【BIM/CIM改革者たち】小さな改善の積み重ねを大切に NexTerrace 木下 大也氏 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【BIM/CIM改革者たち】小さな改善の積み重ねを大切に NexTerrace 木下 大也氏

 2023年度のBIM/CIM原則化を背景に、現場のデジタル化にかじを切ろうとする建設会社が増えつつある中で「成功体験の積み重ねが出発点」と呼び掛けるのは、北海道で建設ICTスタートアップ企業『NexTerrace(ネクステラス)』を起業した代表の木下大也氏だ。発足から2年で、既に100社を超える企業を下支えしている。「大切なのは現場内できちんと3次元モデルの使い方を決めること」と訴える。

NexTerraceの木下 大也社長


 北大大学院土木工学専攻を修了後、住友金属工業(現日本製鉄)に入社した木下氏は港湾や橋梁の設計・施工に5年ほど従事した。防波堤において波の消波性能と海水交換機能を両立するため、イヤホンのノイズキャンセリング機能のように入ってくる波に対して逆位相の波を生成する構造で特許を取得した際、UNIX版の3次元FEM解析などを活用しながら「いずれ3次元のものづくりが主流になり、建設の進め方も大きく変わる」と考えていた。


◆もっと顧客に寄り添い、チカラになりたい
 ICT関連機器などを販売する商社の岩崎(札幌市)に転職したのは02年。建設CALSが全盛期だった当時、まだ3次元については電子納品のCAD製図基準案の中に将来構想として位置付けられていた。08年から情報化施工が本格化し、国土交通省が12年にCIM試行を打ち出したことを契機に「3次元の機運は一気に高まったが、否定的な企業は少なくなかった。3次元への前向きな意識変化が広がり始めたのはここ2、3年前からではないか」と振り返る。

 CIM試行の時代は基準が定まっていない上にツールも高価で費用対効果が見込めず、受注者には既存のやり方を変える不安もあった。国土交通省が一般化への道筋を整え、基準類の整備も着々と進めてきたことで、建設会社が3次元モデリングを内製化するなど、自らBIM/CIMと向き合おうという流れが出てきた。数多くの企業のBIM/CIMを支援する中で「もっと顧客の近くで現場のデジタル化を後押ししたい」と独立を決めた。

 社名のNexTerraceは次世代に向けた「Next」に、集う場としての「Terrace」と日本語としての“照らす”を掛け合わせ、「現場のわくわくを共有しながら建設業を次のステージへ導きたい」という思いを込めた。現在は北海道にとどまらず、東京に本社を置く大手・準大手ゼネコンとの結びつきも強く、相談があれば全国区で活動している。

建設現場向けのARアプリ『TerraceAR』は3次元モデルを現況に照らし出す


 BIM/CIM原則化が23年度に前倒しされ、建設業にとっては現場の3次元対応が急務になっている。「重要なのは3次元の作り方ではなく、使い方である。目的が定まっていれば、モデルの作り方が決まる。目的が決まっていないから無駄な労力をかけてしまう。できる限り手間をかけず、最大限の効果を生むことが求められる」


◆現場での「気づき」が新たな展開に繋がる
 現場のBIM/CIMを支援する中で発見した新たなアイデアについては、独自ツールとして実用化している。20年11月には建設現場向けのAR(拡張現実)アプリ『TerraceAR』をリリースした。3次元モデルを現況に照らし出すもので、iPhoneやiPadなどの情報端末を現場にかざすと、どのように構造物が配置されるかが確認できる。北海道では、一二三北路(札幌市)が積雪時の現場管理ツールに活用するなど、手軽なARツールとして評判が広がっている。

合図を送る人の姿勢を読み取るAI姿勢検知システム『AI’S』


 こぶし建設(北海道岩見沢市)と共同開発したAI姿勢検知システム『AI’s(アイズ)』も現場目線から生まれた。重機の死角などにAI(人工知能)カメラを取り付けることで、危険などの合図を送る人の姿勢を読み取り、オペレーターに知らせる補助システムとして、現場での実証実験をスタートさせた。熱中症などで体調を崩した作業員の発見や、ベテラン作業員の動作分析など今後の発展性にも期待している。

 国土交通省はBIM/CIM原則化の先を見据え、インフラ分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)にかじを切った。「現場の困りごとを見極め、それをどう改善していくか。BIM/CIMを進めていく上でも同様だが、目的をしっかり持つことが何よりも大切。目の前の小さな改善と、そこで導き出した効果を地道に積み上げていくことが、最終的に建設DXにつながる」と、あくまでも現場目線にこだわる。



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