【積水化学工業】余剰電力買取サービス9月より開始 ゼロエネタウン実現に向けた課題とは? | 建設通信新聞Digital

5月1日 水曜日

公式ブログ

【積水化学工業】余剰電力買取サービス9月より開始 ゼロエネタウン実現に向けた課題とは?

 積水化学工業はことし9月から、各家庭の太陽光発電で発生した余剰電力を買い取る「スマートハイムでんき」サービスを開始する。11月に固定価格買取制度(FIT)適用が終了する家庭が増え始める「卒FIT」への対応だ。ここからさらに、多数の住宅用蓄電池を遠隔制御・連携して、2020年以降に大きな仮想発電所(VPP)の形成を目指す。将来的には、集合住宅・商業施設も加えて、エネルギーを自給自足できる「ゼロエネタウン」の夢を描く。

上西グループ長(左)と梅岡チームリーダー

 スマートハイムでんきは余剰電力の売買サービスだが、「基本は各家庭における電力の自給自足」と梅岡尚R&Dセンター開発推進センター電気事業推進チームリーダーは語る。
 「実際の家庭のデータを分析すると、蓄電池を設置していても年間約1000kW時の電力は自家消費できず、売却せざるを得ないことが想定される。その受け皿が、スマートハイムでんきの第一の目的。買い取った余剰電力を当社グループの事業所や他の顧客でシェアし、再生可能エネルギーの有効活用で環境に貢献することが第2の目的」(梅岡氏)とした。
 出発点は、10年ごろに家庭用蓄電池を活用した新たなサービスを検討したことだった。各家庭では使用する電力量や時間帯にばらつきがあり、「各家庭、各蓄電池を電線でつなげて、余った電力を融通し合う」(梅岡氏)という構想が生まれた。

実証実験を行ったアップルタウン門司駅前

 実証実験は、セキスイハイム分譲地「アップルタウン門司駅前」(福岡県北九州市)や「スマートハイムシティ研究学園」(茨城県つくば市)で行われた。「実証実験における課題の1つは、電力を融通する際に既存の送配電業者の電線が使えないこと。当初は、自前で各家庭間に配電線を引く必要があった」(同)。この課題は、電力会社と連携して配電設備への影響を検証してきた一方、卒FITにともなって家庭用蓄電池の電力を既存の電線に流せるようになったことで解決した。

スマートハイムシティ研究学園

 さらに、太陽光発電の普及につれて、天候や時間帯による太陽光発電量の変動を、火力発電で調整する必要があるという矛盾も生じた。VPPは、この矛盾解決の可能性も秘めている。「1軒1軒の蓄電池の出力は小さくても、多数を制御し束ねると一定の発電能力がある」(同)。同社によれば、25万棟分の蓄電池を合わせれば、火力発電1基分の発電能力に相当するという。まずは、この電力を火力発電の代替調整力に使うことからスタートさせる見込みだ。これらの検証が「スマートハイムでんき」の構想・実現につながった。
 こうした太陽光発電・蓄電池の制御で「電力を自給自足できる『ゼロエネタウン』を将来的に実現できれば」と同社の上西章太R&Dセンター開発推進センターTEMSグループグループ長は語る。従来の大型発電所と比べて、「ゼロエネタウン」は長距離送電の電力ロスが減り、送配電網維持のコストも低い。
 実現にあたっては、消費(需要)と発電(供給)のバランスが課題という。「ゼロエネタウン」のためには、商業施設やマンションなどもVPPに組み込む必要があるが、これらは住戸と比較して消費電力が大きく、電力需要が供給を超過する。この課題解決のため「低コストかつ大容量の蓄電池、高い発電能力のある太陽光発電設備、使用電力を小さくする省エネ技術の開発・提案に取り組んでいる」(梅岡氏)。同社の取り組みの1つとして「フィルム型屋外向けペロブスカイト型太陽電池」がある。普及する一般の結晶シリコン太陽電池と比べて軽量で、従来は難しかった建物の壁面などに取り付けることができる。
 今後は「スマートハイムでんきを含めたサービスや技術をもって、他社との連携も視野に入れつつ、ゼロエネタウンの実現に寄与したい」(上西氏)と話す。

フィルム型屋外向けペロブスカイト型太陽電池(開発中)

建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら