都市生活にジャストフィットする宿泊機能や、新しい滞在価値を提供しているナインアワーズ(東京都千代田区)の全国13店舗目となる「ナインアワーズ水道橋」(千代田区)が1日に開業した。開業に先立って、これまでに建築設計などを手掛けてきた4氏によるトークイベントが開かれ、施設づくりに込めた思いや新たな機能の付加などについて語り合った。「都心での機能的、高品質なトランジットサービスの提供」という独自の事業スタイルに磨きをかけ、利用者の利便性を追求することで、「都市の中の道具」としてさらに進化し続ける。
同氏がデザインチームの「要」に位置付ける、柴田文江クリエイティブディレクターは、「1店舗目は建築というより中身で証明するということでつくった。次のフェーズでは建物を建てた。デザインされているカプセルホテルが増えている状況下で、本当の意味で都市の中の道具になっていくように、第3フェーズでは建築に加えて新たな機能を付加していきたい。次のフェーズに期待してほしい」と述べた。
水道橋の基本設計、監修を手掛けた平田晃久氏(平田晃久建築設計事務所)は、「ほかのナインアワーズではラウンジが分散していたが、ここでは効率よくカプセルを並べて、節約したスペースを一気に6階の空中ラウンジで開放する手法をとった」と説明。都市の風景を360度取り込む、全面ガラス張りの空中ラウンジからは近接する首都高速とJR中央・総武線を始めとする都市のダイナミズムを一望することができる。
ラウンジには段々の傾斜がついており、平田氏は「線路側にランドスケープが流れている状態をつくりたかった。鳥のように立体的なランドスケープを体感できる場所にした」と説明した。
「もともと現地にあるものを使ってまちを再発見する」をコンセプトにしてきたという平田氏は、これまでに赤坂、大手町、浅草(いずれも東京都)、新大阪(大阪市)の物件を手掛け、水道橋は5つ目。現在、工事が進む半蔵門と浜松町(ともに東京都)の設計も担っている。「最初の赤坂はカプセルをそのまま、まちに投げ出すコンセプト、浅草はカプセルで岩山をつくって3次元的なまちを表現した。新大阪は新幹線の駅の前に立っているので看板を使ったデザインにした」と振り返った。
ナインアワーズ蒲田(東京都大田区)の設計を担当した芦沢啓治氏(芦沢啓治建築設計事務所)は、「ペンシルビルなので効率的にユニットを収め、都市的なファサードを表現した。睡眠に特化するため徹底的にまぶしさを防ぐ設計を心掛けた」とコンセプトを語った。
ナインアワーズなんば駅(大阪市)と中洲川端駅(福岡市)の空間デザインを手掛けた猪熊純氏(成瀬・猪熊建築設計事務所)は、なんば駅について、「最も足を運ぶ回数が多いロッカーを中心にプランを構成した。エントランスはナインアワーズのレギュレーションに準じてモノトーンでつくり、女性の水回りは広くカラフルなものにした」と振り返った。
中洲川端駅は、商業施設の地下1階にあり、売り場の通路と隣接しているため、「内部までの経路を長くし、迷路の中をさまようように売り場とエントランスをどう遠く感じさせるかを工夫した」という。
次のフェーズとなる「都市の中の道具」への進化に向けては、平田氏が「設計を通じてカプセルホテル単体の設計だけでなく、初めて東京というまちを考えることができた」とした上で、「ナインアワーズによってそれぞれの場所が改めて浮かび上がる」という、都市の顕在化をキーワードに挙げた。
猪熊氏は「カプセルホテルが面白いのは、歴史が短い分、固定観念が最もない宿泊のスタイルであるということ。まちの中で寝て起きるという感覚が、ただ体験として面白い」とし、「街中でキャンプしているような宿泊のスタイル」に着目した。
成瀬友梨氏(成瀬・猪熊建築設計事務所)は、ナインアワーズについて、「余計なものがないので日常のモヤモヤが忘れられる施設だと感じている。無駄な部分が省かれているということですごくリラックスできる」と特化した機能のメリットを強調した。
水道橋の規模は、S造8階建て延べ1051㎡で客室数は160(男女とも80室ずつ)。「睡眠とシャワーに特化していたが、朝一杯のコーヒーが飲めたらいいなということで、都内のコーヒー店にヒアリングしていたら、評判が高かった」(油井氏)という福岡が拠点のレックコーヒーが1階に都内初の路面店として出店している。