【記者座談会】建築物省エネ法改正案を国会提出へ/HySTRAが水素サプライチェーン実証 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【記者座談会】建築物省エネ法改正案を国会提出へ/HySTRAが水素サプライチェーン実証

A 今国会への提出が不透明だった建築物省エネ法改正案が提出される見通しとなった。何があったのか。

B 早期の提出と成立を求める住宅業界などの要望を受けた自民党が党内の法案審査プロセスを始め、国会の日程も空いたことで、審議入りする道が開けた。政府は4月中にも閣議決定する見込み。政府が当初予定になかった法案を提出するのは珍しい。

C そもそも、政府はなぜ提出しなかったのか。

D 今国会の会期は6月15日まで。7月に参院選を控えているため、会期末に慌ただしくならないよう、自民党が提出予定法案の絞り込みを要請した。その後の政府内調整で「提出予定」から「検討中」に格下げになった。

A このタイミングで提出の見通しになった背景は。

B ウクライナ情勢に伴うエネルギー価格の高騰で、省エネが強く求められるようになったことが影響した。岸田文雄首相は3月の記者会見で、これまで以上の省エネを国民に呼び掛けている。

C 会期中に成立する可能性はあるか。

D 自民党の世耕弘成参院幹事長は「順調にいけば今国会で成立できる」との見通しを示している。「順調にいけば」と前置きするのは、衆参の国土交通委員会が建設工事受注動態統計調査の不適切処理問題を抱えているため。この問題の行方によっては審議時間を確保できなくなる恐れがあり、楽観視はできない。

B 2050年カーボンニュートラル(CN)の実現に向けては、欧米より遅れている住宅・建築物の脱炭素化が不可欠。さらに、今回の法改正による規制見直しは関連業界への影響が大きい。業界が新たな規制に対応可能な体制を整えるためには、一定の周知期間が必要で、早期の成立が待たれる。

“空想”を現実にする大きな一歩

A ところで、技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)が、日豪サプライチェーン実証事業完遂記念式典を神戸市の液化水素荷役ターミナルで9日に開いたね。

E HySTRAの理事長やNEDOの理事長、HySTRA会員各社の社長、豪州政府関係者らが参加した。岸田首相も駆けつけ、国内での水素輸入・利用に道筋が立ったことを祝った。今後は、豪州と往復し、液化水素のタンクへの搭載量のデータを取るなど30年の商用化に向けて取り組むそうだ。船や施設を大型化しても今回の実証のような結果が得られるかが課題になるだろう。26年までに水素タンクなどの周辺設備の整備や船の設計を完了させる。運搬した水素は、水素発電や火力発電のタービンの動力源に利用していく見通しだ。

A どういう意義があるのか。

F 政府のCN宣言以来、燃焼時にCO2を排出しない水素をエネルギー源に利用する取り組みが各方面で進んでいる。水素を使った資材の開発など企業リリースも増えている。しかし、実際に国内で再生可能エネルギーを使って製造できる水素の量は少なく、水素を各産業が本格利用することになれば、国外からの輸入に頼らざるを得ない。ところが、水素製造技術はおろか、液化水素を輸送する技術も、極低温で貯蔵する技術も開発段階で、需要者側の受入体制も整っていなければ、需要者への水素配送インフラもない。だから実は水素利用はまだまだ“空想の世界”なんだ。

A だからこそ、HySTRAが船舶を使って実際に水素を輸送し、タンク貯蔵できることを証明したのは大きな一歩だ。水素利用社会構築の弾みになったことは間違いない。インフラ整備面で関わる建設業にとっても大きなニュースだろう。

奥が豪州から液化水素を輸送した船舶、右手前は液化水素貯蔵タンク。CN実現への大きな一歩だからこそ岸田首相も式典に出席した

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