オートデスクは、社を挙げてBIM活用に乗り出す企業と密接に連携するため、積極的にMOU(戦略的提携)を結んでいる。以前はゼネコンや建築設計事務所が中心だったが、BIM導入の広がりを反映するように、近年は設備工事会社や内装ディスプレー会社などとも締結する流れが広がってきた。
設備工事会社では2022年2月の高砂熱学工業を皮切りに、24年3月に新菱冷熱工業、25年2月にダイダンとMOUを締結した。オートデスクが設備工事会社向けに開いた会合「MEPラウンドテーブル」では、MOU3社に大気社を含む計4社の担当者や役員をスピーカーに招き、BIMデータ活用のポイントだけでなく、課題も紹介された。
全社展開に向けてBIMソフト『Revit』活用のトライアルプロジェクトを拡大している高砂熱学工業では、これまでDX(デジタルトランスフォーメーション)推進本部内に位置付けていたBIM推進室を技術本部システム技術統括部の中に移管した。齋藤英範担当部長は「より現場と密接な連携が図れるようなBIM推進の流れに変えた」と説明する。
施工現場、オフサイト、バックオフィスの3拠点をつなぐ新菱冷熱工業では、最前線の現場担当の負担を軽減する手段としてユニット化やモジュール化を推進している。デジタルトランスフォーメーション推進本部デジタル推進企画部の酒本晋太郎BIM課長は「3拠点を有機的につなぐ基盤としてBIMデータが欠かせない」とし、「データを円滑に共有する流れを構築し、DX戦略へとつなげる流れを確立していく」と強調する。
両社のアプローチの仕方は違うものの、BIMを軸にデジタル基盤を構築していこうとしている点は共通する。齋藤氏が「当社は設計から施工、維持管理の各フェーズで必要な情報を取り出して使っていくような流れを構築している」というように、情報共有の基盤にはCDE(共通データ環境)プラットフォームとしてオートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を位置付けている。
「当社では施工フェーズで使うモデルだけでなく、ドキュメント類も含めすべての情報をACCの中に入れ、一元管理しようと動いている」と酒本氏も同調する。ACC活用の利点には、ファイル名の変更が必要ない使いやすさがある。従来はデータを更新するたびにファイル名を変更していたが、ACCでは上書き保存するだけで、最新データを位置付けることができ、これまでのデータも履歴として保存されているため、「最新データの管理が容易かつ確実に行われる」と付け加える。
ただ、両社ともACCとオンラインストレージサービス『BOX』を併用している。齋藤氏が「当社は先行してBOXをクラウドサーバーとして使ってきたが、施主やプロジェクト関係者との共有が必要な場合はACCを中心にして情報のやり取りを進めていく検討を行っている」と説明するように、情報共有の内容や状況に応じて効果的に使い分けながら最適なデータ共有環境を構築している。
とはいえ、ACCは建設に特化したクラウドプラットフォームであり、工事進捗(しんちょく)などを可視化して分析できる。酒本氏は「各部材の作業進捗を色分けする使い方によって遅れの原因などを皆で共有しやすくなる。現場出来形の見える化によってプロジェクト関係者への情報共有も迅速化している」とACCの効果を挙げる。齊藤氏は「このように具体の成功体験を社内で共有していくことが、BIM導入の原動力になる」と呼び掛ける。