新会長・斜面インフラマネジメント協会 日下部治氏 | 建設通信新聞Digital

5月1日 木曜日

団体

新会長・斜面インフラマネジメント協会 日下部治氏

【斜面防災の普及に貢献】
 斜面が重要な社会インフラであることを認識してもらい、その適切な維持管理と防災対策の推進を目的に発足した「斜面インフラマネジメント協会」。初代会長に就任した日下部治氏は「やるべき仕事は猛烈に大きい。今までの経験を踏まえて斜面防災に対して貢献していきたい」と強調する。これまで見過ごされてきた分野の防災・減災対策へ産官学をつなぐ存在として、新協会が新たな一歩を踏み出した。--現状の課題は
 「2012年の笹子トンネル天井板落下事故を契機にインフラメンテナンスの重要性が定着し、点検が進んできた。一方、斜面がインフラとして認識されていない現実がある。道路延長から推定できるのり面の面積は膨大だが、そのデータがまずない。適切なマネジメントをしていくためには、橋梁などのようにメンテナンス対象施設として法令に記載され、その上でデータを集めていくことが不可欠だ」
--協会の活動方針は
 「斜面の維持管理についての情報が足りていない。斜面インフラマネジメント協会の前身である斜面維持補修施工技術研究会が開いた講習会には延べ2400人の参加があった。情報を収集するとともに実際に現場で働いている人たちの事例報告会を開きたい。加えてニュースレターを通じた外部への情報発信を始める。協会の活動、事例紹介、新技術などを広く提供する」
 「他団体との連携も重要な役割だ。のり面を構造物として見ればコンクリートだが、その裏にある地盤や地質が維持管理に大きく影響する。地盤や地質関係の団体と一緒に仕事を進める必要があるほか、調査の観点からは国土技術政策総合研究所や土木研究所、防災科学技術研究所など国の研究機関の力を借りる場合もありそうだ。各者と連携しながら、適切なインフラマネジメントに導いていきたい」
--新技術への期待は
 「AI(人工知能)を使った画像判定やドローンの活用などの各社の取り組みは重要だ。のり面の工事は非常に大変で、担い手が少なくなっている。規模の大きい企業を中心に遠隔化や無人化に取り組んでほしい。また、気象予測精度の向上にも注目している」
--将来展望は
 「講習会に参加した延べ2400人をはじめ、携わる人材を育てていく必要がある。また、技術者と同時に地方自治体などの発注者の理解も不可欠だ。予算措置も当然必要になる中で、お金もない、人もいないとなった時にどうするのか。みんなで知恵を出していくしかない」
 「斜面インフラのデータベース整備に向けては、各都道府県などで保有している情報を整理するためのフォーマットづくりの手伝いをしたい。国の力も借りながら5年をめどに実現し、上位の道路プラットフォームなどで活用してもらえるようにしたい」

*    *
 (くさかべ・おさむ)1975年東工大(現東京科学大)大学院理工学研究科土木工学専攻修了後、同年同大助手。96年同大教授、2011年同大名誉教授、同年茨城工業高等専門学校校長、16年同校名誉教授、同年筑波大特命教授、長岡科学技術大特任教授などを歴任。学会活動では土木学会副会長をはじめ、地盤工学会会長、日本工学会監事、国際地盤工学会理事、アジア土木学協会連合協議会会長、国際圧入学会会長など国内外で要職を務め、土木工学を長年にわたってリードしてきた。
◆記者の目
 「この年齢でこんな大きな仕事を引き受けるべきかどうか戸惑った」と話すが、土木工学の大家に寄せられる周囲の期待は大きい。協会の設立記念式典には国土交通省や大学、研究機関の関係者らが多数列席し、日下部会長の言葉に耳を傾けていた。「世の中のためになれば」という真っすぐな思いで斜面インフラの確立に先鞭(せんべん)をつける。