連載・建築設計事務所変革の萌芽(16) | 建設通信新聞Digital

11月26日 水曜日

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連載・建築設計事務所変革の萌芽(16)

【「開く」姿勢で共創領域加速/常若の体制と仕組み構築/類設計室 阿部紘(あべ・ひろし)社長】
 「ゼネコンも設計事務所も、おそらく目いっぱいの業務量に対応している」。類設計室の阿部紘社長は、建設業の現状を見極めた上で「だからこそ、私たちは業務の質をきちんと維持していくことのできる経営環境と人材配置、特に人材の育成に注力する必要がある」と強調する。
 2023年度から進めてきた「経営基盤整備3カ年事業」が最終年度を迎えた。「社会が何を問い、何を求めているのか。その問い掛けに対応できる人材を育て、組織として発展させる」ことを念頭に組織改革を進めた。現在は事業統括部の下に類設計室(設計事業部)と「営繕」「教育」「農園」「地域共創」の各事業部を設置し、「これら五つの事業・業態による共創経営実現」を目指している。
 設計領域は「時代の最先端プロジェクトにも対応する」設計事業部と、リニューアルをはじめとする既存ストック活用に焦点を当てた営繕事業部の2本立てで、「両利きの体制」を構築した。設計事業部は、新エネルギーや新素材、半導体関連技術をメインとする企業が集積する湾岸エリアに注力。「期待に応えられる設計力や営業力で、クライアントと共に成長できた」と自信を見せる。また「クライアントが持つ膨大な建築ストックについて戦略的かつ効率的に投資する視点が求められている」と営繕事業部に対する期待も込める。「設計と営繕の2本柱とすることで、クライアントに対し、より的確なサービスを提供する体制を実現させたい」とも。
 体制の見直しに当たっては「オープンカンパニー」の方針で進めてきた。それはありのままの姿をオープンに見せていくということ。そのためには「恥ずかしくない企業でなくてはならない」という覚悟も求められる。これを積極的に推し進めていくことで、「社員の活力も上がり、会社に対する誇りも生まれる」と効果を説く。
 学生に対する発信力が高まったことで、優秀な人材の獲得にもつなげた。近年は設計領域だけで約20人、グループ全体で約30人規模の新卒を採用するなど、積極的な採用活動を展開してきた。「今の学生はインターンシップ経験が豊富で、優秀な学生ほど企業を見る目が鋭い。そういう学生たちが当社に対して興味・関心を持ってくれている」と成果を強調する。
 教育事業はブランド名称を「類塾プラス」に変更、イメージを刷新した。かつての受験教育のイメージからは脱却し、「探究する力や発信する力といった本当の学力を育む」ことに力点を置いた教育を実践している。「こども建築塾」といった、社会と建築をつなぐ取り組みもスタートさせて「社内の領域の枠を超え、共創の動きをさらに加速させていく」考えだ。
 昨年から進めてきた奈良県宇陀市の類農園リニューアル工事が近く完成。念願のシンクタンク「活力共創研究所」も26年1月に本格始動する。「常に若々しい『常若(とこわか)』の体制と仕組みが構築された。五つの事業部が共創し、つながりあって社会の期待に応える力を発揮する」と意気込む。
【業績メモ】
 「教育」「研究」「生産」など社会の根幹を支える業種を中心に受注は引き続き堅調で、増収増益を達成した。「基盤づくりを着々と進め、大きく体制は変わった」として来年以降のさらなる飛躍を期す。