【記者座談会】意匠法改正案 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

公式ブログ

【記者座談会】意匠法改正案

A 今通常国会に特許庁が提出する意匠法改正案で、意匠制度の登録対象に建築物を追加するようだ。建設産業界にとっては少し唐突感があるかも知れない。
B もともと経済産業省と特許庁が2017年に設置した「産業競争力とデザインを考える研究会」に端を発している。『デザインとは何か』を検討する中で、機能的な優秀さではなく、製品のデザイン力によってコスト競争に巻き込まれない製品を生み出す考え方が国際的な潮流になっていることが指摘された。例えば、羽のない扇風機などは良い例だ。国内でも、自分が理想とする生活スタイルに合うデザインの製品を身の回りに置き、生活を豊かにしたいという考え方が広がっている。これまで日本のものづくり産業が追求してきた機能の高い製品だけでは、国際競争に勝てないということだ。
A それがなぜ建築物につながるのかな。
C 研究会では、どこも同じような外観だった自動車販売店のショールームで、車体の美しいフォルムを強調できるような独創的な内装・外観を整備した国内の事例が挙げられ、建築物でもブランドイメージを高められるとの考え方が示された。建築物の意匠の保護制度がある米国では、アップルの本社ビルが登録されている。アップルの本社と言えば、「あの宇宙船のような形」と多くの消費者がイメージできることが企業のブランディングだ。中国にも意匠を保護する制度があり、独創的な建築物や橋梁が登録されている。ただ、意匠の保護制度は海外では効力を発揮しないため、中国国内で保護される意匠の建築物が、日本では模倣し放題という状態だ。実は、“模倣”に対して寛容なのは日本の方ではないか、とも言われかねない。

今回の意匠法改正案は、デザイン重視の経営が広がっていることに対応するための制度改正となる

建築のオリジナル性を考える機会に

B 登録では、これまで国内で見たこともないような形状・模様・色彩という「新規性」が大きな登録要件になる。かなり独創的な建築物が登録対象になると思った方が良い。
D でも、基本的に大量生産され市場投入・流通する工業用デザインと違い、ほとんどの建築は一品生産であり、敷地条件や周辺環境、建築主の意向にも大きく影響を受ける。個別の解が求められる性質のものだけに、なぜ模倣対策が必要なのか正直ぴんとこない。
E そもそも建築のデザインにオリジナル性はあるのかという議論すらある。創造ではなく発見であり、すでに出尽くしたさまざまなスタイルをいかに引用するか、だとね。
D デザインとは単純に形を決めることではない。機能や使い勝手を含むのはもちろん、どう暮らしたいのか、豊かな生活を送るためにどうしたらいいのかといった根源的な問い掛けに応えた結果として形づくられるのがデザインだ。
B 意匠法の審査対象はあくまでも“見た目”だ。建築物に込められた思いは審査されない。見た目が真のデザインと言えるのか、という問いだろうけれど。
E いずれにしても建築のデザインについて考え、それを担う建築設計者に対する社会理解が深まる1つのきっかけになってほしいね。
C そうだね、権利の保有者は基本的に「デザインした人」、つまり設計者になるから、建築界も「産業デザインの話」と割り切るのではなく、建築のデザインについて改めて考える機会にすれば良いと思う。
B あとは、共同設計の場合や事業主の意向で設計した場合など、「デザインした人」が誰かといった出願権や権利保有者は関係者が協議して決める。こうした権利関係の調整でも問題が起きないよう、関係者意識を持つことが大切だろう。

建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら