東洋建設が、建築工事の監理者検査をクラウド上で情報共有する取り組みにチャレンジしている。オートデスクが提供する建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』の施工管理ソリューション『Build』を基盤に置く先導的な試みだ。検査へのBuild活用に挑むDX(デジタルエクスペリエンス)デザイングループ長の前田哲哉建築事業本部設計部部長は「現場実証を積み重ねながら、クラウドによる検査の新たなワークフローを確立したい」と力を込める。
建築プロジェクトにおける同社のクラウド活用は2016年にさかのぼる。ACCの前身となるA360をプラットフォームに位置付け、本格的BIM案件として取り組んだ医療器具メーカーの大型工場プロジェクトで、設備工事会社や鉄骨ファブリケーターなどとモデルデータを共有する基盤として活用したのが出発点となった。
社内では03年からBIMソフト「Revit」をCGモデリングツールとして活用したことをきっかけに設計ツールとしても導入に踏み切り、現在は設計職の全てがRevitを活用できる環境を整え、若手を中心に活用が拡大している。デザインレビューのワークフローも確立し、19年からはプラットフォーム上で密な情報共有を進めている。
大谷健司設計部部長は「DXデザイングループが社内の要望を反映してACCの活用基盤を整えている。この流れが施工部門にも広がってきた」と説明する。デザインレビューでのACC活用が定着したことがきっかけとなり、施工部門では2年前からBIM調整会議での指摘事項にかかわる部分の業務フローを整え、ACC上で工事関係者が情報を共有する枠組みに切り替えた。
設計施工案件については全現場でACC上にプロジェクト単位のフォルダーが作成され、図面類をはじめ、関連情報を個別に格納しており、工事関係者にアクセス権限を与え、クラウド環境で情報共有を進めている。ACCには発注者もアクセスでき、そこで図面承認も行っている。これまで現場は関係者とメールでやり取りしてきたが、現在はACC上で連絡する流れが定着し、リアルタイムに関係者が情報をやり取りし合う流れに変わった。
前田氏が「われわれが現場の下支え役となり、ACC上に現場のコミュニケーション基盤を構築している」と説明するように、社内ではプロジェクトが立ち上がった際、DXデザイングループがACC上に情報共有環境を整備する。今では週1ペースで開いているグループの会議はBuildの中にあるミーティング機能をフル活用している。
DXデザイングループでACC活用の中心的な役割を担う北祐一郎氏は「議事録の作成にとどまらず、過去の履歴管理も簡単にできるため、現場管理の円滑化につながる」と考えている。最前線の現場担当にとっては日々の煩雑な書類作成や整理の手間が大幅に省けることから、定例会議でもBuild活用を検討しており、ACC導入を機に現場の情報共有の在り方も大きく変わろうとしている。
前田氏は「新たなチャレンジとして検査への導入にも踏み込む」と強調する。今年に入り、既に2現場で監理者検査の情報共有をACC上で進めてきた。DXデザイングループの仲村拓馬氏は「課題抽出を目的に従来の検査と並行した取り組みとなったが、既に現場担当からは省力化を期待できるとの声も得ている」と説明する。
12月から完了検査を控えている保管倉庫プロジェクトは、監理者検査にBuildを本格活用するトライアル現場として動き出そうとしている。