建築を媒介として、その外の世界と人間をいかにつなぐか–。萬代基介建築設計事務所の萬代基介氏は、「建築単体で閉じない」ことを意識しながら設計に向き合っている。ポップアップステージ 東外は万博会期終了後、部材単位ではなく施設全体をそのままの状態で別の場所に移設できるのが特徴で、これはまさに、万博の記憶を未来へと“つなぐ”ことに他ならない。さらにステージには、1970年と2025年の二つの大阪万博の記憶が刻まれており、過去をもつなぐ。これほどまで“つなぐ”ことにこだわるのは、それが人間の世界を広げることにつながると信じるためだ。
「スクラップアンドビルドの象徴のような万博に参加することに疑問を持っていた」。当初、プロポーザルに参加するかどうか悩んでいたという萬代氏。しかし、「70年の万博は建築を考える上で非常に重要な出来事だった。参加した当事者でなければ分からないことがあるのではないか」と感じ、参加を決めた。
こうして生まれたのが、「万博終了後、別の場所に転用できる」ドーム型の施設だ。「ステージという記号をまとわないようにつくる」ことで、次の場所での活用可能性の幅を広げた。
ドーム型ステージは、20個のリング状フレームと膜のみでできている。ドーム形状にしたのは、「なるべく少ない部材で大きな空間をつくる」ためで、これも転用しやすくする工夫だ。基礎梁を含め、移転先でそのまま使えるようにつくられている。
ステージを内側から見ると、フレームでできた特徴的な幾何学模様に引きつけられる。同じ大きさの20個のリングを少しずつずらしながら配置するというシンプルな方法でこの模様は構築されており、リング同士が重なり合う部分は開口部や地面となっている。
フレームのリングは言うまでもなく、25年万博を象徴する大屋根リングをイメージしたものだ。さらに、空に向かって開けられた開口部とリングフレームによって生み出された太陽のようなフォルムは、70年の太陽の塔とのつながりを暗示する。
2回の万博の記憶をこの施設に込めることで、別の場所に移設された際にも、「『万博にあった建築だ』と語り継いでもらえる。歴史を背負った建築になる」。今回の万博会場である夢洲は、コンテクスト(文脈)を持たない特殊な土地だからこそ、過去から現在、未来へと順を追って場所性をたどっていくという通常の設計方法とは真逆の、「未来から現在、過去へとさかのぼっていく」建築ができあがった。
萬代氏が“つなぐ”ということを強く意識するようになったのが、自身の事務所を設立する直前に発生した東日本大震災だ。「窓を開けて日の光を取り込むような、物理的に建築と外の世界をつなぐことは難しくない。それを超えてつなぐことが大切」。つなぐとは何なのか–。日々考えながら、被災地での仕事にも精力的に向き合ってきた。
万博施設を別の場所に移設するというのも、つなぐことの一種だ。さまざまなつなぎ方で、人々に「これまで知らなかった世界の存在に気付いてもらう。そうした気付きを人間の身体に働きかけていくような建築をつくっていきたい」と前を向く。