潟駅天井内でも実施した。ダクトや通信ケーブルなど設備機器が入り組む狭隘な天井内でドローンを飛ばし、支障物の有無や干渉の確認のために点群から生成したBIMを活用した。中込英樹経営戦略本部担当部長は「既存天井内把握のドローン調査には、JR東日本ビルテックさまの協力もいただき、JR東日本グループでの連携強化にもつながっている」と強調する。「今回は、設備機器がどこの所管する財産なのかを色分け表示したほか、点群もライトの置き方などを考慮してデータの取得に取り組んだ」という。
BIMを活用する上での人材育成では、BIMコーディネーターなどの育成を目的にe―ラーニングやスタートアップ講習などを実施、設計者に必要なスキルの強化を後押しする。