仙台市のせんだいメディアテークで11月1日から、これまでの建築展のイメージとは異なる、訪れる人が主役の“建築展”が開かれる。建築展といえば真っ先に浮かぶ模型や図面は、この会場にはない。そこにあるのは、開館から約25年間、メディアテークに積層されてきた市民活動の軌跡だ。人々の活動や声が「民話が聞こえてくるツリー」「言葉の雨」「本の鳥」など、“小さな建築”に姿を変え、会場を彩る。設営中の会場に入り、キュレーターを務めたo+hの大西麻貴、百田有希の両氏と、せんだいメディアテークの清水有企画・活動支援室長に建築展に込めた思いを聞いた。 建築家・伊東豊雄氏の設計で2001年1月に開館したせんだいメディアテークでは、本を読んだり勉強したり、ただボーッとしたりと、訪れる人が思い思いに時間を過ごす。この中では、大小の個性的で豊かな市民活動も生まれ、日常的にその活動が展開されている。
 開館25周年を目前に控えた今、人々の出来事が日々生まれては消え、更新され続けていく公共空間で開催する建築展とは何なのか。そこで生まれたのが「来場者がただ鑑賞者として存在するのではなく、自分自身の活動や記憶を重ね合わせながら、新たな公共性の形を想像できるような構成だった」と、メディアテーク立ち上げ時からこの場所を見つめてきた清水室長は話す。
このような構成を具現化する上で、清水室長が頭に浮かべたのがo+hの二人だ。「一貫してやわらかな公共性への眼差しに関心を持ち、人の居場所や声に耳を澄ませながら人と人とが出会う場をつくってきた大西さんや百田さんであれば、メディアテークの『公共空間の在り方』を建築展という形式の中で再解釈していただけるのではないかと感じた」
キュレーターに決まった二人は市民グループと対話を重ね、市民やメディアテーク関係者らとともに、展示空間の在り方を考えていく。
その過程では、例えば、捨てられてしまう包装紙を使ってものづくり活動をしている「ワケあり雑がみ部」について「参加するのもしないのも自由で、参加者の年齢層も多様だった。寛容で、緩やかな集まり方が魅力的だった」と大西氏は振り返る。
続けて、「メディアテークでは、戦争や東日本大震災後の悩みなど、さまざまなテーマで話し合いが行われているるその横で、中高生が自習をしているという環境があった。異なる活動が隣り合って互いに影響を及ぼし合うということが、この場所の価値の一つになっている」と常々感じていたという。
対話をし、さらにはメディアテークという場を思い返す中で、「もうひとつの森 『なにもしない』からはじめるメディアテーク」というタイトルが生み出される。
展示会場となる6階フロア約2500㎡を森に見立て、メディアテークで生まれた市民の活動・声や、思い思いに過ごせるこの場所の特徴を、岩山や鳥、雨、地層、花、鳥などをイメージした“小さな建築”に織り込んでいった。これらはクッションや本、言葉が書かれたクリアカード、雑紙、テーブル・ベンチなどでできており、森を構成する一部になっている。
 百田氏は「小さなものの集まりで会場をつくった。展示物一つひとつに明確な形があるというより、それぞれが共同して一つの居場所をつくる。そんな場所をつくりたいと思った」と話す。こうした場をつくるため、あえて間仕切りを使わず、1フロアを一体的に利用した。
一つひとつの要素を見ていくと、体を包み込む木のような形の帽子からは、「みやぎ民話の会」が集めた民話語りが聞こえてきたり、雨が降るようにつり下げられたクリアカードには、メディアテークにまつわる言葉が書かれていたりする。
シルバーのテーブル、水辺に見立てた床空間など、反射を有効に活用することで、空や光といった周りの環境と接続できる工夫も施した。
まさに森のように、会場には多様な場所があり、来場者は一人でも誰かと一緒でも、何かをしてもしなくても、自ら過ごし方を選び取れる。
清水室長はこの展示体験によって、「(見る一人ひとりが)他者のまなざしを引き受け、自らの立ち位置を確かめる。ここで生まれる一つひとつの気づきやまなざしの往復が、まだ見ぬ公共の姿をそっと描き出していく」と確信している。
今回こうした建築展が実現するわけだが、清水室長と大西氏との出会いは、06年にさかのぼる。その年、今回の建築展と同じ会場で開かれた「せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦」に大西氏は出場し、入選していたのだ。
その当時、30代だった清水室長は「私はまだ、建築学生たちの思考や表現の多様さに触れる機会を得始めたばかりの頃だった。(大西氏は)とても印象的だった」と思い返す。その後も『みんなの家』プロジェクトや『ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展』などを通じ、二人の活動を見守ってきたという。
ともに別の場・立場で「公共性」「人と人との関係」を考え続けてきた。今回の建築展はこうした「長い時間の積み重ねの上に自然に生まれた協働だと思う」。清水室長はそう感慨を込める。
最後に今回の建築展について清水室長は「展示空間の中で、人と人、人と活動、人と物語が出会い、少しずつ重なり合っていく。その経験を通して、来場者自身が『公共とは何か』を体感できるような時間になれば」と思いを込める。
大西氏は「『メディアテークはこんなに光が感じられる場所なんだ』『こんな風に豊かな活動が育っているんだ』と気がついたり、楽しんだりしてもらえたらうれしい」と呼び掛ける。
百田氏は「『なにもしないからはじまる』というのがメディアテークらしいところ。“自由で居心地が良い”というところから何かをやってみたくなる気持ちが芽生える瞬間がある。そうしたことが少しでも感じてもらえたら」と期待を寄せる。
建築展はデザインスタジオ「アフォーダンス」と協働。サインなどによって、他のフロアまで活動がにじみ出す工夫を取り入れる。開催に当たっては、仙台建築都市学生会議の学生が会場準備に尽力したほか、会期中にもガイドを務める。入場は無料。会期は11月30日まで。
 
 
「もうひとつの森 『なにもしない』からはじめるメディアテーク」
仙台市のせんだいメディアテークで、o+hの大西麻貴、百田有希の両氏がデザインする展覧会「もうひとつの森 『なにもしない』からはじめるメディアテーク」が開かれる。会場は6階ギャラリー4200。メディアテークのさまざまな市民活動が集う「森」のような空間となっている。エイブル・アート・ジャパンや活版印刷研究会、ギャラリーターンアラウンド、知る続く在来作物プロジェクト、社会実践ポストポン、仙台建築都市学生会議、てつがくカフェ@せんだい、西公園プレーパークの会、みやぎ民話の会、ワケあり雑がみ部といった多種多様な活動を展開するグループと協働している。





 
							 
					 
					 
					





 
	







 
	
 
	 
	 
         
         
         
         
        