【記者座談会】新労務単価/人材採用調査 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【記者座談会】新労務単価/人材採用調査

A 3月から適用となる公共工事設計労務単価が発表されたが、どう見る。

B 全職種平均は昨年度との比較で2.5%の伸び率で、10年連続の上昇となった。新型コロナウイルスの影響を踏まえた低下単価の据え置き措置を今年度も継続したが、適用対象は3分の1に減った。

C 昨年3月の国土交通省と建設業4団体との意見交換に基づいて、業界を挙げて取り組んできた技能者の賃上げ2%目標を上回ったことは評価できる。適切な賃金を支払うことで、積算額が上がるという好循環の実現につながった。

D 水を差すようで悪いが、1990年代後半から悪化の一途をたどってきた技能者全体の処遇がようやく回復してきたに過ぎないのではないか。就業者総数の減少や物価上昇を加味すれば「上がった」と言うより「戻った」と見える。しかも、これが続く保証はどこにもない。

B 悲観的に捉え過ぎる必要はないが、これからが正念場だという意味では同意見だ。2年後には時間外労働の罰則付き上限規制の適用も迫る。週6日稼働やこれまでどおりの拘束時間では対応しきれない部分が必ず出てくる中で、賃上げと働き方改革を両立できるのかという懸念はある。

D 足元の企業決算は安泰とは言えず、再度、下落局面に突入すればまさに「いつかきた道」だ。しわ寄せが現場で働く人に集中することがないような仕組みがいる。

A 確かに労務単価と積算による好循環は良いスキームだが、持続性の観点からはもう一手ほしいね。

C その辺りの思想は建設キャリアアップシステムに通じるところ。人材育成に取り組む企業を評価し、“ピンハネ”企業を退場させるなど競争を適正に行うための環境整備は必要だ。

2年後に時間外労働の罰則つき上限規制の適用が迫り、賃上げと働き方改革の両立が課題(写真はイメージ)

積極的に賃上げ取り組み

A 当社が大手・準大手ゼネコン、建築設計事務所、建設コンサルタント、道路舗装会社、設備工事会社、メーカーを対象に実施した「人材採用調査」で、2022年度の賃上げの実施予定の回答結果がまとまった。

B 公共工事設計労務単価は専門工事業者などに所属する技能者の賃金に関連するが、当社の調査は元請けや設計事務所などに所属する社員の賃金に関するアンケートで、直接的な関係はない。アンケートでは、ゼネコンのほぼ全社が「実施を決めた」「検討中」となった。建設コンサルや道路舗装も同様の傾向がみられた。

C 当社は人材採用調査で2015年以降毎年、次年度の賃上げ予定をアンケートしているが、これだけ「実施を決めた」「検討中」が多いのは、15年の調査以来だ。当時は、13年に安倍晋三元首相が政労使の会議で賃上げを要請し、14年も同じ会議を開いて要請していた。これを受けて各社がベアや初任給を引き上げる動きが続いていたものの、19年度や20年度にはその動きが少し弱まっていた。

B 今回、岸田首相の「成長と分配の好循環」の実現に向けた企業への賃上げ要請がさらなる賃上げのブースターになったと言える。「検討中」が圧倒的に多かったのは、総合評価方式での加点措置の動向を見極めようとした企業が多かったのと、調査した1-2月が労使交渉の真っただ中で回答しづらいという事情がある。早々に賃上げを決めた大林組や鹿島、大成建設は、総合評価の加点措置への対応というより、経済界の主要企業として岸田首相の要請に応えるという意味が大きいだろう。先ほどの話題でも出たが、ゼネコンの受注競争激化が続く中で、総合評価の加点措置への対応によって技能者の処遇にしわ寄せがいくことだけは避ける必要があると思う。

 
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