◇経済活性化を期待も環境面に不安
A 米国大統領選が終わり、トランプ氏が4年ぶりに大統領に就任することが決まった。景気や日本の建設業への影響はどうなるかな。
B ある国内デベロッパーの社長は、トランプ大統領の下で経済政策が実行されればインフレがさらに進むとみている。そうすればさらに円安も進むため、円安効果で日本へのインバウンドが伸びると予想しているよ。
C ただ、当然円安はメリットだけではない。原油価格の上昇に伴う資材価格の高騰を警戒している会社もあるようだ。
B 複数社の幹部に聞いた話では、米国内の景気は良くなるだろうという見方が一般的だね。とはいえ、米国では住宅不足や建設業の人手不足が課題だ。トランプ大統領は不法移民対策を強く進めたいようだけど、米国の建設労働者に占める移民の割合は無視できるものではない。人手不足がさらに加速し、プロジェクトの停滞を招く恐れもあるのではないか。
C それに、大きな懸念点は環境政策だね。トランプ大統領は前回の就任期にパリ協定から脱退している。バイデン政権で復帰したものの、再任を機に再脱退も考えているようだ。「人類の活動が地球温暖化を促進している」ということにさえ否定的な意見を持っている人だからね。
D ここまで進展してきた2050年カーボンニュートラルの世界的潮流が米国の転換だけで一気に変わるとは思えないが、少なくとも全世界での目標達成は厳しくなるかもしれない。
B 政策には化石燃料の生産拡大なども掲げているけど、水素、洋上風力といったグリーンエネルギーの発展に向けた動きに水を差すことだけは避けてほしい。
◇LCA制度化へ議論スタート、誘導策先行か
A トランプ政権の動向にも関連するけれど、日本国内では「建築物のライフサイクルカーボン削減に関する関係省庁連絡会議」が発足した。
D 建築物のライフサイクルカーボンを巡っては、不動産協会による「建設時GHG排出量算出マニュアル」の策定を皮切りに、建設時に排出するカーボンの量を算出するためのツールづくりが進み、住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)が建築物のライフサイクルカーボンを算出する「J-CAT」の正式版を公開した。
E 関係省庁連絡会議では、建築物のライフサイクルカーボンの削減に向けた基本構想を策定するほか、GX(グリーントランスフォーメーション)政策や金融分野との連携方策などを24年度内に整理する。
F それだけではなく、カーボンの排出量や大気汚染、地下水汚染なども含めた建築物の建設から解体までのライフサイクルが環境に与える影響を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)の制度化に向けた議論を始める点にも注目している。
A 欧州では、一定規模以上の新築建築物でのライフサイクル全体の温室効果ガスの影響を算定・開示するよう28年から義務付けられる。
F 欧州が先行しているように見えるけど、EU(欧州連合)加盟国の中では温度差がある。環境先進国ではすぐに対応するだろうが、それ以外はなかなか難しいようだ。“義務化”が先行しすぎている印象がある。
E 日本では、まず義務化という方向には動かないだろう。LCAの実施を補助金の採択要件にするといった誘導策から進む可能性が高いだろう。
F 欧州も日本も、建築物のLCA実施に向けて前進していることは間違いない。トランプ政権が本当にパリ協定から脱退して世界的な取り組みが鈍化したとしても、日本は歩みを止めてはならない。